<音楽/オーディオの世界がそうであるように、映像においてもアナログと超ハイレゾの二極化が進む。つくり手は、そのどちらか(あるいは両方)でやっていく覚悟が必要かもと思った矢先、帰り道に中藤毅彦さんに偶然会って、ときの忘れもので開催中の銀塩写真展を拝見。なんだか癒された。>
(安達ロベルトさんのtwitterより)

現在開催中の「銀塩写真の魅力 V展」には、お客様はじめ出品作家の皆さんも連日来廊されています。会場が狭いので、お一人一点または二点という出品で、ちょっと心苦しいのですが、たくさんの作品と比べることにより、それぞれの個性と魅力が引き立つのも事実です。
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左から、中里和人さん、中藤毅彦さん、亭主。

さて本日は百瀬恒彦作品のご紹介です。

百瀬恒彦は、1947年長野県に生まれ、武蔵野美術大学商業デザイン科を卒業。在学中から現在に至るまで世界各地を旅行し、風景でありながら人間、生活に重きを置いた写真を撮り続けています。
これまでにマザー・テレサや俳優、女優など各界著名人の肖像写真や、「刺青」をテーマに撮り、和紙にモノクロプリントして日本画の顔料で着彩した作品を制作するなど、独自の写真表現の世界を追及、展開しています。

百瀬恒彦_抱擁和紙_600出品No.24)
百瀬恒彦
「抱擁」
1997
Gelatin Silver Print(和紙)
23.3x32.3cm
Signed


百瀬恒彦_恋人和紙_600出品No.25)
百瀬恒彦
「恋人」
1997
Gelatin Silver Print(和紙)
23.5x32.3cm
Signed


セーヌ河の辺とサンジェルマンで撮影された二組の恋人達。
「ただ人を撮ろうと思ってパリをぶらぶらして、たまたま居た恋人達を撮っただけだよ」
百瀬さんはそう説明しますが、リラックスしている恋人たちの様子を見事に捉えています。恋人たちの幸せそうな表情は観ている方の心まで穏やかにさせ、ふと、今頃彼らはどうしているのかな?と思いを馳せてしまいます。

和紙へのプリントということもあり、同じイメージをバライタ紙にプリントしたものとは印象がだいぶ違います(鳥取絹子のエッセイ第10回を参照)。
また、「抱擁」の左上には葉脈が写っています。これは枯れ葉の繊維だけを残して印画紙の上に置き感光させたそうです。
百瀬さん曰く、「遊んでみたの」。

お会いした方はお分かりだと思いますが、百瀬さんとお話をしていると緊張がするするとほどけていきます。そういう不思議なパワーがあるからこそ、人々の何気なくそれでいて幸福感漂う写真が撮れるのかも知れません。

今年の4月にときの忘れもので開催した「百瀬恒彦写真展―無色有情」に寄せて、百瀬夫人の鳥取絹子さんに12回に亘るエッセイ「百瀬恒彦の百夜一夜」を綴っていただきました。こちらもどうぞご覧ください。

●来月、渋谷区神宮前にあるプロモ・アルテ ギャラリーで「百瀬恒彦 写真展」が開催されます。
出品作品など詳細はまだ公開されていないようですが、会期は9月25日(木)~9月30日(火)までです。是非お運びください。

百瀬恒彦 Tsunehiko MOMOSE(1947-)
1947年長野県生まれ。武蔵野美術大学商業デザイン科卒。在学中から、数年間にわたってヨーロッパや中近東、アメリカ大陸を旅行。卒業後、フリーランスの写真家として個人で世界各地を旅行、風景より人間、生活に重きを置いた写真を撮り続ける。1991年・東京「青山フォト・ギャラリー」にて、写真展『無色有情』を開催。モロッコの古都フェズの人間像をモノクロで撮った写真展 。タイトルの『無色有情』は、一緒にモロッコを旅した詩人・谷川俊太郎氏がつける。1993年・紀伊国屋書店より詩・写真集『子どもの肖像』出版(共著・谷川俊太郎)。
作品として、モノクロのプリントで独創的な世界を追及、「和紙」にモノクロプリントする作品作りに取り組む。この頃のテーマとして「入れ墨」を数年がかりで撮影。1994年11月・フランス、パリ「ギャラリー・クキ」にて、写真展『TATOUAGES-PORTRAITS』を開催。入れ墨のモノクロ写真を和紙にプリント、日本画の技法で着色。1995年2月、インド・カルカッタでマザー・テレサを撮影。以降国内外を問わず多数の写真展を開催。