野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」 第19回
新作構想
もう2月、早いものですね。
すみません、東松先生の助手時代の話は記憶を辿って書くのに時間がかかるもので、バタバタ作品制作していると時間が無いもので、またまとまったら掲載させて頂きます。
次の目標はゴールデンウィーク中に大阪のNii Fine Artsさんで二年ぶりの個展を開催させて頂くので、それに向けての新作制作に取り組んでいます。
いつものように毎日新作の構想をしてますが、真新しいイメージなんていうのはたまにしか出ないもので、なかなかまとまらないです。
この間制作した4mの大作「Landscape#35-洛中洛外図-」がすごく細かく時間もかかったので、今は出来る限り無駄の省かれたような、シンプルな空と海だけみたいな風景作品作りたいなという気分です。

野口琢郎
「Landscape#35-洛中洛外図-」
ただ、無駄を省くというのは簡単ではなく、まず何が無駄なのかを知る為にはやはり時間も経験も必要なようで、、
無駄を省いたつもりが大事なものまで失くしてしまって何の味わいも無いものになってしまったり、それを意識し過ぎたせいで自由を失ってもダメなので、結局はそっちの方を向きながらもあまり意識せず、時々必然的に見えた無駄を省く、その積み重ねがいいのだと思っています。
ただ、作家を始めてまだ16年位ではありますが、16年作ってきた中で3回位だけ、モグラたたきの穴の中から首を出せたなって時はありました。
何か意味不明ですみませんが、、前の作品があって、今作っている作品がある、そこにも小さな進化というか、一瞬見える新しい景色はあるのですが、穴の中から首を出せたっていうのは、今までチラチラ見えそうで見えなかった景色が、首を出してちゃんと見えたような、今までなかった新しい作品ができた時の事です。
そんな時は特別に嬉しいもので、無駄を省けたという面で新しい景色を見る事ができた、そう思えた唯一の作品が、暗闇の海を飛ぶ2羽の鳥を描いた2010年作「向こうへ」でした。2012年のときの忘れものさんでの初個展の時に展示していた作品です。
この作品は幅227cmある大作ですが、集中して一気に仕上げる制作方法なので、一晩、約10時間で完成しました。
もちろんそこまで辿り着く構想には時間がかかっているのですが、技法はパネルの画面全体に漆を塗り、全面に銀箔を押し、針や竹串でひたすら引っ掻いて星、鳥、波を残し、引っ掻いた所には漆が露出するので、そこへ石炭の粉末をぶっかけて飛ばして硬化させれば出来上がりというもので、思いついてすぐぶっつけ本番でやってみたら今までの作品とは違った良い作品になりました。

野口琢郎
「向こうへ」
2010年
箔画(木パネルに漆、金・銀・プラチナ箔、石炭)
130.0x227.0cm
サインあり
この作品が完成してからもう5年半経ちましたが、残念ながら今だに自分の最高傑作はこの作品だと思っています。
何故時間が経ってもこの作品が特別なのか、それは自分の中の感覚だけの事なのだと思いますが、普段の制作はコツコツ箔を押して作る作業なので、一応絵画作品を制作しているのに、いわゆる「描く」という感覚ではなく「作っている」だったのが、この「向こうへ」に関しては引っ掻いて引っ掻いて、描いている感覚があったんですね。
そして、短時間にもの凄く集中力を高め、冷静でありながら感情もぶつけた、ある意味即興的な作品だったからなのだと思います。
その後も似たような制作方法をした作品はあるのですが、この作品が始まりだったという面も特別なのだと思います。
向こうへ制作途中
この間の大作「Landscape#35-洛中洛外図-」も最高傑作ではありますが、あれは毎日コツコツと箔押しを進めて2ヶ月半程もかかり、その内容も制作方法もすべて正反対のような作品なので、この2作品が現段階での私の代表作品と言えると思います。
ただ、モノ作りの道は遠く長く、やっとモグラたたきの穴の中から首を出して新たな世界を見る事ができたと思っても、空を見たらまた穴があって、また次の景色を見たくて、必死で顔を出しての繰り返しのように感じます。
しかし、モグラたたきだとするなら、モグラを叩いているのは誰なのかと考えてみると、それも自分自身なのかもしれません。
もっと素晴らしい作品ができるはず、そんな自分の可能性を信じるのも諦めてしまうのも自分自身、毎日自分と向き合って、どんだけシバかれても頭出していかんと、新たな景色は見えないのだろうと思います。
ま、だいたい毎日頭シバかれただけで終わりますが、1日終わってからビールでも飲んで元気だしてまた明日がんばる、そうやって続けていく事が大事ですね。
(のぐち たくろう)
■野口琢郎 Takuro NOGUCHI(1975-)
1975年京都府生まれ。1997年京都造形芸術大学洋画科卒業。2000年長崎市にて写真家・東松照明の助手に就く。2001年京都西陣の生家に戻り、家業である箔屋野口の五代目を継ぐため修行に入る。その後も精力的に創作活動を続け、2004年の初個展以来毎年個展を開催している。
●今日のお勧め作品は、野口琢郎です。

野口琢郎
「Quiet hope」
2014年
箔画(木パネル、漆、金・銀箔、石炭、樹脂、透明アクリル絵具)
42.5x91.0cm
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。
新作構想
もう2月、早いものですね。
すみません、東松先生の助手時代の話は記憶を辿って書くのに時間がかかるもので、バタバタ作品制作していると時間が無いもので、またまとまったら掲載させて頂きます。
次の目標はゴールデンウィーク中に大阪のNii Fine Artsさんで二年ぶりの個展を開催させて頂くので、それに向けての新作制作に取り組んでいます。
いつものように毎日新作の構想をしてますが、真新しいイメージなんていうのはたまにしか出ないもので、なかなかまとまらないです。
この間制作した4mの大作「Landscape#35-洛中洛外図-」がすごく細かく時間もかかったので、今は出来る限り無駄の省かれたような、シンプルな空と海だけみたいな風景作品作りたいなという気分です。

野口琢郎
「Landscape#35-洛中洛外図-」
ただ、無駄を省くというのは簡単ではなく、まず何が無駄なのかを知る為にはやはり時間も経験も必要なようで、、
無駄を省いたつもりが大事なものまで失くしてしまって何の味わいも無いものになってしまったり、それを意識し過ぎたせいで自由を失ってもダメなので、結局はそっちの方を向きながらもあまり意識せず、時々必然的に見えた無駄を省く、その積み重ねがいいのだと思っています。
ただ、作家を始めてまだ16年位ではありますが、16年作ってきた中で3回位だけ、モグラたたきの穴の中から首を出せたなって時はありました。
何か意味不明ですみませんが、、前の作品があって、今作っている作品がある、そこにも小さな進化というか、一瞬見える新しい景色はあるのですが、穴の中から首を出せたっていうのは、今までチラチラ見えそうで見えなかった景色が、首を出してちゃんと見えたような、今までなかった新しい作品ができた時の事です。
そんな時は特別に嬉しいもので、無駄を省けたという面で新しい景色を見る事ができた、そう思えた唯一の作品が、暗闇の海を飛ぶ2羽の鳥を描いた2010年作「向こうへ」でした。2012年のときの忘れものさんでの初個展の時に展示していた作品です。
この作品は幅227cmある大作ですが、集中して一気に仕上げる制作方法なので、一晩、約10時間で完成しました。
もちろんそこまで辿り着く構想には時間がかかっているのですが、技法はパネルの画面全体に漆を塗り、全面に銀箔を押し、針や竹串でひたすら引っ掻いて星、鳥、波を残し、引っ掻いた所には漆が露出するので、そこへ石炭の粉末をぶっかけて飛ばして硬化させれば出来上がりというもので、思いついてすぐぶっつけ本番でやってみたら今までの作品とは違った良い作品になりました。

野口琢郎
「向こうへ」
2010年
箔画(木パネルに漆、金・銀・プラチナ箔、石炭)
130.0x227.0cm
サインあり
この作品が完成してからもう5年半経ちましたが、残念ながら今だに自分の最高傑作はこの作品だと思っています。
何故時間が経ってもこの作品が特別なのか、それは自分の中の感覚だけの事なのだと思いますが、普段の制作はコツコツ箔を押して作る作業なので、一応絵画作品を制作しているのに、いわゆる「描く」という感覚ではなく「作っている」だったのが、この「向こうへ」に関しては引っ掻いて引っ掻いて、描いている感覚があったんですね。
そして、短時間にもの凄く集中力を高め、冷静でありながら感情もぶつけた、ある意味即興的な作品だったからなのだと思います。
その後も似たような制作方法をした作品はあるのですが、この作品が始まりだったという面も特別なのだと思います。
向こうへ制作途中この間の大作「Landscape#35-洛中洛外図-」も最高傑作ではありますが、あれは毎日コツコツと箔押しを進めて2ヶ月半程もかかり、その内容も制作方法もすべて正反対のような作品なので、この2作品が現段階での私の代表作品と言えると思います。
ただ、モノ作りの道は遠く長く、やっとモグラたたきの穴の中から首を出して新たな世界を見る事ができたと思っても、空を見たらまた穴があって、また次の景色を見たくて、必死で顔を出しての繰り返しのように感じます。
しかし、モグラたたきだとするなら、モグラを叩いているのは誰なのかと考えてみると、それも自分自身なのかもしれません。
もっと素晴らしい作品ができるはず、そんな自分の可能性を信じるのも諦めてしまうのも自分自身、毎日自分と向き合って、どんだけシバかれても頭出していかんと、新たな景色は見えないのだろうと思います。
ま、だいたい毎日頭シバかれただけで終わりますが、1日終わってからビールでも飲んで元気だしてまた明日がんばる、そうやって続けていく事が大事ですね。
(のぐち たくろう)
■野口琢郎 Takuro NOGUCHI(1975-)
1975年京都府生まれ。1997年京都造形芸術大学洋画科卒業。2000年長崎市にて写真家・東松照明の助手に就く。2001年京都西陣の生家に戻り、家業である箔屋野口の五代目を継ぐため修行に入る。その後も精力的に創作活動を続け、2004年の初個展以来毎年個展を開催している。
●今日のお勧め作品は、野口琢郎です。

野口琢郎
「Quiet hope」
2014年
箔画(木パネル、漆、金・銀箔、石炭、樹脂、透明アクリル絵具)
42.5x91.0cm
サインあり
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◆野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。
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