藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」第13回
「土木」、と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。ダム、堤防、橋梁工事。身近なようなあまり馴染みのないような、そんな言葉かもしれません。そんな「土木」の仕事を楽しく紹介する展覧会が、21_21 DESIGN SIGHTで開かれています。その名も、《土木展》。
開催期間がちょうど夏休みということもあって、子供も楽しめる展示になっており、実際子供連れの観客も多く見かけました。筆者も、幼い頃に重機好きの兄と一緒に近所の工事現場を見に出かけたことや、部屋の片隅にショベルカーの運転室を再現したことを思い出し、ワクワクました。
展示物のマンホールから顔を出す。
「工場萌え」という言葉はすっかり市民権を獲得し(wikipediaにも登録されていました)、軍艦島こと端島の炭鉱跡も人気を誇っています。端島を含む明治日本の産業革命遺産が世界遺産に登録されたことも記憶に新しいです。スケールの大きな「土木的なもの」に惹かれる気持ちは、誰もが少なからず持っているといえるでしょう。展示にはそんな心をくすぐるように、壁面一杯のプロジェクションや写真、等倍の土管や左官仕事の作品などが並びます。メディアアートのような作品もありましたが、土木の仕事を分かりやすく表現する、という意図がよく伝わりました。ディレクターである西村浩氏の前文にあったように、土木の仕事を「ビジュアライズする」ことには成功しているといえます。しかしそれだけに、筆者が関わるアーカイブ資料の展示とは、大きく手法が異なるなとも感じました。
その違いが一番顕著なのは、「土木と哲学」セクションにある永大橋設計図の複製展示です。この作品は「BLUE WALL」と題されており、永大橋設計図青図が壁一杯に並べられています。構造の図面は1枚で理解することは難しく、複数の図面を展示し解説することは必要です。しかし、ここでは個々の図面に対する説明はなく、図面というモノの量を「青の壁」という面でみせる作品となっていました。確かに、単純に物量をみせる展示が必要なこともあります。青い壁もなかなかの迫力です。そして、図面というのは単に柄としても、並べるとなかなかカッコよく見えるものでもあります。ただし、これをアーカイブ資料として展示するためには、こういうわけにはいきません。アーカイブそのものは、モノの堆積です。そしてその量を見せるだけでも、迫力を持ちます。しかし、それだけではモノ自体は何も意味をもちません。アーカイブの魅力は、その一見無価値なモノの羅列の中から、どのような発見ができるか、というところにあるのです。その発見はひとつの小さな事実であることもあれば、大きな歴史の物語であることもあります。アーカイブ資料を展覧会という場でみせるためには、モノとしてではなく、その解釈・発見と共に、発見の可能性があることを伝えることが大切でしょう。そもそも、アーカイブ資料自体が、あらゆる人にとって大切な価値を持つ可能性は極めて低いものです。国会図書館の本の殆どが誰の目にも触れられることなくひっそりと保管され続けているように、アーカイブ資料も必要な人にしか価値は発見できません。であるからこそ、その資料を広く一般に公開する際には、その魅力を伝える方法は丁寧に考えられなければならないはずです。
随分と話が逸れてしまいましたが、以上のようなことまで考えさせられ、よい体験となりました。
ショップにも足止めされること間違いなしですよ。
《土木展》9月25日まで、21_21 DESIGN SIGHTにて開催中↓
http://www.2121designsight.jp/program/civil_engineering/
(ふじもと たかこ)
■藤本貴子 Takako FUJIMOTO
磯崎新アトリエ勤務のち、文化庁新進芸術家海外研修員として建築アーカイブの研修・調査を行う。2014年10月より国立近現代建築資料館研究補佐員。
●今日のお勧め作品は、渡辺貴子です。
渡辺貴子
「untitled"(12)」
2010年
ひもづくり
H38.0×W12.0×D11.0cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は毎月22日の更新です。
「土木」、と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。ダム、堤防、橋梁工事。身近なようなあまり馴染みのないような、そんな言葉かもしれません。そんな「土木」の仕事を楽しく紹介する展覧会が、21_21 DESIGN SIGHTで開かれています。その名も、《土木展》。
開催期間がちょうど夏休みということもあって、子供も楽しめる展示になっており、実際子供連れの観客も多く見かけました。筆者も、幼い頃に重機好きの兄と一緒に近所の工事現場を見に出かけたことや、部屋の片隅にショベルカーの運転室を再現したことを思い出し、ワクワクました。
展示物のマンホールから顔を出す。「工場萌え」という言葉はすっかり市民権を獲得し(wikipediaにも登録されていました)、軍艦島こと端島の炭鉱跡も人気を誇っています。端島を含む明治日本の産業革命遺産が世界遺産に登録されたことも記憶に新しいです。スケールの大きな「土木的なもの」に惹かれる気持ちは、誰もが少なからず持っているといえるでしょう。展示にはそんな心をくすぐるように、壁面一杯のプロジェクションや写真、等倍の土管や左官仕事の作品などが並びます。メディアアートのような作品もありましたが、土木の仕事を分かりやすく表現する、という意図がよく伝わりました。ディレクターである西村浩氏の前文にあったように、土木の仕事を「ビジュアライズする」ことには成功しているといえます。しかしそれだけに、筆者が関わるアーカイブ資料の展示とは、大きく手法が異なるなとも感じました。
その違いが一番顕著なのは、「土木と哲学」セクションにある永大橋設計図の複製展示です。この作品は「BLUE WALL」と題されており、永大橋設計図青図が壁一杯に並べられています。構造の図面は1枚で理解することは難しく、複数の図面を展示し解説することは必要です。しかし、ここでは個々の図面に対する説明はなく、図面というモノの量を「青の壁」という面でみせる作品となっていました。確かに、単純に物量をみせる展示が必要なこともあります。青い壁もなかなかの迫力です。そして、図面というのは単に柄としても、並べるとなかなかカッコよく見えるものでもあります。ただし、これをアーカイブ資料として展示するためには、こういうわけにはいきません。アーカイブそのものは、モノの堆積です。そしてその量を見せるだけでも、迫力を持ちます。しかし、それだけではモノ自体は何も意味をもちません。アーカイブの魅力は、その一見無価値なモノの羅列の中から、どのような発見ができるか、というところにあるのです。その発見はひとつの小さな事実であることもあれば、大きな歴史の物語であることもあります。アーカイブ資料を展覧会という場でみせるためには、モノとしてではなく、その解釈・発見と共に、発見の可能性があることを伝えることが大切でしょう。そもそも、アーカイブ資料自体が、あらゆる人にとって大切な価値を持つ可能性は極めて低いものです。国会図書館の本の殆どが誰の目にも触れられることなくひっそりと保管され続けているように、アーカイブ資料も必要な人にしか価値は発見できません。であるからこそ、その資料を広く一般に公開する際には、その魅力を伝える方法は丁寧に考えられなければならないはずです。
随分と話が逸れてしまいましたが、以上のようなことまで考えさせられ、よい体験となりました。
ショップにも足止めされること間違いなしですよ。
《土木展》9月25日まで、21_21 DESIGN SIGHTにて開催中↓
http://www.2121designsight.jp/program/civil_engineering/
(ふじもと たかこ)
■藤本貴子 Takako FUJIMOTO
磯崎新アトリエ勤務のち、文化庁新進芸術家海外研修員として建築アーカイブの研修・調査を行う。2014年10月より国立近現代建築資料館研究補佐員。
●今日のお勧め作品は、渡辺貴子です。
渡辺貴子「untitled"(12)」
2010年
ひもづくり
H38.0×W12.0×D11.0cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は毎月22日の更新です。
コメント