展覧会直前連載:「和紙に挑む」(全4話)
第4話 都市の質感を描く
光嶋裕介(建築家)
幻想都市風景をモチーフにドローイングを描くことを、ライフワークにしたいと思っている。少年時代から絵描きになりたかった建築家として、手を動かしながら物事を考えることは、旅に出てスケッチするように、建築設計とは別の大切なトレーニングのようなものであり、ドローイングを描くことは、ごくごく当たり前のことなのである。
架空の街の風景を想像することで、創造力の解像度を上げ、なにかをつくることの意味を多角的にとらえたい、と考えている。そもそも、建築家は現場において、多くの人とコラボレーションすることで常に「集団的創造力」を必要とする職業だ。しかし、ドローイングを描いている瞬間だけは、個として、孤独と向き合いながら、自分の美的感覚と創造力だけを頼りに創作することができる。ドローイングを描いている時だけは、決定的に一人になれるのだ。誰になにを言われることもなく、ただただ、自分自身と向き合う大事な時間。
このたび、和紙に描く幻想都市風景に「実在する都市を描く」というコンセプトを追加した。建築批評家で編集者である植田実先生の助言を受けたのが、きっかけである。実際の建築を私の描く幻想都市のなかに溶け込ますことで、ドローイングに新たな表情を与えられるのではないか、と考えた。
まずは、四年間住んでいた街、ベルリンを描いてみた。雲のような、大地のような、予期せぬ形で混ざり合う白黒の和紙のなかに、古典主義の建築家シンケルを、モダニストのミースを、シャローンのフェルハーモニーを描き込んでいく。思いが赴くままにペンを進めていく。ひとつの建築を描き、余白との関係性を考慮しながら、次の建築を描き足していく。直感的に全体のバランスを意識しながらジャズのインプロビゼーション(即興)のようにして、ドローイングを描いていく。現実と幻想の狭間を彷徨いながら、独特な質感が獲得されていく。それは、建築群によって立ち上がる空間の質感のようなもの。
私は、ベルリンへと思いを馳せて、ペンを進めていき、続けて、ニューヨーク、パリ、バルセロナ、ローマ、京都と6つの都市空間を描くことができた。それぞれの都市に街に漂う空気を、私の描くドローイングにも漂わせたいと考えている。私の個人的な旅の記憶を種子にして、描かれていったドローイングが、作品を見た鑑賞者によって更に新しい記憶と結びつき、感情を刺激するようなことができれば、それは建築家冥利に尽きる。なぜ描くのか明確には言語化できなくとも、建築家としてドローイングを描き続けたいと考えており、より強い発信力を獲得するために、こうして新作展を開催できる喜びを胸に、しっかりと持続できればと考えている。
光嶋裕介
「バルセロナ」(部分)
光嶋裕介
「ローマ」(部分)
最後にこのような作品発表の素敵な場を提供してもらっている画廊主の綿貫ご夫妻とサポートして頂いているスタッフの皆さんに深く感謝の気持ちを伝えたい。1998年に、18歳の建築学科一年生としてふらっと入った安藤忠雄展を見て以来、通ってきたこの「ときの忘れもの」で個展ができることは、まるで夢のようであり、強く背中を押してもらっている。そうした多くのご恩とご縁に対して、少しでも恩返しができるように、建築家として精進して参りたいと思っている。ひとりでも多くのひとに、この和紙に描かれたドローイングを体験してもらいたい。
(こうしま ゆうすけ)
●光嶋裕介さんと松家仁之さんのサイン本
本日、光嶋裕介さんと松家仁之さんのギャラリートークを開催します。
定員に達したためご予約は締め切りましたが、お二人のご著書にサインを入れていただき画廊にて販売いたします。
是非ご注文ください。
光嶋裕介
『これからの建築 スケッチしながら考えた』著者サイン本
2016年
ミシマ社 発行
248ページ
18.7x13.0cm
1,800円(税別、送料別途)
街、ターミナル、学校、橋、ライブ空間、高層建築…
過去と未来をつなぐ、豊かな空間。
その手がかりを全力で探る!(本書帯より)
目次:
・プロローグ 建築家として働くこと
・第一話 大工の言葉
・第二話 街の見た目
・第三話 蔵としての家
・エッセイ1 音楽のある部屋
・第四話 空間のなかの移動
・第五話 芸術の文脈と身近さ
・第六話 地域に開く学校
・エッセイ2 風景と対話するスケッチ
・第七話 人々が行き交う場所
・第八話 高層建築の新しい挑戦
・第九話 世界を結界する橋
・エッセイ3 軸線の先にある象徴的な建築
・第十話 広い芝生とスポーツの巨大建築
・第十一話 総合芸術としてのライブ空間
・エピローグ 生命力のある建築
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光嶋裕介
『幻想都市風景 建築家・光嶋裕介ドローイング集』著者サイン本
2012年
羽鳥書店 発行
144ページ
18.8x13.2cm
テキスト:内田樹、光嶋裕介
袋とじ製本
2,900円(税別、送料別途)
内田樹邸「凱風館」(道場兼住宅)を設計した建築家・光嶋裕介のドローイング集。旅のスケッチと地平線で続く記憶の風景はやがて処女作「凱風館」へと繋がる。
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光嶋裕介
『みんなの家。建築家一年生の初仕事』著者サイン本
2012年
アルテスパブリッシング 発行
232ページ
18.8x13.0cm
スペシャル鼎談「凱風館へようこそ」:井上雄彦(漫画家)×内田樹(施主)×光嶋裕介
価格:1,800円(税別、送料別途)
当代きっての論客・内田樹さんが自宅兼道場兼能舞台=凱風館の設計を依頼したのは、まだ一軒の家を丸ごと手がけた経験のない新米建築家。この大仕事に、京都の杉と土、岐阜の檜、淡路島の瓦などの天然素材と、一流の腕をもつ匠たちとのチームで挑んだ若き建築家が竣工までを綴っています。
ほんとうにひさしぶりに「日本の青年」が書いた本である。
イノセントな好奇心と冒険心に駆動された「彼のアイディア」を実現するために、建築家はうるさがたの職人やビジネスマンの懐に入り込み、タフな交渉をし、重いがけない妥協案を提示する。その力業のひとつひとつを通じて、彼は確実に成熟への階梯をのぼり、社会的な実力をつけ、世界を語る新しい語彙を獲得してゆく。(中略)この本は一軒の家が建つまでのドキュメントとして読んでもたいへん面白いし、専門的にも価値豊かなものだと思うけれど、僕としてはそれ以上に半世紀近くの不在の後、「救国」のために「青年」たちが出現してきたことの喜ばしい徴候として記憶にとどまることを願うのである。(内田樹 本書帯より)
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光嶋裕介
『建築武者修行―放課後のベルリン』著者サイン本
2013年
イースト・プレス 発行
352ページ
18.8x13.0cm
写真・スケッチ:光嶋裕介
ブックデザイン:鈴木成一デザイン室
※光嶋裕介のサイン入り
価格:1,500円(税込、送料別途)
内田樹氏、推薦
旅の記憶について書くことのリスクは、一度書いてしまった言葉が書き手自身を呪縛して、経験の意味を固定化してしまうことにある。この書物はその陥穽をみごとに免れている。書き手である青年は、彼の旅の経験を一意的なものに還元することを自制し、経験から終わりなく意味を汲み出し続けようとしているからである。自己抑制と知的貪欲。その緊張のうちにこの本の文体の魅力は棲まっている。(内田樹 本書帯より)
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光嶋裕介
『死ぬまでに見たい世界の名建築なんでもベスト10』著者サイン本
2014年
エクスナレッジ 発行
167ページ
24.2x18.5cm
テキスト・挿画:光嶋裕介
価格:1,800円(税別、送料別途)
世界各国で「名建築」を見てきた光嶋さんが、12のテーマ別にベスト10をセレクトしています。美しい写真とともに、それぞれの見どころや名建築たらしめる理由について解説。テーマごとに描き下ろした上掲のドローイングも収録しています。
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松家仁之
『火山のふもとで』著者サイン本
2012年
新潮社 発行
377ページ
19.7x13.5cm
1,900円(税別、送料別途)
読売文学賞受賞。
大事なことは、聞き逃してしまうほど平凡な言葉で語られる――。
若き建築家のひそやかな恋と図書館設計コンペの闘いを、浅間山の麓の山荘と幾層もの時間が包みこむ。鮮烈なデビュー長篇!
(本書帯より)
「夏の家」では、先生がいちばんの早起きだった。
――物語は、1982年、およそ10年ぶりに噴火した浅間山のふもとの山荘で始まる。「ぼく」が入所した村井設計事務所は、夏になると、軽井沢の別荘地に事務所機能を移転するのが慣わしだった。
所長は、大戦前のアメリカでフランク・ロイド・ライトに師事し、時代に左右されない質実でうつくしい建築を生みだしてきた寡黙な老建築家。
秋に控えた「国立現代図書館」設計コンペに向けて、所員たちの仕事は佳境を迎え、その一方、先生の姪と「ぼく」とのひそやかな恋が、ただいちどの夏に刻まれてゆく――。
小説を読むよろこびがひとつひとつのディテールに満ちあふれた、類まれなデビュー長篇。
~~~~
松家仁之
『沈むフランシス』著者サイン本
2013年
新潮社 発行
184ページ
19.4x13.5cm
1,400円(税別、送料別途)
北海道の小さな村を郵便配達車でめぐる女。
川のほとりの木造家屋に「フランシス」とともに暮らす男。
五感のすべてがひらかれる深く鮮やかな恋愛小説。
森をつらぬいて流れる川は、どこから来てどこへ向かうのか――。
小麦畑を撫でる風、結晶のまま落ちてくる雪、
凍土の下を流れる水、黒曜石に刻まれた太古の記憶、
からだをふれあうことでしかもたらされない安息と畏れ。
ふたりの関係がある危機を迎えたとき、
村を雪が覆い尽くす……
(本書帯より)
◆光嶋裕介のエッセイ「和紙に挑む」は毎月30日の更新です。
第4話 都市の質感を描く
光嶋裕介(建築家)
幻想都市風景をモチーフにドローイングを描くことを、ライフワークにしたいと思っている。少年時代から絵描きになりたかった建築家として、手を動かしながら物事を考えることは、旅に出てスケッチするように、建築設計とは別の大切なトレーニングのようなものであり、ドローイングを描くことは、ごくごく当たり前のことなのである。
架空の街の風景を想像することで、創造力の解像度を上げ、なにかをつくることの意味を多角的にとらえたい、と考えている。そもそも、建築家は現場において、多くの人とコラボレーションすることで常に「集団的創造力」を必要とする職業だ。しかし、ドローイングを描いている瞬間だけは、個として、孤独と向き合いながら、自分の美的感覚と創造力だけを頼りに創作することができる。ドローイングを描いている時だけは、決定的に一人になれるのだ。誰になにを言われることもなく、ただただ、自分自身と向き合う大事な時間。
このたび、和紙に描く幻想都市風景に「実在する都市を描く」というコンセプトを追加した。建築批評家で編集者である植田実先生の助言を受けたのが、きっかけである。実際の建築を私の描く幻想都市のなかに溶け込ますことで、ドローイングに新たな表情を与えられるのではないか、と考えた。
まずは、四年間住んでいた街、ベルリンを描いてみた。雲のような、大地のような、予期せぬ形で混ざり合う白黒の和紙のなかに、古典主義の建築家シンケルを、モダニストのミースを、シャローンのフェルハーモニーを描き込んでいく。思いが赴くままにペンを進めていく。ひとつの建築を描き、余白との関係性を考慮しながら、次の建築を描き足していく。直感的に全体のバランスを意識しながらジャズのインプロビゼーション(即興)のようにして、ドローイングを描いていく。現実と幻想の狭間を彷徨いながら、独特な質感が獲得されていく。それは、建築群によって立ち上がる空間の質感のようなもの。
私は、ベルリンへと思いを馳せて、ペンを進めていき、続けて、ニューヨーク、パリ、バルセロナ、ローマ、京都と6つの都市空間を描くことができた。それぞれの都市に街に漂う空気を、私の描くドローイングにも漂わせたいと考えている。私の個人的な旅の記憶を種子にして、描かれていったドローイングが、作品を見た鑑賞者によって更に新しい記憶と結びつき、感情を刺激するようなことができれば、それは建築家冥利に尽きる。なぜ描くのか明確には言語化できなくとも、建築家としてドローイングを描き続けたいと考えており、より強い発信力を獲得するために、こうして新作展を開催できる喜びを胸に、しっかりと持続できればと考えている。
光嶋裕介「バルセロナ」(部分)
光嶋裕介「ローマ」(部分)
最後にこのような作品発表の素敵な場を提供してもらっている画廊主の綿貫ご夫妻とサポートして頂いているスタッフの皆さんに深く感謝の気持ちを伝えたい。1998年に、18歳の建築学科一年生としてふらっと入った安藤忠雄展を見て以来、通ってきたこの「ときの忘れもの」で個展ができることは、まるで夢のようであり、強く背中を押してもらっている。そうした多くのご恩とご縁に対して、少しでも恩返しができるように、建築家として精進して参りたいと思っている。ひとりでも多くのひとに、この和紙に描かれたドローイングを体験してもらいたい。
(こうしま ゆうすけ)
●光嶋裕介さんと松家仁之さんのサイン本
本日、光嶋裕介さんと松家仁之さんのギャラリートークを開催します。
定員に達したためご予約は締め切りましたが、お二人のご著書にサインを入れていただき画廊にて販売いたします。
是非ご注文ください。
光嶋裕介『これからの建築 スケッチしながら考えた』著者サイン本
2016年
ミシマ社 発行
248ページ
18.7x13.0cm
1,800円(税別、送料別途)
街、ターミナル、学校、橋、ライブ空間、高層建築…
過去と未来をつなぐ、豊かな空間。
その手がかりを全力で探る!(本書帯より)
目次:
・プロローグ 建築家として働くこと
・第一話 大工の言葉
・第二話 街の見た目
・第三話 蔵としての家
・エッセイ1 音楽のある部屋
・第四話 空間のなかの移動
・第五話 芸術の文脈と身近さ
・第六話 地域に開く学校
・エッセイ2 風景と対話するスケッチ
・第七話 人々が行き交う場所
・第八話 高層建築の新しい挑戦
・第九話 世界を結界する橋
・エッセイ3 軸線の先にある象徴的な建築
・第十話 広い芝生とスポーツの巨大建築
・第十一話 総合芸術としてのライブ空間
・エピローグ 生命力のある建築
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光嶋裕介『幻想都市風景 建築家・光嶋裕介ドローイング集』著者サイン本
2012年
羽鳥書店 発行
144ページ
18.8x13.2cm
テキスト:内田樹、光嶋裕介
袋とじ製本
2,900円(税別、送料別途)
内田樹邸「凱風館」(道場兼住宅)を設計した建築家・光嶋裕介のドローイング集。旅のスケッチと地平線で続く記憶の風景はやがて処女作「凱風館」へと繋がる。
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光嶋裕介『みんなの家。建築家一年生の初仕事』著者サイン本
2012年
アルテスパブリッシング 発行
232ページ
18.8x13.0cm
スペシャル鼎談「凱風館へようこそ」:井上雄彦(漫画家)×内田樹(施主)×光嶋裕介
価格:1,800円(税別、送料別途)
当代きっての論客・内田樹さんが自宅兼道場兼能舞台=凱風館の設計を依頼したのは、まだ一軒の家を丸ごと手がけた経験のない新米建築家。この大仕事に、京都の杉と土、岐阜の檜、淡路島の瓦などの天然素材と、一流の腕をもつ匠たちとのチームで挑んだ若き建築家が竣工までを綴っています。
ほんとうにひさしぶりに「日本の青年」が書いた本である。
イノセントな好奇心と冒険心に駆動された「彼のアイディア」を実現するために、建築家はうるさがたの職人やビジネスマンの懐に入り込み、タフな交渉をし、重いがけない妥協案を提示する。その力業のひとつひとつを通じて、彼は確実に成熟への階梯をのぼり、社会的な実力をつけ、世界を語る新しい語彙を獲得してゆく。(中略)この本は一軒の家が建つまでのドキュメントとして読んでもたいへん面白いし、専門的にも価値豊かなものだと思うけれど、僕としてはそれ以上に半世紀近くの不在の後、「救国」のために「青年」たちが出現してきたことの喜ばしい徴候として記憶にとどまることを願うのである。(内田樹 本書帯より)
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光嶋裕介『建築武者修行―放課後のベルリン』著者サイン本
2013年
イースト・プレス 発行
352ページ
18.8x13.0cm
写真・スケッチ:光嶋裕介
ブックデザイン:鈴木成一デザイン室
※光嶋裕介のサイン入り
価格:1,500円(税込、送料別途)
内田樹氏、推薦
旅の記憶について書くことのリスクは、一度書いてしまった言葉が書き手自身を呪縛して、経験の意味を固定化してしまうことにある。この書物はその陥穽をみごとに免れている。書き手である青年は、彼の旅の経験を一意的なものに還元することを自制し、経験から終わりなく意味を汲み出し続けようとしているからである。自己抑制と知的貪欲。その緊張のうちにこの本の文体の魅力は棲まっている。(内田樹 本書帯より)
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光嶋裕介『死ぬまでに見たい世界の名建築なんでもベスト10』著者サイン本
2014年
エクスナレッジ 発行
167ページ
24.2x18.5cm
テキスト・挿画:光嶋裕介
価格:1,800円(税別、送料別途)
世界各国で「名建築」を見てきた光嶋さんが、12のテーマ別にベスト10をセレクトしています。美しい写真とともに、それぞれの見どころや名建築たらしめる理由について解説。テーマごとに描き下ろした上掲のドローイングも収録しています。
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松家仁之『火山のふもとで』著者サイン本
2012年
新潮社 発行
377ページ
19.7x13.5cm
1,900円(税別、送料別途)
読売文学賞受賞。
大事なことは、聞き逃してしまうほど平凡な言葉で語られる――。
若き建築家のひそやかな恋と図書館設計コンペの闘いを、浅間山の麓の山荘と幾層もの時間が包みこむ。鮮烈なデビュー長篇!
(本書帯より)
「夏の家」では、先生がいちばんの早起きだった。
――物語は、1982年、およそ10年ぶりに噴火した浅間山のふもとの山荘で始まる。「ぼく」が入所した村井設計事務所は、夏になると、軽井沢の別荘地に事務所機能を移転するのが慣わしだった。
所長は、大戦前のアメリカでフランク・ロイド・ライトに師事し、時代に左右されない質実でうつくしい建築を生みだしてきた寡黙な老建築家。
秋に控えた「国立現代図書館」設計コンペに向けて、所員たちの仕事は佳境を迎え、その一方、先生の姪と「ぼく」とのひそやかな恋が、ただいちどの夏に刻まれてゆく――。
小説を読むよろこびがひとつひとつのディテールに満ちあふれた、類まれなデビュー長篇。
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松家仁之『沈むフランシス』著者サイン本
2013年
新潮社 発行
184ページ
19.4x13.5cm
1,400円(税別、送料別途)
北海道の小さな村を郵便配達車でめぐる女。
川のほとりの木造家屋に「フランシス」とともに暮らす男。
五感のすべてがひらかれる深く鮮やかな恋愛小説。
森をつらぬいて流れる川は、どこから来てどこへ向かうのか――。
小麦畑を撫でる風、結晶のまま落ちてくる雪、
凍土の下を流れる水、黒曜石に刻まれた太古の記憶、
からだをふれあうことでしかもたらされない安息と畏れ。
ふたりの関係がある危機を迎えたとき、
村を雪が覆い尽くす……
(本書帯より)
◆光嶋裕介のエッセイ「和紙に挑む」は毎月30日の更新です。
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