野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」 第33回

大手町パークビルディングへの作品設置

2月12日、東京の大手町に新しく建設されたオフィスビル、大手町パークビルディングの中に作品「東京」180×180cmが設置されました。
作品制作の依頼をくださったのは三菱地所設計の方で、昨年一度京都の家にもお越し頂き、自分も12月頭に日帰りで東京の現場を見せて頂きました。
このビルを設計されたのは三菱地所設計のほぼ同い年の小池秋彦さん、要所要所に日本らしさを意識した設計になっているので、設置する作品も何か日本らしいものをという事で、ネットで「箔 アート」で検索されて、自分が見事ヒットしたそうな、ネット検索とは有り難いものだと改めて思いました。

このビルからは下に皇居の森が見え、その先に東京のビル群が広がるとても良い眺めで、現場の下見では普段人が入れない屋上にも入れて頂き、足元にビビりながら撮影してきました。

大手町パークビルディング外観大手町パークビルディング外観


大手町パークビルディング1階エントランスホール1階エントランスホール


大手町パークビルディング内からの景色大手町パークビルディング内からの景色


大手町パークビルディング屋上からの景色屋上からの景色


作品が設置されるのは窓の無い会議室スペース、何故窓が無いかというと、この階はスタートアップ企業などの小さなオフィスがたくさん入る階で、その中央に企業が共同で使える会議室がいくつもあり、受付のスペースに設置される予定でした。

なので、小池さんからのご要望は、せっかく大手町のこのビルに来たのに、あの素晴らしい眺望を観てもらえない方に、少しでもこの大手町を感じてもらえるような作品をとの事で、イメージはモノトーンの正方形、街なのでLandscapeシリーズかと思いきや、銀一色の空と海の作品がイメージに近いという事でした。

京都に帰って色々と構想を考えましたが、やはり要望を踏まえると浮かぶ絵は一つ、銀色の空にビル群で、過去にLandscapeシリーズでデザイン化した森を描いた事はありましたが、具象画に近い空系の作品にこの森を描くと表現の差異による違和感が出るので、表現が難しく、当初皇居の森は構想から外したのですが、構想画を送ったら小池さんが、できれば、あの大好きな森の風景も入れて欲しいとの事だったので、これはやるしか無いと、、最終的に空、ビル群、皇居の森の構想ができました。

そして1月後半、色々と他の制作に追われ、もう時間の無い中箔押しを開始、まず森から始めたのですが、イメージ通り全然できず、、一晩かけたものを全部剥がして、時間も無く、これは首つらなあかんかと久しぶりに絶望的な気分になりました。
緑の絵の具と筆で描けばすぐに描けるであろうに箔だと全然上手くできず、、なんと下手くそなのかと凹みましたが、時間は無くやるしかない、そして2日かけて何とか森ができました。

3日目、ビル群は最近得意なフリーハンドの引っ掻き作業でなんなくできると思っていたのに、左端から始めるとこれがまたイメージ通りいかず、とっさに表現を考え直し、できるだけ実際の風景を忠実に再現しながら、定規を使いながら引っ掻くという技法に変え、今までになかった表現で街を描く事ができました。
なので、よく見ると画面左から右に進むにつれて慣れて上達しています。
知らなかったのですが、中央付近には都庁もあります。

だいたいこんな大事な仕事をぶっつけ本番でやるなって感じですが、イメージトレーニングというか、実際に作らずともいつも頭の中では先に作ってるんです、それで実際の箔押しで何かイメージが違っても想定内で済み、臨機応変に対処できる、それで今までだいたい上手くいっていたのですが、今回は想像以上で苦戦したので反省しました、今後はもう少し時間の余裕を作ろうと思います。

ちなみにこの作品の銀色は約60%はプラチナ箔、40%が銀箔です。

そして5日間ですべての箔押しを終え、最後の仕上げに空に金箔の星を2000個位入れて、細部の修正をして完成しました。
現場への設置時に小池さんに初めて観て頂き、気に入って頂けるか心配だったのですが、ご期待に何とか応える事ができたようでとても安心しました。

いつもその時に一番作りたいものを作っていると、表現が難しい新たなモチーフは正直避けがちになるものですが、こうやって新たなチャレンジをする事によって、苦しみの先に新しい表現ができるようになるのだと思うので、そんなチャンスをくださった小池さん、三菱地所設計さんに心から感謝致します。

「東京」野口琢郎
「東京」
2017年
箔画


「東京」街部分「東京」部分


また、一般の皆様にもこっそり作品を観て頂く事は可能ですので、詳細と少し注意事項などお知らせ致します。
平日にお近くへお越しの際はぜひご高覧くださいませ。

所在地:東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング7階 THE PREMIER FLOOR 大手町
大手町駅のC6a出口を上がって頂くとビルの1階エントランス内に出ます。
 
※受付があいているのは平日9:00~18:00です。
作品をご覧になりたい場合は必ず7階 THE PREMIER FLOORの受付にお声掛けください。
入居企業の会議室利用状況によってはじっくりご覧いただけない場合があるのでご了承ください。
すぐ後ろの会議室が使用中の場合は、あまり近づいてじっくりみると会議室内から嫌がられる可能性があるので、ご遠慮頂くことがあるかと思います。申し訳ありません。

7階 THE PREMIER FLOOR7階 THE PREMIER FLOOR


「東京」設置風景2


「東京」設置風景3


のぐち たくろう

野口琢郎 Takuro NOGUCHI(1975-)
1975年京都府生まれ。1997年京都造形芸術大学洋画科卒業。2000年長崎市にて写真家・東松照明の助手に就く。2001年京都西陣の生家に戻り、家業である箔屋野口の五代目を継ぐため修行に入る。その後も精力的に創作活動を続け、2004年の初個展以来毎年個展を開催している。

◆野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。

●今日のお勧め作品は野口琢郎です。
Landscape#38野口琢郎
「Landscape#38」
2016年
箔画(Lacquer, Gold/Silver/Platinum foil, Charcoal, Resin, Clear acrylic paint on Wood panel)
60.6×41.0cm
Signed


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