清家克久のエッセイ「瀧口修造を求めて」第11回

 2005年1月に横浜美術館で開催されていた「マルセル・デュシャンと20世紀美術」展を土渕信彦さんに誘っていただき一緒に観覧した。1981年の高輪美術館以来の日本での大規模なデュシャン展だったが、デュシャンに影響を受けた作家の作品も陳列され、改めてデュシャンが20世紀美術にもたらした衝撃の大きさを物語っているようだった。

01「マルセル・デュシャンと20世紀美術」展カタログ

 
 2月には世田谷美術館で「瀧口修造 夢の漂流物」展(富山へも巡回)が開催された。このカタログの執筆と参考資料の編集に関わった土渕さんの計らいで私宛にも招待状(瀧口が好んで付けたラベルの意匠の)が届いたが度々上京することはかなわず、瀧口の書斎に遺されていた沢山のオブジェや作品などが一点ずつカラー写真に収められた分厚い図録を見て我慢するしかなかった。

02「瀧口修造夢の漂流物」展チラシ


03同上


04同上・案内状と招待状


05同上カタログ


 その年の12月には慶応義塾大学アート・センターにおいて「瀧口修造1958-旅する眼差し」展も開催された。瀧口のご遺族から寄贈された資料(瀧口修造アーカイヴ)を基に瀧口の生涯の転機となった欧州旅行に焦点をあてた企画である。小冊子のカタログも出たが旅の記録をコンパクトに纏めた貴重な資料となっている。その研究成果の一環として後に「To and From Shuzo Takiguchi」と題する論集や欧州旅行の写真資料等を箱に収めた特装限定本も刊行された。

06瀧口修造1958-旅する眼差し」展案内状(左)とカタログ(右)


07To and From Shuzo Takiguchi


08「瀧口修造1958ー旅する眼差し」特装本刊行案内


 2009年に瀧口歿後30年を記念して土渕さん企画・構成による「瀧口修造の光跡Ⅰ美というもの」展が日本橋茅場町にある森岡書店で開催されることになり、最終日の7月11日のギャラリートークに合わせて上京した。

09「瀧口修造の光跡Ⅰ美というもの」展案内状


 「美というもの」は瀧口が1962年に母校の県立富山高校で行った講演の題名で、瀧口の講演自体が珍しく、録音も残されており、それを土渕さんが全て文字に起こし資料や写真を添えてカタログに収録された。

10同上カタログ


 会場は川沿いの古いビルの三階にあって、まるで昭和初期の映画にでも出てきそうな佇まいで、本が置かれた部屋に並べられた作品を見て書斎のようだと思った。

11白いビルの三階に森岡書店


12森岡書店


 この日、造形作家の岡崎和郎さんと空閑俊憲さんが一緒に来ておられたのに驚いた。実はこの時まで二人は同一人物だと勝手に思い込んでいたのである。瀧口綾子夫人による「自筆年譜・補遺」の1976年の箇所に「岡崎和郎作品集『空閑俊憲』制作に序文。」とあるのを作品集の題名と勘違いしていたのだが、編集・発行人が空閑俊憲さんだった。岡崎さんは1960年代から一貫して「御物補遺」をテーマにオブジェの制作を続けている稀有な作家で「デュシャン語録」や「檢眼圖」の制作にも協力している。

13「岡崎和郎の作品1962-1976」


 なお、土渕さんの「瀧口修造の光跡」と題されたコレクション展はこの後毎年行われ4回続いた。

14「瀧口修造の光跡Ⅱ デッサンする手」展案内状


15「瀧口修造の光跡Ⅲ 百の眼の物語」展案内状


16「瀧口修造の光跡Ⅳ 手が先、先が手」展案内状


 2011年11月から千葉市美術館で「瀧口修造とマルセル・デュシャン」展が開催され、巖谷國士さんの講演と関連企画「瀧口修造の光跡Ⅲ百の眼の物語」展に合わせて12月11日に見に行った。

17「瀧口修造とマルセル・デュシャン」展チラシ


18同上


19千葉市美術館


20「瀧口修造の光跡 百の眼の物語」展会場にて(撮影・石原輝雄)


 石原輝雄さんに再会し、稲垣足穂のコレクターである古多仁昂志さんを紹介された。前日に神田の田村書店に立ち寄ったが、古多仁さんも行ったらしく店主の奥平さんから私の名前を聞いたと話された。
瀧口と足穂が戦前に会っていたことは瀧口の「自筆年譜」(1928年)に記されているが、「詩と詩論」誌上の接点はあるものの交流していた形跡は見当たらない。だが、後年における足穂のデュシャンやオブジェについての言及を見るとこの二人には通じるところがあったと思われ、古多仁さんが見に来ていたのも頷けた。その後、古多仁さんからコレクション展や個展の案内状などを戴いたが、尋常ならざるタルホニストであることを知った。

21「稲垣足穂作品集」別巻付録より(潮出版社1975年刊)


22「コタニ・プレイズ・タルホ」より(喜多ギャラリー2011年刊)


 瀧口を研究されている詩人の林浩平さんも来ておられたが、林さんはかつてNHK松山局のディレクターをしていたことがあり、その関係で愛媛出身の彫刻家森堯茂さんと親交があった。1994年に松山三越での森堯茂彫刻展で林さんと初めてお会いした時に私が瀧口に関心を持っていることを話して以来、久万美術館や瀧口関連の展覧会などでお目にかかるようになった。森さんは戦後における抽象彫刻の草分け的存在で、自由美術家協会に所属していた頃に瀧口から「緊密な構成力を示している」と評されたこともあった。

23瀧口の展評(読売新聞1956年)


 森さんは「私にとりましても大きな意味のある人で時をへると共により鮮明に人間像が甦ってくるような気がします。」と私信に書いてこられた。1997年に愛媛県立美術館で作家活動50年記念展が開かれ、立派な作品集も刊行されている。

24森堯茂彫刻展案内状(愛媛県立美術館


25森堯茂作品集刊行案内


 2007年にも久万美術館で回顧展があり、林さんのプロデュースにより詩人の吉増剛造さんを招いて映像詩の朗読が行われた。林さんから吉増さんに紹介され、予め持参していた詩集「頭脳の塔」にサインをして貰った。なお、昨年森堯茂さんは95歳で亡くなられた。

26吉増剛造詩集「頭脳の塔」サイン

 
 千葉市美術館にはフランス文学者で放送大学名誉教授の柏倉康夫さんも見えられ、石原さんや土渕さんと親しく話しておられたが私は初対面だった。柏倉さんはマラルメの研究者として知られ、美術への造詣も深く銅版画家の浜口陽三と親交があった方である。
展覧会場を出るとすでに日は暮れて寒かったが、柏倉さんと同行の女性たちと一緒に土渕、石原、私の三人も電車で移動し、幕張メッセの近くのレストランで夕食を共にしながら歓談した。

27柏倉康夫さんを囲んでの記念写真


せいけ かつひさ

■清家克久 Katsuhisa SEIKE
1950年 愛媛県に生まれる。

清家克久のエッセイ「瀧口修造を求めて」全12回目次
第1回/出会いと手探りの収集活動
第2回/マルセル・デュシャン語録
第3回/加納光於アトリエを訪ねて、ほか
第4回/綾子夫人の手紙、ほか
第5回/有楽町・レバンテでの「橄欖忌」ほか
第6回/清家コレクションによる松山・タカシ画廊「滝口修造と画家たち展」
第7回/町立久万美術館「三輪田俊助回顧展」ほか
第8回/宇和島市・薬師神邸「浜田浜雄作品展」ほか
第9回/国立国際美術館「瀧口修造とその周辺」展ほか
第10回/名古屋市美術館「土渕コレクションによる 瀧口修造:オートマティスムの彼岸」展ほか
第11回/横浜美術館「マルセル・デュシャンと20世紀美術」ほか
第12回/小樽の「詩人と美術 瀧口修造のシュルレアリスム」展ほか

●今日のお勧め作品は、瀧口修造です。
20180120_takiguchi2014_II_18瀧口修造
"II-18"
デカルコマニー
イメージサイズ:15.7×9.0cm
シートサイズ :19.3×13.1cm
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◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が始まりました。現代版画センターと「ときの忘れもの」についてはコチラをお読みください。
会期:2018年1月16日(火)~3月25日(日)
埼玉チラシ菅井600現代版画センターは会員制による共同版元として1974年~85年までの11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では45作家、約300点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。同館の広報誌もお読みください。

○<「版画の景色 現代版画センターの軌跡」at 埼玉県立近代美術館。
個人的には、菅井汲さんの作品が多く観られたのと、メカスのショートフィルムが観られた事が嬉しかった!それと、今まで存じ上げなかった柳澤紀子さんの作品を観られた事も。
後期の展示も楽しみです!(о´∀`о)

ParticlesOfTwilightさんのtwitterより)>

○<北浦和にある埼玉県美にて《版画の風景~現代版画センターの軌跡》だん。いやはや、兎にも角にも、凄い展覧会でした! 今、お世話になっている「ときの忘れもの」の画廊主である綿貫さんが、僕の産まれる前からこんな凄いことをしていたなんて…
光嶋裕介さんのtwitterより)>

現代版画センターエディションNo.9 オノサト・トシノブ「Ce1」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
009_オノサト・トシノブ《Ce 1》オノサト・トシノブ
《Ce 1》1974年
シルクスクリーン(刷り:岡部徳三)
Image size: 21.8×27.1cm
Sheet size: 28.1×33.2cm
Ed.200 サインあり
*レゾネ98番ではタイトルが「G.H.C.5」となっている(『ONOSATO オノサト・トシノブ版画目録 1958-1989』ART SPACE 1989年刊)

パンフレット_05


◆清家克久のエッセイ「瀧口修造を求めて」は毎月20日の更新です。

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
06駒込玄関ときの忘れものの小さな庭に彫刻家の島根紹さんの作品を2018年1月末まで屋外展示しています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。