佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」

第14回 町のはずれの溶接屋さんとの共同について

インド・シャンディニケタンの家の内部をどのように設えるか。デザインを考える上で、まず念頭にあったのが、友人であり、大工を生業にしている青島雄大さんにインドへ来てもらうことだった。「日本の家」を如何にして作るかという課題に対して、「日本からインドへ作りに行く」という現在の出来事自体がその答えを担保し、そこからむしろ日本とインドとの間の距離、隔たりをどのようにデザイン、制作の中に取り組むかの試行錯誤に向かった。
したがって、内部の設えは自ずと木材を使ったものになった。日本から来た大工と、現地で調達する木材とのある種の共同の可能性も、ここでは意図するところである。

最終的にこの家の仕上げはとてもシンプルなものになった。シンプルというのは仕上げ材の種類が少なく、それぞれの取り合いが単純という意味である。モルタル、コンクリート、レンガ、鉄、ガラス、木。ややこしい接続金具はなく、大体はモルタルで埋めつぶすか、木ダボを差し込んだところに打ち込む釘留め程度のものであった。そうした材料を用いて、他にどのような異種の共同があり得るかを考え、また滞在中の限られた工期と予算も鑑みて、鉄を使った制作をしてみようと考えた。インドの多くの住宅はほとんどすべての窓に鉄格子をはめて防犯措置を施している。また門扉や柵も同様の鉄材で作られている。どれも日本のようなプロダクトメーカーがいるわけではなく、大体が町場の小さな溶接屋さんによるほとんどハンドメイドのものだ。

1ラタンパリの溶接屋さん。奥の鉄材の山から適当な材を引っ張り出してくる。だいたい毎日、二三人が働いていて、溶接機は二台あった。


こうした町場の小さなモノづくりによるデザインには大きな可能性を感じている。少なくとも、いきなり現地にやってきた我々と共同してくれるだけの融通さと技術の素朴さ、余白があるからだ。そこで、施主が制作した可動式の囲炉裏机の上に吊り下げる自在鉤と、一つ座机の骨組、そして日本に持ち帰ったある立体を制作してもらった。自在鉤とは囲炉裏の上に鉄鍋を下げて置くための釣り具で、部材間の摩擦を利用して、その高さを上下変えることができる装置である。よく日本の古民家などでは鯉の木彫りがその一部にあてられていたりするが、構造的には要は中心の棒を支える二点の接触部分を作れば良いので、すべて鉄で作ることにした。早速、溶接屋さんにオーダーするために原寸図を画用紙に描く。これはそのまま材を紙にあてて寸法を確認するためだ。また分かりやすいようにアイソメ図も描く。

2現地で描いた原寸図。工場に持って床に置いていたので泥んこである。


現場の家から歩いて10分くらいのところに、ラタンパリ(Ratanpali)という少し栄えた町があり、その裏手に小さな溶接屋さんがいる。そこに原寸図を持って行き、少々話して、使う材を選び、その材に切断する位置を墨付けしていく。墨付けは私がやり、職人さんに鉄オノかグラインダーで切ってもらう。そしてまた私が切った部材を手で持ちながら、部材同士を溶接して留めていく。作るモノの用途はあえて伝えない。基本的には切って付けるだけの作業なので、普段やっている窓の格子とさほど違いも無く、迷いがなければ直ぐ終わった。

3鉄の棒材を切る職人さん。


およそ10日間だろうか、この溶接屋さんへはほとんど毎日向かった。毎日職人さんらの作業を眺めていると、切断時にどんな形状の歪みが出てくるのか、どの部材から組み立てていけば形が決まっていくのか、など感触がつかめてくるものであった。また言葉は通じなくても、アーアー言いながら、切るジェスチャーをしたり、絵を描いたりすればやりとりも全く問題無い。

4自在鉤の部材の一部。ただし、このあといろいろ試行錯誤をしたので3,4回は部材を継ぎ足している。


5とりあえずの完成をみた自在鉤。背後にあるのは床の間。この床の間については次回以降に詳述したい。


さとう けんご

■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

誤報でした(お詫び)
埼玉県立近代美術館で開催中の「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が3月4日のNHK日曜美術館のアートシーンで紹介されましたが、再放送はその日の夜にされており、11日(日)にはアートシーンの再放送はありません
会期:2018年1月16日(火)~3月25日(日)
現代版画センターと「ときの忘れもの」については1月16日のブログをお読みください。
詳細な記録を収録した4分冊からなるカタログは、ときの忘れもので扱っています。
埼玉チラシメカス600現代版画センターは会員制による共同版元として1974年~1985年の11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では45作家、約280点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。

【担当学芸員によるギャラリー・トーク】
日時:3月10日 (土) 15:00~15:30
場所:2階展示室
費用:企画展観覧料が必要です。
【トークイベント】ウォーホルの版画ができるまで―現代版画センターの軌跡
日時:3月18日 (日) 14:00~16:30
第1部:西岡文彦 氏(伝統版画家 多摩美術大学教授)、聞き手:梅津元(当館学芸員)
第2部:石田了一 氏(刷師 石田了一工房主宰)、聞き手:西岡文彦 氏
場所:2階講堂
定員:100名 (当日先着順)/費用:無料
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○<『版画の景色 現代版画センターの軌跡』鑑賞。
前回訪れた時は十分な時間を持って見れなかったので、今回はリベンジマッチ。
版画で平面のはずなのに立体的に見えるような作品に心惹かれました。関根伸夫の『おちるリンゴ』、磯崎新の作品とか、あれ、他にもあったけど思い出せない…
関根伸夫さんの『大地の点』って言う鏡面仕上げの板のような作品も面白かった。あれ、端の方に染みのように色がついていて、屋根がないところに置いたら空が写って正に大地の点のようになるんだろうね。
小田襄さんの『銀世界ー夢』は金属の質感が出ていて、でもそこが何かとても美しく見えた。
こういうのも版画なんだねって言うのがこの小田襄さんの作品以外にもたくさんあって、新しいものにいっぱい出会えたのがこの展覧会の収穫です。
磯崎新さんの作品で印象に残ったのが『内部風景』って言うウィトゲンシュタインが共同設計した家、アルトーが収容されてた精神病院、そして磯崎さんの作品なのかな?がプリントしてある3点の連作のようなんですが、3作ともきれいに正方形。
なんでこれなのかわからないけどとても良かった。
そう言えば、一原有徳さんの作品な出会えたのも良かった。前に「日曜美術館」で実験的な版画を作るってことで特集されていて、すごい人がいるなと思っていたけど、実際見た作品は何物にも似てなくてとても不思議な作品でした。
ウォーホルの『KIKU』の連作がとてもウォーホルらしかった←って何言ってるのかわからないように見えるけど、あの写真から少しズレて書かれている線とかが本当にウォーホルなんだよね。
大谷石採掘所跡の地下空間にずらりと並べられたウォーホルの作品は写真で見ても壮観でしたね。
『版画の景色 現代版画センターの軌跡』は埼玉県立近代美術館も相当チカラを入れていたみたいですね。なんせ、チラシを4枚も作っているんですから。
今回は出口前の記録ファイルもじっくり見ることができました。展覧会お知らせの葉書とかあれが来たら本当にワクワクしちゃいますよね
とにかく圧倒的なボリューム、版画の海に溺れてみるのも良いんじゃないでしょうか。期間は3月25日迄とあと3週間あるので、皆さんぜひ行って見てください。

(20180304/タカハシさん のtwitterより) >

○<「版画の景色」展へ。“景色”という通り1枚の版画の中にも線やべたっとのせた色の積層や、かすれなどが見えてくる。版画がこんなに面白いとは。版画素人にはそもそもリトグラフ、シルクスクリーンの用語が分からず基礎知識の説明があるといいなと思ってたらあった、子供用のが(笑)これ先にほしかった
(20180302/雨宮佐藤明日香さんのtwitterより)>

西岡文彦さんの連載エッセイ「現代版画センターという景色が始まりました(1月24日、2月14日、3月14日の全3回の予定です)。草創期の現代版画センターに参加された西岡さんが3月18日14時半~トークイベント「ウォーホルの版画ができるまでー現代版画センターの軌跡」に講師として登壇されます。

光嶋裕介さんのエッセイ「身近な芸術としての版画について(1月28日ブログ)

荒井由泰さんのエッセイ「版画の景色―現代版画センターの軌跡展を見て(1月31日ブログ)

スタッフたちが見た「版画の景色」(2月4日ブログ)

毎日新聞2月7日夕刊の美術覧で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が紹介されました。執筆は永田晶子さん、見出しに<「志」追った運動体>とあります。

倉垣光孝さんと浪漫堂のポスター(2月8日ブログ)

嶋﨑吉信さんのエッセイ~「紙にインクがのっている」その先のこと(2月12日ブログ)

大谷省吾さんのエッセイ~「版画の景色-現代版画センターの軌跡」はなぜ必見の展覧会なのか(2月16日ブログ)

植田実さんのエッセイ「美術展のおこぼれ 第47回(3月4日ブログ)

塩野哲也さんの編集思考室シオング発行のWEBマガジン[ Colla:J(コラージ)]2018 2月号が展覧会を取材し、87~95ページにかけて特集しています。

○月刊誌『建築ジャーナル2018年3月号43ページに特集が組まれ、見出しには<運動体としての版画表現 時代を疾走した「現代版画センター」を検証する>とあります。

○埼玉県立近代美術館の広報誌 ソカロ87号1983年のウォーホル全国展が紹介されています。

○同じく、同館の広報誌ソカロ88号には栗原敦さん(実践女子大学名誉教授)の特別寄稿「現代版画センター運動の傍らでー運動のはるかな精神について」が掲載されています。

現代版画センターエディションNo.162 難波田龍起「海の風」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
難波田龍起「海の風」600難波田龍起「海の風」
1977年
銅版(刷り:木村茂)
18.0×27.9cm
Ed.35 サインあり
*現代版画センターエディション
※レゾネNo.53(阿部出版)

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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

パンフレット_05
出品作家45名:靉嘔/安藤忠雄 /飯田善国/磯崎新/一原有徳/アンディ・ウォーホル/内間安瑆/瑛九/大沢昌助/岡本信治郎/小田襄/小野具定/オノサト・トシノブ/柏原えつとむ/加藤清之/加山又造/北川民次/木村光佑/木村茂/木村利三郎/草間彌生/駒井哲郎/島州一/菅井汲/澄川喜一/関根伸夫/高橋雅之/高柳裕/戸張孤雁/難波田龍起/野田哲也/林芳史/藤江民/舟越保武/堀浩哉 /堀内正和/本田眞吾/松本旻/宮脇愛子/ジョナス・メカス/元永定正/柳澤紀子/山口勝弘/吉田克朗/吉原英雄

◆ときの忘れものは「植田正治写真展ー光と陰の世界ーPart Ⅱ」を開催します。
201803_UEDA
会場1:ときの忘れもの
2018年3月13日[火]―3月31日[土] 11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊(但し3月25日[日]は開廊)

昨年5月に開催した「Part I」に続き、1970年代~80年代に制作された大判のカラー作品や新発掘のポラロイド写真など約20点をご覧いただきます。

●書籍・カタログのご案内
表紙植田正治写真展―光と陰の世界―Part II』図録
2018年3月8日刊行
ときの忘れもの 発行
24ページ
B5判変形
図版18点
執筆:金子隆一(写真史家)
デザイン:岡本一宣デザイン事務所
価格:800円(税込)※送料別途250円

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植田正治写真展―光と陰の世界―Part I』図録
2017年
ときの忘れもの 発行
36ページ
B5判
図版33点
執筆:金子隆一(写真史家)
デザイン:北澤敏彦(DIX-HOUSE)
価格:800円(税込)※送料別途250円


◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
20170707_abe06新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18~24頁にときの忘れものが特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。