台風24号は強風と大雨で各地に大きな被害をもたらしました。
幸い駒込の私たちの画廊は無事でしたが、被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。

それにしても台風に振り回され、あたふたした数日間でした。
9月29日は野口琢郎展の最終日でしたが、留守を作家とスタッフに任せ、京都のロームシアター(旧京都会館、1960年前川國男設計で竣工、その後2016年に 香山壽夫建築研究所設計により改修、一部は改築して2016年に新装オープン)で開催された現代芸術の会主催(代表理事:浅井栄一)の一柳慧先生のコンサートに社長と二人で駆けつけました。一柳先生の新曲「ヴァリエーション」は、原田節さんのオンド・マルトノと一柳先生のピアノによる世界初演で、そこに立ち会えたことは生涯の思い出になります。
休憩時間のロビーでは思わぬ人たちにお目にかかりました。それも京都の人たちばかりでなく、遠く四国の方や、神戸、大阪、東京の方々など、つくづく演奏会というのは「サロン」だなあと思った次第です。
そしてtsutayaの入り口に設置されている野口琢郎さんの大作を拝見できたことも収穫でした。箔画による洛中洛外図ともいうべき力作です。

当初はのんびり酒でも飲んで翌日は京都の画廊さんめぐりを、などと考えていたのですが、台風24号の襲来でそれどころではなく、主催者の浅井さん、一柳先生にご挨拶して早々にホテルに入り、翌朝早い便で帰京致しました。

さて、本日10月2日は、マルセル・デュシャン(1887年7月28日ー1968年10月2日)の命日です。

昨2017年はデュシャンの生誕130年の記念すべき年であり、また現代美術史最大の事件となった既製の便器にR・MUTTとサインしただけの〈泉〉を発表してから(ただし実物は現存せず)、ちょうど100年にあたりました。
京都国立近代美術館ではなんと一年間にわたりその<泉>について考察する試みが開催されました(後述)。
京都に続き、今度は東京。
それが竹橋の東近美でもなく、六本木の国立新美術館でもない、上野のトーハクでデュシャン展が開催されると聞いて正直驚きました。

昨10月1日の「マルセル・デュシャンと日本美術」のオープニングには、デュシャンのコレクターとして著名な笠原正明さん、マン・レイイストの石原輝雄さん、瀧口修造研究の土渕信彦さんの東西コレクターの三人衆がそろい踏み、社長と亭主もその後についてトーハク平成館に向かい、なぜか京都の綺麗な舞妓さんが並ぶ開会式に出かけてまいりました。

そしてすでに話題のようですが色んな意味で期待の高まる「マルセル・デュシャンと日本美術」展公式の広報らしきこの記事がとても残念。というか有害ではないかと思います。
(20180926/成相 肇さんのfacebookより)

これ、そもそも展覧会自体が不愉快だから、スルーしたかったけど、やっぱり言っておく。この展覧会の東博側のキュレーション責任者と思しき、松嶋雅人氏って、デュシャンについても、日本美術についても、両方ともナメてる、あるいは観者対してもバカにしているとしか思えないんだけど。この広報マンガによると、デュシャンに代表させているところの「現代美術」とは、コンテクストを読むものらしいのだが、それと近代以前の日本美術を、レディメイドやらオリジナリティやら複製やらの概念と結び付けていること自体が、それこそ「コンテクストが異なる」のだけど、その点についての納得のいく釈明は、展覧会の解説なり展覧会カタログなりで行われるのであろうか。(多分行われない)
(20180930/土屋誠一さんのfacebookより)

上記のごとく、始まる前から、ネットでは議論が沸騰していました。
実際に拝見した感想は、さすがフィラデルフィア、ごくごく真っ当なデュシャン展で、いまさらながら凄い作家だなあと感銘を受けました。
しかし成相肇さんの指摘したとおり、マンガ風の広報記事はまったくひどいもので、フィラデルフィア美術館の優れたコレクションをおちょくっているのかと思うほどです。
例の「泉」(もちろんレプリカ)も多数の出品作品の中でごく自然な感じで展示されています。
むしろ、最後のコーナーの<日本美術>はわけのわからん展示内容で、まったく意味不明、余計でした。

全152点のデュシャン作品の中で唯一日本からの出品は「大ガラス」の東京バージョン(1980年、東京大学教養学部美術博物館所蔵)ですが、その完成に尽力された瀧口修造先生、東野芳明先生、横山正先生の功績を伝えていくことも私たちの務めだと痛感しました。

亭主は1981年の西武美術館の「マルセル・デュシャン展」は見逃しました。ですので初期油彩から始まる今回のデュシャンの作品はほとんどが初めて見るものばかりで、ガツンとやられました。
これはあと二、三回は行かねばなりませんね。必見の展覧会です。

下に掲載するのは評判の悪いチラシ、これじゃあ行く気にもならないのじゃあないかしら。
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東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展
マルセル・デュシャンと日本美術

会期:2018年10月2日(火)~12月9日(日)
会場:東京国立博物館(上野公園) 平成館 特別展示室 第1室・第2室

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京都国立近代美術館「キュレトリアル・スタディズ12:泉/Fountain 1917-2017
会期:2017年4月19日[水]~2018年3月11日[日]
会場:京都国立近代美術館
前述の通り、京都国立近代美術館では昨年から今年にかけて一年間にわたりデュシャンの<泉>を検証(顕彰?)する試みが開催されました。
現代の美術家によるデュシャン解読の作例を加え、各回展示替えをしながら本作品の再制作版(1964)を1年間展示するとともに、さまざまなゲストを迎えて《泉》およびデュシャンをめぐるレクチャーシリーズを開催

京都の展示とレクチャーシリーズに関しては、マン・レイになってしまった人・石原輝雄さんが詳細なレポート「マルセル、きみは寂しそうだ。」をこのブログに連載してくださいました。
第1回(2017年6月9日)『「271」って何んなのよ』

第2回(2017年7月18日)『鏡の前のリチャード』

第3回(2017年9月21日)『ベアトリスの手紙』

第4回(2017年11月22日)『読むと赤い。』

第5回(2018年2月11日)『精子たちの道連れ』
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今回のトーハクの展示に関しては、ブログ執筆の常連、石原輝雄さんと土渕信彦さんたちの観戦記をぜひ期待したいものです。

マルセル・デュシャンと親交を結び、自ら『マルセル・デュシャン語録』(瀧口修造、マルセル・デュシャン、荒川修作、ジャスパー・ジョーンズ、ジャン・ティンゲリーのマルチプル作品を挿入)を編集刊行したのが瀧口修造でした。
念のため申し上げておきますが、今回のデュシャン展にはこの『マルセル・デュシャン語録』は出品されていません。
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瀧口修造 Shuzo TAKIGUCHI『マルセル・デュシャン語録』
A版(限定50部)
1968年   本、版画とマルティプル
外箱サイズ:36.7×29.8×5.0cm
本サイズ:33.1×26.0cm
各作家のサインあり
発行:東京ローズ・セラヴィ
刊行日:1968年7月28日
販売:南画廊
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外箱もコンディション良好。緑も色あせることなく鮮やかです。

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表紙


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荒川修作 《静物》サイン入り


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マルセル・デュシャン「プロフィールの自画像」複製

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ジャン・ティンゲリー《コラージュ・デッサン》サイン入り


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ジャスパー・ジョーンズ《夏の批評家》サイン入り


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《ウィルソン・リンカーン・システムによるローズ・セラヴィ》マルセル・デュシャンのサイン入り
マン・レイ撮影のデュシャンの若い頃の横顔(プロフィール)の写真にチェンジ・ピクチャ―の「ウィルソン・リンカーン・システム」によってRrose Sélavyのサインを組み合わせた作品。

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瀧口修造 Shuzo TAKIGUCHI『マルセル・デュシャン語録』A版(限定50部)
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瀧口修造は、現代美術の先駆者であるマルセル・デュシャンに対して、1930年代から深い関心を寄せ、たびたび論じてきましたが、1958年の欧州旅行でダリ宅を訪れた際にデュシャン本人を紹介され、以降は互いに著書を献呈するなど、直接の交流が生まれました。帰国後1960年代に入るとデュシャンに対する瀧口の傾倒はさらに深まり、その頃に構想した架空の「オブジェの店」についてもデュシャンに命名を依頼し、若き日の有名な変名「ローズ・セラヴィ」を贈られました。その返礼として瀧口が製作し、1968年に刊行したのが『マルセル・デュシャン語録』です。
デュシャンのメモや言葉の遊びを自ら編集・翻訳したもので、デュシャンだけでなく、ジャスパー・ジョーンズ、ジャン・ティンゲリー、荒川修作ら協力者たちの作品(マルチプルないし複製)も付属しています。
その後もデュシャンに対する瀧口の関心は継続し、手作り本『扉に鳥影』(1973年)や岡崎和郎との共作のマルチプル『檢眼圖』(1977年)、デュシャンについてのメモを収めた「シガー・ボックス」なども制作しています。
デュシャンを巡る考察は、後半生の瀧口の最も重要な課題のひとつであり、最も多くの時間が充てられていた、といっても過言ではないでしょう。
>(土渕信彦

詳しくは、土渕信彦さんのエッセイをお読みください。

11.『マルセル・デュシャン語録』(その1)20150713

12.『マルセル・デュシャン語録』(その2)20150813

13.『マルセル・デュシャン語録』(その3)20150913

●今日のお勧めは中村美奈子さんが瀧口修造にオマージュした文鎮です。
中村美奈子 文鎮こげ茶、赤、緑、オレンジの4色あります。
一個:大5,500円 小5,000円(税別)
二個組:10,000円(税別)
三個組:14,000円(税別)
紙ケース付、送料は一律500円(何個でも)。

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●書籍のご案内
TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別)*送料250円


ときの忘れものは倉俣史朗 小展示を開催します。
会期:2018年10月9日[火]―10月31日[水]11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊
倉俣史朗(1934-1991)の 美意識に貫かれた代表作「Cabinet de Curiosite(カビネ・ド・キュリオジテ)」はじめ立体、版画、オブジェ、ポスター他を展示。 同時代に倉俣と協働した磯崎新安藤忠雄のドローイングも合わせて ご覧いただきます。
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●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18~24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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