スタッフSのギャラリートーク・レポート
「Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展 中村潤×伊熊泰子」
読者の皆様こんにちは、初夏の日和が続く香港から戻ってみれば、桜が咲きつつも真冬の寒さに辟易し、ようやく春と呼べる暖かさになれば、今度は真冬に包まる布団の暖かさが恋しいスタッフSこと新澤です。
現在開催中の「Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展」は、去年の暮れに「佐藤研吾展―囲いこみとお節介」を開催して以来、久しぶりの若い作家(全員1980年代生まれ)のみのグループ展です。
本日の記事では、出展中の作家の一人、中村潤さんと、伊熊泰子さん(芸術新潮編集者)を講師に迎え、4月12日に開催したギャラリートークをご紹介させていただきます。

京都を活動拠点とされている中村さんとは、ときの忘れものの展覧会に来廊していただいた際にお話しする機会があり、トイレットペーパーや方眼紙など、身近な物を素材に作品を制作されている作風に私たちが興味を持ち、展覧会へ参加していただきました。
今回のギャラリートークでは、伊熊さんが中村さんにインタビューする形式で進めていただきました。伊熊さんが中村さんと関わるのは今回が初めてでしたが、亭主の見込んだ通りに中村さんの作品を気に入ってくださり、様々な質問を中村さんに投げかけてくれました。
以下はその一部です。
大学、大学院と彫刻科を専攻されていますが、どのような紆余曲折があって現在の日用品を素材にした作品に行きついたのですか?
京都市立芸術大学の美術学部に入学したのは、入学時点で専攻を決めずとも良かったからで、入学時点では特に彫刻を専攻しようという気はありませんでした。例えば工芸科などを専攻すると、使用する媒体が粘土や木に限定されてしまうので、それならば鉄や石、紙なども使える彫刻科にしよう、くらいの気持ちでした。彫刻を専攻した後は、基礎として溶接、木彫、石膏、ブロンズなど一通り経験しましたが、当時の講師陣にはいずれの素材も専門的に扱っていない人も多いこともあって、「あれをしろ、これをしろ」という雰囲気はありませんでした。その代わりに、早い時期から「何をしたいのか、何故そうしたいのか」ということを聞かれることが多く、自由過ぎて逆に戸惑っていたかもしれません。自分に合っていましたし、「何故」という部分については後からでも理由はつけられると助言をもらったこともあって、とにかく色々と試してみた中に日用品もあった、という感じです。今回のトイレットペーパーを用いた作風は、大学院に上がってからの物になります。私は元々編み物が趣味で、以前は「趣味と制作は分けておくのがカッコイイ」と考えていた時期もあったのですが、試行錯誤を続ける中で、好きな事や思いついた事は全てやって確かめるようになっていきました。編み物を制作に組み込むとはいえ、セーターやら手袋では時間がかかり過ぎる、もっと手早く編み込めて大きな作品を作れる素材はないかとホームセンターに通い、ゴムホースなどと一緒に購入したのがトイレットペーパーでした。安価で量が揃い、失敗してもさして惜しくないという、お財布に優しい素材ですね。おかげで数を作って、その後にその作品について考えることができました。
美術史的に言うとアルテ・ポーヴェラやもの派に近い作風に見えますが、その辺りは意識して制作をされていますか?
学校の先生がもの派だったので、意識せざるをえない環境でしたね。「かみ」とか「もの」と口にするだけでもドキドキしました(笑)。紙を使って袋状の作品を作るというだけでも小清水漸先生がいらっしゃいますし、先達とは違うことをしているという説明はできなければいけませんでした。アルテ・ポーヴェラの作品を見る機会もありましたし、自分が学生の頃は身の回りの物を使った作品というのは多く作られていて、日用品を生活感のある素材として使いたいのか、そういったものを切り離して使いたいのか、「実はこの作品、こんな物で出来てるんですよ」という種明かし的に楽しむのは何か違う、でもアルテ・ポーヴェラ調に対するカウンターパンチの様な作品をとは思わぬものの、意識はしていて…結局意識のし過ぎで制作が課題じみてきてしまい、自分が気分良く制作できることが一番大事だなと結論しました。
今回展示されているトイレットペーパーの作品は大きくて作りやすいように見えますが、逆に方眼紙を使った作品は決して楽に作れるようには見えませんが。
方眼紙は「格子を幾つ跨いだら角度を変える」というように法則を決めて、その上で一色につき糸一本、長さは縫いやすく最後に結びやすい長さを考慮しているので、あまり辛くはないです。それに、表面の縫い目を作って行き、完成後に裏返してみると全然知らなかった縫い目が出来ているので、そういった意外性が気持ちをリセットしてくれますね。計画的に作っているわけでないので、作り始めたものが作品として完成したり、作りかけでこれは失敗だと判断して新しいものを作り始めたり、制作を中断したものが後日、日の目を見たり。後はそれの繰り返しですね。頭であれこれ考えるよりは、作ってみないと或る程度分からないものだけ作りたいなー、と。
この後も伊熊さんには「編み物は女の仕事なのか?」など、様々な切り口で質問を投げかけていただき、たいへん興味深い時間をご提供いただきました。
(しんざわ ゆう)
●本日のお勧め作品は中村潤です。
中村潤 Megu NAKAMURA
《もちてつき》
2019年
紙(トイレットペーパー)
120×直径100cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆ときの忘れものでは「第310回企画◆Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展 」を開催しています。
会期:2019年4月12日[金]―4月27日[土]11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊
●4月27日(土)に予定していた谷川桐子×小松崎拓男さんのトークは、作家の体調が思わしくなく中止します。またの機会に開催しますので、悪しからずご了承ください。

ときの忘れものが期待する1980年代生まれの若手作家の三人展を開催します。それぞれが選んだメディアは異なりますが、表現したいものをどのように創るかに、強いこだわりを持った三人です。
中村潤はトイレットペーパーを編んで造形したものや方眼紙を刺したオブジェ作品を京都で制作しています。
尾崎森平は環境心理学に触発され、生まれ育った東北の現代の風景を描いています。
谷川桐子は油彩という古典的材料を使いながら、緻密に描いた砂利や地面の上にハイヒールやブラジャーなどを配した作品を創り続けています。
今回の三人展では大作を含め、それぞれ数点を出品します。
●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。
*日・月・祝日は休廊。
「Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展 中村潤×伊熊泰子」
読者の皆様こんにちは、初夏の日和が続く香港から戻ってみれば、桜が咲きつつも真冬の寒さに辟易し、ようやく春と呼べる暖かさになれば、今度は真冬に包まる布団の暖かさが恋しいスタッフSこと新澤です。
現在開催中の「Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展」は、去年の暮れに「佐藤研吾展―囲いこみとお節介」を開催して以来、久しぶりの若い作家(全員1980年代生まれ)のみのグループ展です。
本日の記事では、出展中の作家の一人、中村潤さんと、伊熊泰子さん(芸術新潮編集者)を講師に迎え、4月12日に開催したギャラリートークをご紹介させていただきます。

京都を活動拠点とされている中村さんとは、ときの忘れものの展覧会に来廊していただいた際にお話しする機会があり、トイレットペーパーや方眼紙など、身近な物を素材に作品を制作されている作風に私たちが興味を持ち、展覧会へ参加していただきました。
今回のギャラリートークでは、伊熊さんが中村さんにインタビューする形式で進めていただきました。伊熊さんが中村さんと関わるのは今回が初めてでしたが、亭主の見込んだ通りに中村さんの作品を気に入ってくださり、様々な質問を中村さんに投げかけてくれました。
以下はその一部です。
大学、大学院と彫刻科を専攻されていますが、どのような紆余曲折があって現在の日用品を素材にした作品に行きついたのですか?
京都市立芸術大学の美術学部に入学したのは、入学時点で専攻を決めずとも良かったからで、入学時点では特に彫刻を専攻しようという気はありませんでした。例えば工芸科などを専攻すると、使用する媒体が粘土や木に限定されてしまうので、それならば鉄や石、紙なども使える彫刻科にしよう、くらいの気持ちでした。彫刻を専攻した後は、基礎として溶接、木彫、石膏、ブロンズなど一通り経験しましたが、当時の講師陣にはいずれの素材も専門的に扱っていない人も多いこともあって、「あれをしろ、これをしろ」という雰囲気はありませんでした。その代わりに、早い時期から「何をしたいのか、何故そうしたいのか」ということを聞かれることが多く、自由過ぎて逆に戸惑っていたかもしれません。自分に合っていましたし、「何故」という部分については後からでも理由はつけられると助言をもらったこともあって、とにかく色々と試してみた中に日用品もあった、という感じです。今回のトイレットペーパーを用いた作風は、大学院に上がってからの物になります。私は元々編み物が趣味で、以前は「趣味と制作は分けておくのがカッコイイ」と考えていた時期もあったのですが、試行錯誤を続ける中で、好きな事や思いついた事は全てやって確かめるようになっていきました。編み物を制作に組み込むとはいえ、セーターやら手袋では時間がかかり過ぎる、もっと手早く編み込めて大きな作品を作れる素材はないかとホームセンターに通い、ゴムホースなどと一緒に購入したのがトイレットペーパーでした。安価で量が揃い、失敗してもさして惜しくないという、お財布に優しい素材ですね。おかげで数を作って、その後にその作品について考えることができました。美術史的に言うとアルテ・ポーヴェラやもの派に近い作風に見えますが、その辺りは意識して制作をされていますか?
学校の先生がもの派だったので、意識せざるをえない環境でしたね。「かみ」とか「もの」と口にするだけでもドキドキしました(笑)。紙を使って袋状の作品を作るというだけでも小清水漸先生がいらっしゃいますし、先達とは違うことをしているという説明はできなければいけませんでした。アルテ・ポーヴェラの作品を見る機会もありましたし、自分が学生の頃は身の回りの物を使った作品というのは多く作られていて、日用品を生活感のある素材として使いたいのか、そういったものを切り離して使いたいのか、「実はこの作品、こんな物で出来てるんですよ」という種明かし的に楽しむのは何か違う、でもアルテ・ポーヴェラ調に対するカウンターパンチの様な作品をとは思わぬものの、意識はしていて…結局意識のし過ぎで制作が課題じみてきてしまい、自分が気分良く制作できることが一番大事だなと結論しました。今回展示されているトイレットペーパーの作品は大きくて作りやすいように見えますが、逆に方眼紙を使った作品は決して楽に作れるようには見えませんが。
方眼紙は「格子を幾つ跨いだら角度を変える」というように法則を決めて、その上で一色につき糸一本、長さは縫いやすく最後に結びやすい長さを考慮しているので、あまり辛くはないです。それに、表面の縫い目を作って行き、完成後に裏返してみると全然知らなかった縫い目が出来ているので、そういった意外性が気持ちをリセットしてくれますね。計画的に作っているわけでないので、作り始めたものが作品として完成したり、作りかけでこれは失敗だと判断して新しいものを作り始めたり、制作を中断したものが後日、日の目を見たり。後はそれの繰り返しですね。頭であれこれ考えるよりは、作ってみないと或る程度分からないものだけ作りたいなー、と。この後も伊熊さんには「編み物は女の仕事なのか?」など、様々な切り口で質問を投げかけていただき、たいへん興味深い時間をご提供いただきました。
(しんざわ ゆう)
●本日のお勧め作品は中村潤です。
中村潤 Megu NAKAMURA《もちてつき》
2019年
紙(トイレットペーパー)
120×直径100cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
◆ときの忘れものでは「第310回企画◆Tricolore2019―中村潤・尾崎森平・谷川桐子展 」を開催しています。
会期:2019年4月12日[金]―4月27日[土]11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊
●4月27日(土)に予定していた谷川桐子×小松崎拓男さんのトークは、作家の体調が思わしくなく中止します。またの機会に開催しますので、悪しからずご了承ください。

ときの忘れものが期待する1980年代生まれの若手作家の三人展を開催します。それぞれが選んだメディアは異なりますが、表現したいものをどのように創るかに、強いこだわりを持った三人です。
中村潤はトイレットペーパーを編んで造形したものや方眼紙を刺したオブジェ作品を京都で制作しています。
尾崎森平は環境心理学に触発され、生まれ育った東北の現代の風景を描いています。
谷川桐子は油彩という古典的材料を使いながら、緻密に描いた砂利や地面の上にハイヒールやブラジャーなどを配した作品を創り続けています。
今回の三人展では大作を含め、それぞれ数点を出品します。
●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。
*日・月・祝日は休廊。
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