柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」第10回

2ページだけの、ミニマル・アーティスト・ブック
アート・アンド・プロジェクト、ブルテン (part-1)


 アーティストが作品として創る本、アーティスト・ブックについては、既に何回か書かせて貰いました。ローレンス・ウィナー、ソル・ル・ウィット、ギルバート・アンド・ジョージなど、本家とも言える作家たちが手がけたアーティスト・ブックの大半は、概して小型で、厚さも数十ページ程度と、ボリューム感が無いものが中心でした。DTPが一般的になる前の60~70年代は、出版が労力、費用の両面で大変な作業だったこともその理由だと思います。

 そんな中でも、最も薄いアーティスト・ブックのシリーズを、今回は紹介したいと思います。オランダ・アムステルダムのギャラリー、アート・アンド・プロジェクトが刊行した、ブルテンのシリーズです。
 それらは、A4サイズ、4ページ、つまりA3サイズの紙1枚を二つ折りにしたものです。当然、製本はされていません。用紙の片面が表紙と裏表紙となり、もう片面が本文の2ページというわけです。
 この2ページ、というか、A3サイズのスペースにアーティストが、印刷アートを展開していきました。このブルテン、当初は「本」として刊行されたものではなく、アート・アンド・プロジェクトで開かれる展覧会の案内状として印刷・発送されたものでした。
 第一号は、1968年9月、ギャラリーのオープン展、シャーロット・ポジェンネンスキ(建築家・デザイナー)に際してのもので、表紙にはアーティスト名、会期などが印刷されています。しかし、見開き2ページは、展覧会に出品される作品の複製や、解説を載せる代わりに作家に託され、紙の上だけで展開される作品となっています。ちなみに、1号から7号までは、建築家、デザイナーの展覧会のために印刷されたものでしたが、69年5月のスタンレー・ブラウン(オランダ在住のコンセプチュアル・アーティスト)展を皮切りに、ギャラリーが主としてミニマル・アート、コンセプチュアル・アートを展示するようになると、ブルテンも印刷技法を用いた作品、アーティスト・ブック的な性格が強くなってきました。
 さらに、ヤン・ディベッツ(オランダ在住のコンセプチュアル・アーティスト)とバーンド・ロハウス(ドイツの彫刻家)による9号、日本でも人気の高いローレンス・ウィナー(アメリカのコンセプチュアル・アーティスト)による10号は、展覧会とは無関係、独立した出版物として制作され、発送されました。それ以降も、年に何号かは、展覧会とは無関係に製作されました。
 ブルテンは、1989年11月の156号まで刊行が続けられましたが、アムステルダムの画廊が閉まったことにより、その歴史に終止符が打たれました。

 156号の中には、ソル・ル・ウィット、ギルバート・アンド・ジョージ、ダニエル・ビュラン、ジョセフ・コスス、ロバート・バリー、カール・アンドレ、ローレンス・ウィナー、リチャード・ロング、ハミッシュ・フルトンといった、コンセプチュアル・アート、ミニマル・アートを代表する作家が多数含まれています・・・その興味深い内容の詳細は、次号までお待ち下さい。
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やなぎ まさひこ

柳正彦 Masahiko YANAGI
東京都出身。大学卒業後、1981年よりニューヨーク在住。ニュー・スクール・フォー・ソシアル・リサーチ大学院修士課程終了。在学中より、美術・デザイン関係誌への執筆、展覧会企画、コーディネートを行う。1980年代中頃から、クリストとジャンヌ=クロードのスタッフとして「アンブレラ」「包まれたライヒスターク」「ゲート」「オーバー・ザ・リバー」「マスタバ」の準備、実現に深くかかわっている。また二人の日本での展覧会、講演会のコーディネート、メディア対応の窓口も勤めている。
2016年秋、水戸芸術館で開催された「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」も柳さんがスタッフとして尽力されました。

●柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」は毎月20日の更新です。

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