佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第31回

インドから福島の大玉村へ。In-Field Studioは「荒れ地のなかスタジオ」へ

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 来月9月の中旬に、「荒れ地のなかスタジオ2019 / In-Field Studio 2019 in Otama」という短期学校を開校しようと思っている。場所は福島県大玉村。
 かつて、In-Field Studioはインドで計4回ほど開いてきた。そもそも私がインドへ行く目的だったのが、この短期学校である。始めは石山修武さんのワークショップとして開校し、2回目から独自で進めることとなった。
 2016年は西インドのバローダで、2017年と2018年は東インドのシャンティニケタンで開校した。毎回、自分自身がその時に最も注力する土地での開催であった。
 特に、2018年は、大玉村で歓藍社の活動を一緒にやっている渡辺未来さん、河原伸彦さん、瀬辺茂さんに中心になってもらい、今回の2019年、その大玉村で開催しようというちょっとした布石にもなっている気がしている。けれどもその時痛感した。もっと自分もまた考え抜かなければいけなかった。その時、自分が一番考えて取り組んでいる最中の内容を持ち込まなければ、学校を開く意味はないのだ。



以下に今年の告知文を載せる。技術というものについて考える比重がさらに高まりそうだ。
https://infieldstudio.net/

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 荒れ地のなかスタジオ/In-Field Studioは、「Field(=荒れ地)」を読み取り、「作る」ことから生活への構想と実践を生み出していくための学校。学校とあえて言うのは、たとえそれが限られた時間であっても、学びと実験と生活が同居する現場を目指すから。
 過去4回にわたり、インド各地(バローダ、シャンティニケタン)にてワークショップを開催してきた(*1)。
 2019年秋は、インドから日本の東北へと移動し、構想と実践が交差する試みを再開する。
 場所は福島県大玉村。米作りを主たる産業とする田園地帯である。大玉村は福島市と郡山市の間に位置し、近年ベッドタウン化の兆しを見せ、2011年の震災以後も、人口が僅かながら増加傾向にある村。農村から郊外への変転の現場。何かが変わるとは、何かの崩壊を意味しているのかもしれない。風景の変転、想像力の減衰。技術から「わざわざ」が消えていくこと。
 何かが崩壊へ向かう世界、生活のベクトルの軌道修正を図る。散らばっている小さな技術を群体として捉え、その連帯を探る。ヒトとモノが限りなく同じ地平に立って、全体性をでっち上げて満足することなく、張り巡らされたヒト・モノの関係の糸を手繰り寄せ、織り合わせていく。ヒトは、畏怖と喜びを同時に含んだ想像力を携えて、張り巡らされた糸に囲まれながら「作る」を試みる。
 その「作る」の実験場の有様を、荒れ地と呼んでみる。ヒトとモノが群となり、断片的であっても連帯する取り合いの試行錯誤に取り組む。「作る」ことを通じて、ヒトとモノ、モノとモノ、ヒトとヒトの関係を修復する。
 ヒト・モノ共同連帯のトライアルが、「建築する」ということだ。ようやくここまで来た。ようやく建築が出てきた。荒れ地のなかスタジオでは、それから先を進めたい。


*1 2016年にはインド西部の古都バローダの都市中心部にて伝統的建築物の保存と再生をテーマとした実践に取り組んだ(共催:Vadodara Design Academy)。
 そして2017年はインド東部のシャンティニケタン(*2)という町の郊外にある農村ケラダンガ村にて、自然環境と人間生活のあり得る関係性を現場制作を通して模索した(共催:Vadodara Design Academy、Visva-Bharati Uni.)。
*2 シャンティニケタン Santiniketan:1901年、インドを代表する詩人ラビンドラナート・タゴールがその地に小さな学校を開始した。設立当初はわずか教師6人と学生5人という極小の学校で、野外の木陰に円座する形で授業が行われ、詩や、文学、美術、舞踏、踊りを含む全人的な教育を目指したと言う。また、当該の近郊農村の復興を意図して、農業と手工業の学校を作っていた。
 シャンティニケタンの学校には、土着の農村生活と芸術の、いわばごく自然な和合が、タゴールが描いたヒューマニズムの端緒として確かに存在していたのだろう。それは、日本の岡倉天心の「総合芸術」というモノを視る眼差し、さらには宮沢賢治の「農民芸術」が描こうとした創作世界に通じているはずだと考える。今年もその連関を探る試みは続ける。

2019年8月
佐藤 研吾
(Director of In-Field Studio)

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荒れ地のなかスタジオ2019 / In-Field Studio 2019 in Otama
■Theme
「技術のなかの荒れ地、荒れ地のなかの技術」
■Date
2019年9月10日[火]-14日[土](5日間)
*会期前後それぞれ2-3日は準備時間とします。
*参加日程についての相談応じます。
■Site
福島県安達郡大玉村玉井字小名倉山2ロコハウス 周辺
(Google Map: https://goo.gl/maps/PGz8fMESYv62)
最寄駅はJR本宮駅から徒歩40分。送迎可能予定。
■Programme
1- 建築金物(主にドアハンドル)作り、鋳造実験(真土(まね)型、フルモールド他)
2- 中山間地の風景構築、養蜂のための巣箱作り(モデル作成に使う蜜蝋生成のための準備と、風景への介入のトライアル)
3- 毎朝レクチャー、毎晩クリティークと話し合い
■参加費
一人20,000円
(食費、宿泊費含む。交通費は自己負担。)
■Collaboration
・大玉村
・歓藍社
■Participants (assuming)
10人程度予定
■Instructors & Participants
・佐藤研吾 Kengo Sato
・伊藤洋志 Hiroshi Ito
・山口純 Jun Yamaguchi
・ミロン・デュッタ Millon Dutta (Architect / from Santiniketan, India)
■Schedule
1日目:イントロダクション、周辺見学、作業開始
2日目:デザイン構想、モデル作成
3日目:鋳型作成、巣箱作成
4日目:鋳造作業
5日目:今後の方針確認
**毎朝レクチャー
**毎晩クリティークと話し合い
**建築金物づくりと巣箱づくりはセットで行い、考える。
**終わらない人は、また大玉で続ける。
**失敗したら、また今度試みる。
■Accommodation
古民家に滞在予定。自炊。
■Contact
MAIL: info@infieldstudio.net
PHONE: 080-5058-8813 (佐藤携帯)
さとう けんご

佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。

◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

●本日のお勧め作品は、佐藤研吾 です。
sato-30佐藤研吾 Kengo SATO
《かたちの構築試行》
2018年  印画紙
15.5×15.5cm  Signed
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