アートや建築のある日常に向かって(2)
坂山毅彦
前回、銀座 蔦屋書店で開催中の「幻想都市風景 2019 GINZA-光嶋裕介展」(会期8/27-9/30)のことを、アートのある日常へ向かうための活動であると紹介しました。光嶋さんの展覧会には時間軸が存在していて、時間を掛けてアートと接する価値、つまりアートの「日常性」を教えてくれると感じたからです。
光嶋裕介さんが建築家であるということは、先述したアートを「建築」に置き換えることもできることを示唆するのに十分すぎる事実ですが、では「建築のある日常」とはどのようなことなのか、光嶋裕介展を通じて考えてみたいと思います。
そもそも私たちは日常的に建築物と接しています。家、学校、会社、本屋などなど。にもかかわらずそれらの体験を「建築に接している」と感じられない、あるいはそう認識することを大袈裟に感じてしまうならば、建築と日常の間には隔たりがあるということなのでしょう。
だからといって、「建築ってなに?」という根源的な疑問に向き合うべきかというと、それも違和感を覚えます。建築家さえその答えの探求に一生を掛ける程の、いわば禅問答のような問いを強いられること自体が非日常に感じられるからです。つまりこの問答は建築家から教わるべきものなのです。
ところで言葉は日常的なものです。まだ物心もつかない頃に言葉を聞き、自然と話すようになり、言葉の読み書きを親や先生から教わり、手紙や日記、感想文などを綴るようになり、今では毎日SNS投稿をするという人も多いと思います。
建築家の北山恒さんが「建築家(広くは建築設計を学んだ人)の特殊技能は“空間の読み書き”ができることだ」とおっしゃられていたことを覚えています。それは空間(モノとモノの関係、モノと人との関係)を読み取り、形や寸法等を記述することができるという意味ですが、建築の現場ではこれにより言葉を介さないコミュニケーションが可能になっています。しかしそのようにして書かれた「建築図面」は非常に情報量が多いもので、それこそ特殊技能がなければ読めるようなものではありません。

「“幻想都市風景2019-01” 和紙にインク 金箔押し(野口琢郎)45.0×90.0cm」
在廊しドローイングを描く光嶋さん
ここで、光嶋裕介展について考えてみます。光嶋さんのドローイングには縮尺がありません。数値情報が無いというだけではなく、縮尺を把握できるタバコのようなものも描かれていません。これは寸法など正確に読み取れなくてよい、読み手が自由に大きさを想像して欲しいという光嶋さんの意思です。建築が併せ持つ「用・強・美」のうちの「美」だけを描いた、いわば不完全な建築図面。光嶋さんは言語化できない建築の美を伝えるために、言葉を介さない、しかし建築の専門知識がなくとも読める空間の記述として〈幻想都市風景〉というドローイングを描いているのだと思います。
言語化できない建築の美と述べましたが、この言葉にできない「わからなさ」こそが建築のある日常への道標ではないかと思います。それは特に様々な分野で活躍するクリエイターとの連続対談を通じて強く感じられるのですが、どの回のゲストも光嶋さんと建築について対等に話しているのです。それは光嶋さんと親しいから、あるいは立場としては先輩であるからではなく、建築のポエジーという、光嶋さん自身も大切だと確信しながらも抱えている「わからなさ」を、身体という人間そのものを切り口にして対談ゲストと同じ目線で向き合っているから、活発な対話が生まれるのです。
内田樹氏との対談「武道と空間について~集団で思考する」(9/3 開催)
いとうせいこう氏との対談「文学と幻想について~頭で思考する」(9/10 開催)
もしトークテーマが、言語化できる(=わかる)「用」や「強」だったとしたら、建築家である光嶋さんから教わる一方の「講義」になり、建築を造ることに議論は向かっていったはずです。もちろんそれ自体は有意義なことですし、建築を造り、所有するというのも建築のある日常への一つの道かもしれません。でも私が目指したいのは、言葉のように誰もが享受できる「建築のある日常」です。言語化できないことを伝えていくという道の先にある日常は未だ霞に包まれていて、おぼろげにしか見ることができていませんが、光嶋さんのような建築家と一緒に考え、探していけば辿り着けると信じて、歩き続けています。
(さかやま・たけひこ)
■坂山毅彦(さかやま・たけひこ)
1978年北海道生まれ。2003年東京都立大学大学院修士課程建築学専攻修了。椎名英三建築設計事務所を経て、2008年坂山毅彦建築設計事務所設立。2013年から代官山 蔦屋書店建築コンシェルジュ。2017年から銀座 蔦屋書店建築コンシェルジュ。第二回「これからの建築士賞」受賞(2016年)
「幻想都市風景 2019 GINZA-光嶋裕介展」
会期: 2019年8月27日(火) - 9月30日(月)
10:00~22:30(営業時間)
会場:銀座 蔦屋書店アートウォール・ギャラリー(6F スターバックス横 展示スペース)
主催:銀座 蔦屋書店
共催:協力 ときの忘れもの
問い合わせ先:03-3575-7755
連続対談イベント(全5回)
本展特別企画といたしまして、想像と創造にまつわる連続対談を開催いたします。「建築を身体で思考する」をテーマに全5回に渡るトークイベントは、光嶋さんが以下のような想いのもと、ゲストにお声がけし、テーマも興味深い切り口を設定してくださいました。
第1回|「音楽と建築について~皮膚感覚で思考する」後藤正文(ミュージシャン/ASIAN KUNG-FU GENERATION) ×光嶋裕介(終了しました)
第2回|「武道と空間について~集団で思考する」内田樹(思想家) ×光嶋裕介(終了しました)
第3回|「文学と幻想について~頭で思考する」いとうせいこう(作家) ×光嶋裕介(終了しました)
第4回|「アートと芸術ついて~手で思考する」束芋(現代美術家) ×光嶋裕介
日時:9月19日(木) 19:00~20:45
第5回|「写真と時間ついて~眼で思考する」鈴木理策(写真家) ×光嶋裕介
日時:9月24日(火) 19:00~20:45
場所:BOOK EVENT SPACE
参加条件:
銀座 蔦屋書店にて下記の商品をご購入いただいた方にご参加いただけます。
・イベント参加券:1,500円/税込
・イベント参加対象書籍『幻想都市風景(羽鳥書店)』:3,132円/税込
【イベント注意事項】
・定員に達し次第、受付を終了させて頂きます。
・参加券1枚でお一人様にご参加いただけます。
・イベント会場はイベント開始の20分前から入場可能です。
・当日の座席は、先着順・自由席でお座りいただきます。
・お客様都合でのキャンセルは承っておりません。
・参加券の再発行・キャンセル・払い戻しはお受けできません。
・止むを得ずイベントが中止、内容変更になる場合があります。
詳しくは蔦屋ホームページへ
●本日のお勧め作品は、光嶋裕介です。
光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA "幻想都市風景2018-03"
2018年 和紙にインク、箔画
45.0×90.0cm Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
坂山毅彦
前回、銀座 蔦屋書店で開催中の「幻想都市風景 2019 GINZA-光嶋裕介展」(会期8/27-9/30)のことを、アートのある日常へ向かうための活動であると紹介しました。光嶋さんの展覧会には時間軸が存在していて、時間を掛けてアートと接する価値、つまりアートの「日常性」を教えてくれると感じたからです。
光嶋裕介さんが建築家であるということは、先述したアートを「建築」に置き換えることもできることを示唆するのに十分すぎる事実ですが、では「建築のある日常」とはどのようなことなのか、光嶋裕介展を通じて考えてみたいと思います。
そもそも私たちは日常的に建築物と接しています。家、学校、会社、本屋などなど。にもかかわらずそれらの体験を「建築に接している」と感じられない、あるいはそう認識することを大袈裟に感じてしまうならば、建築と日常の間には隔たりがあるということなのでしょう。
だからといって、「建築ってなに?」という根源的な疑問に向き合うべきかというと、それも違和感を覚えます。建築家さえその答えの探求に一生を掛ける程の、いわば禅問答のような問いを強いられること自体が非日常に感じられるからです。つまりこの問答は建築家から教わるべきものなのです。
ところで言葉は日常的なものです。まだ物心もつかない頃に言葉を聞き、自然と話すようになり、言葉の読み書きを親や先生から教わり、手紙や日記、感想文などを綴るようになり、今では毎日SNS投稿をするという人も多いと思います。
建築家の北山恒さんが「建築家(広くは建築設計を学んだ人)の特殊技能は“空間の読み書き”ができることだ」とおっしゃられていたことを覚えています。それは空間(モノとモノの関係、モノと人との関係)を読み取り、形や寸法等を記述することができるという意味ですが、建築の現場ではこれにより言葉を介さないコミュニケーションが可能になっています。しかしそのようにして書かれた「建築図面」は非常に情報量が多いもので、それこそ特殊技能がなければ読めるようなものではありません。

「“幻想都市風景2019-01” 和紙にインク 金箔押し(野口琢郎)45.0×90.0cm」
在廊しドローイングを描く光嶋さんここで、光嶋裕介展について考えてみます。光嶋さんのドローイングには縮尺がありません。数値情報が無いというだけではなく、縮尺を把握できるタバコのようなものも描かれていません。これは寸法など正確に読み取れなくてよい、読み手が自由に大きさを想像して欲しいという光嶋さんの意思です。建築が併せ持つ「用・強・美」のうちの「美」だけを描いた、いわば不完全な建築図面。光嶋さんは言語化できない建築の美を伝えるために、言葉を介さない、しかし建築の専門知識がなくとも読める空間の記述として〈幻想都市風景〉というドローイングを描いているのだと思います。
言語化できない建築の美と述べましたが、この言葉にできない「わからなさ」こそが建築のある日常への道標ではないかと思います。それは特に様々な分野で活躍するクリエイターとの連続対談を通じて強く感じられるのですが、どの回のゲストも光嶋さんと建築について対等に話しているのです。それは光嶋さんと親しいから、あるいは立場としては先輩であるからではなく、建築のポエジーという、光嶋さん自身も大切だと確信しながらも抱えている「わからなさ」を、身体という人間そのものを切り口にして対談ゲストと同じ目線で向き合っているから、活発な対話が生まれるのです。
内田樹氏との対談「武道と空間について~集団で思考する」(9/3 開催)
いとうせいこう氏との対談「文学と幻想について~頭で思考する」(9/10 開催)もしトークテーマが、言語化できる(=わかる)「用」や「強」だったとしたら、建築家である光嶋さんから教わる一方の「講義」になり、建築を造ることに議論は向かっていったはずです。もちろんそれ自体は有意義なことですし、建築を造り、所有するというのも建築のある日常への一つの道かもしれません。でも私が目指したいのは、言葉のように誰もが享受できる「建築のある日常」です。言語化できないことを伝えていくという道の先にある日常は未だ霞に包まれていて、おぼろげにしか見ることができていませんが、光嶋さんのような建築家と一緒に考え、探していけば辿り着けると信じて、歩き続けています。
(さかやま・たけひこ)
■坂山毅彦(さかやま・たけひこ)
1978年北海道生まれ。2003年東京都立大学大学院修士課程建築学専攻修了。椎名英三建築設計事務所を経て、2008年坂山毅彦建築設計事務所設立。2013年から代官山 蔦屋書店建築コンシェルジュ。2017年から銀座 蔦屋書店建築コンシェルジュ。第二回「これからの建築士賞」受賞(2016年)
「幻想都市風景 2019 GINZA-光嶋裕介展」
会期: 2019年8月27日(火) - 9月30日(月) 10:00~22:30(営業時間)
会場:銀座 蔦屋書店アートウォール・ギャラリー(6F スターバックス横 展示スペース)
主催:銀座 蔦屋書店
共催:協力 ときの忘れもの
問い合わせ先:03-3575-7755
連続対談イベント(全5回)
本展特別企画といたしまして、想像と創造にまつわる連続対談を開催いたします。「建築を身体で思考する」をテーマに全5回に渡るトークイベントは、光嶋さんが以下のような想いのもと、ゲストにお声がけし、テーマも興味深い切り口を設定してくださいました。
第1回|「音楽と建築について~皮膚感覚で思考する」後藤正文(ミュージシャン/ASIAN KUNG-FU GENERATION) ×光嶋裕介(終了しました)
第2回|「武道と空間について~集団で思考する」内田樹(思想家) ×光嶋裕介(終了しました)
第3回|「文学と幻想について~頭で思考する」いとうせいこう(作家) ×光嶋裕介(終了しました)
第4回|「アートと芸術ついて~手で思考する」束芋(現代美術家) ×光嶋裕介
日時:9月19日(木) 19:00~20:45
第5回|「写真と時間ついて~眼で思考する」鈴木理策(写真家) ×光嶋裕介
日時:9月24日(火) 19:00~20:45
場所:BOOK EVENT SPACE
参加条件:
銀座 蔦屋書店にて下記の商品をご購入いただいた方にご参加いただけます。
・イベント参加券:1,500円/税込
・イベント参加対象書籍『幻想都市風景(羽鳥書店)』:3,132円/税込
【イベント注意事項】
・定員に達し次第、受付を終了させて頂きます。
・参加券1枚でお一人様にご参加いただけます。
・イベント会場はイベント開始の20分前から入場可能です。
・当日の座席は、先着順・自由席でお座りいただきます。
・お客様都合でのキャンセルは承っておりません。
・参加券の再発行・キャンセル・払い戻しはお受けできません。
・止むを得ずイベントが中止、内容変更になる場合があります。
詳しくは蔦屋ホームページへ
●本日のお勧め作品は、光嶋裕介です。
光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA "幻想都市風景2018-03"2018年 和紙にインク、箔画
45.0×90.0cm Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
コメント