ただいま開催中の「オノサトトシノブ展」は明日2月1日までです。
油彩、水彩、リトグラフを中心に展示していますが、とても珍しいシルクスクリーンが入りましたので、急遽展示換えをしました。
DSC_0266オノサト・トシノブ「Silk-3」1967年 シルクスクリーン(刷り:岡部徳三) 50.0×50.0cm Ed.120 Signed

タイトルの通り、オノサト先生の三番目のシルクスクリーンです。
下記の通り、オノサト先生が生前につくった167点のシルクスクリーンのうち、亭主的にはNo.1です。

信じられないでしょうが、亭主が美術業界に入った1974年当時、オノサト・トシノブ先生は「版画家」でした(笑)。
版画雑誌(たとえば『プリント・アート』『版画芸術』)はオノサトの版画(シルクスクリーン)を取り上げるが、『美術手帖』『みづゑ』『芸術新潮』などにオノサト先生の油彩の紹介がなされることはあまり無かった(というより亭主の記憶ではほとんど無い)。

生前のオノサト先生の美術界での全盛期は1960年代でした。

ワシントンのグレスギャラリーで個展(1961年)
南画廊での個展(1962年、1966年、1969年)
第7回日本国際美術展で最優秀賞受賞(1963年)
二度にわたるベニス・ビエンナーレ日本代表(1964年、1966年)


1970年代以降、南画廊(志水楠男さん)という当時最高・最強の画廊と縁の切れたオノサト先生は発表の場を失い、同時に海外を含む市場までも失います。
それから1986年に亡くなるまでの長い長い不遇時代に入ります(今も不遇は続いています)。
膨大な油彩作品を作れども発表の場はない、客もいない。
それを支えたのが俗に「4人組」と称された版画(シルクスクリーン)の版元グループ(尾崎正教、高森俊、大野元明、岡部徳三)でした。

そういう込み入った事情をまったく知らない亭主は、現代版画センターを設立したばかりでしたが久保貞次郎先生や「4人組」の尾崎正教先生(小コレクター運動に携わる当時は小学校の教師)に言われるがままに、のこのこ桐生のオノサト先生のアトリエに行き版画制作を依頼し、その後10数点の版画、タペストリーの版元となりました。

それはともかく、『オノサト・トシノブ版画目録 1958ー1989』(1989年 ART SPACE刊)には、220点の版画作品(リトグラフ、シルクスクリーン、木版、捺染によるタペストリー、立体マルチプル)が収録されています。
オノサト先生の生前に刊行されたもが210点(1番~210番)、没後に刊行されたものが10点(211番~220番、オノサト・トモコによるサイン)。
全220点の技法による内訳は
リトグラフ:38点
シルクスクリーン(生前):167点
シルクスクリーン(没後):10点
木版:2点
捺染によるタペストリー:2点
立体マルチプル(アクリル板にシルクスクリーン):1点

初期リトグラフ18点(レゾネ1番~18番)については先日1月27日のブログで書きました。
亭主が版元となって制作したタペストリー2点については2015年8月7日のブログで詳述しました。

●『オノサト・トシノブ 版画目録1958-1989』
リトグラフ、シルクスクリーン、木版、タペストリー(布に捺染)の全版画220点の画像とデータを収録したカタログレゾネ。
onosato_17
『オノサト・トシノブ 版画目録1958-1989』
1989年
アートスペース 発行
テキスト:オノサト・トシノブ


●『PRINT WORKS 版画工房と作家たち』図録
1970年代以降の発表場所を持たないオノサトの制作を支えたのは「四人組」による版画制作(エディション)でした。その最大の功労者が上掲の『オノサト・トシノブ伝』に一字も登場しない刷り師の岡部徳三でした。
岡部の没後に開催された工房展カタログには岡部自身の回想が収録されているので引用します。
onosato_18
『PRINT WORKS 版画工房と作家たち』図録
2007年
岡部版画工房 発行
テキスト:今泉省彦、岡部トモ子、岡部徳三

第一回東京国際版画ビエンナーレ展が開催されたのは1957年。美術界の片隅で息をひそめていた版画に、ようやく陽が差し込むようになった頃だ。その頃よりオノサト・トシノブ氏や靉嘔(アイオウ)氏をシルクスクリーンで刷ってみないか、と周囲から勧められた事もあり、工房の設立を考えていた。両氏とも、まだ無名にちかい作家であり、私自身もシルクスクリーンについて殆ど知識を持たず、同じ創造美育教会のメンバーであった友人より、シルクスクリーン一式を譲り受け、全て手探り状態でスタートした。
 両氏の版画を熱心に勧めてくれる人の中に美術評論家の久保貞次郎氏もいて、「版画は刷るよりも売る方が難しい」と力説されていた。採算がとれない事を心配して、刷り上がった作品の一部を買い取ってくれる事になった。
 こうして両氏の版画を1966年から刷る事になる。
 当時は写真製版がまだ開発途上にあって、今のように柔軟に対応できる代物ではなかった。版ズレがあって当たり前というニス原紙のカッティング版で悪戦苦闘したおかげで、印刷にはどう対応したらよいかが、少しずつ見え始めてきた。
(1996年 神戸アートビレッジセンター「版画工房の仕事展」より 岡部徳三 記)


「四人組」の人たちのことについてはいずれ詳しくご紹介したいと思いますが、本日は明日の最終日を前に、もう一点のシルクスクリーン大作を取り急ぎご紹介します。
ぜひコレクションに加えてください。

DSC_0263オノサト・トシノブ「Silk-100」 1983年 シルクスクリーン 60.0×73.0cm Ed.150 Signed

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◎昨日読まれたブログ(archive)/2013年07月27日|小林美香が読む~写真のバックストーリー
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◆ときの忘れものは『オノサト・トシノブ展』を開催し、初期作品を中心に油彩、水彩、版画を17点展示しています。
会期:2020年1月10日[金]―2月1日[土] *日・月・祝日休廊
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・展示の詳細は1月18日ブログに掲載しました。
・オノサト・トシノブの文献については1月24日ブログで紹介しました。
東京都現代美術館で開催中の「MOTコレクション 第3期 いまーかつて 複数のパースペクティブ」に福原義春氏が寄贈したオノサト・トシノブ コレクションの中から、初期具象~べた丸時代の油彩・水彩が31点展示されています(~2月16日、出品リストはコチラ)。

●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。