<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第88回
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少女がこちらをむいている。
こじんまりした顔にちまちまと収まったぱっちりした目、高すぎない鼻、小さな口元。
長い黒髪は腰まで長くまっすぐに伸びている。まるで若さと清純さの代名詞のようだ。
写真にはもうひとつまっすぐなものがあって、
撮り手を見つめる彼女の眼差しがそうなのである。
永遠にまばたかない不動の視線に、写真を見る者の目は射ぬかれ、こちらの身も不動になって固まる。
彼女の手には円盤型の飾りのようなものが握られている。
金属製で、光っていて、円盤の下に軸がついていて、
彼女の指はその軸に当てられている。
シャッターが切られた瞬間にぎゅっと力を入れて押したかのようだ。
口元が少し開いているのが、かすかな脅えの表示にも、なにかを問いかけているようにも見える。
彼女のなにに惹かれて撮り手はレンズをむけたのだろう。
愛らしさ、純粋さ、清らかさ、まっすぐさはもちろんのこと、
それ以上に惹かれたのは、瞼の下から顎にむかって白く塗られていることだったのではないか。
この白い塗りは三角形で、二辺の下方が丸みをおびポケットのような形をしている。
左右対称なのでより一層ポケットに似ている。
美しい顔に、なぜこのような白塗りがほどこされたのか。
顔全体ならまだしも、一部だけがポケットのような形に塗られているのか。
お化粧の途中で止めたような、何かになろうとしてなり切れてないような不安定感が漂っている。
撮り手はそこに反応して六十分の一秒くらいの速度で矢を放った。
その矢は彼女によっておそろしいほどまっすぐに受け止められ、その後すぐにこちら放たれた。
人間の目に対してではなく、機械の目、カメラアイにむかって逆進してくる視線の矢。
彼女のほかにこちらに向けられている顔が三つある。
左手後方にいるごま塩頭の角顔のおじいさんと、柱の横にいる母親と息子らしきふたりである。
おじいさんは撮り手の存在に気付いているらしく、薄目を開けてこちらを見ているが、
口はへの字型で、眉間には皺が寄っていて、うさん臭気な表情だ。
母親の目は無関心そうに別方向を向いているが、少年は気付いている。
顔半分がフレームアウトしてしているので、注がれているのは彼の右目だけだ。
その目は少女と同じくらいまっすぐで、白目と黒目がはっきりしている。
もしも彼の両方の目がフレームに入っていたら、まったくちがう写真になっていただろう。
どんな写真か想像してみてください。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●掲載写真のタイトル
〈South〉より2
●作品情報
2002年
ヴィンテージゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:32.0x25.7cm シートサイズ :35.6x28.0cm
Ed.20 サインあり
●作家紹介
小林紀晴 Kisei KOBAYASHI
1968年長野県生まれ。
東京工芸大学短期大学部写真科卒業。
新聞社カメラマンを経て、1991年よりフリーランスフォトグラファーとして独立。1997年に「ASIAN JAPANES」でデビュー。1997年「DAYS ASIA》で日本写真協会新人賞受賞。2000年12月 2002年1月、ニューヨーク滞在。現在、雑誌、広告、TVCF、小説執筆などボーダレスに活動中。写真集に、「homeland」、「Days New york」、「SUWA」、「はなはねに」などがある。他に、「ASIA ROAD」、「写真学生」、「父の感触」、「十七歳」など著書多数。
●本日のお勧め作品は植田実です。
植田実 Makoto UYEDA
《端島複合体》(16)
1974年撮影(2014年プリント)
ゼラチンシルバープリント
40.4×26.9cm
Ed.5 サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
臨時休廊(在宅勤務)35日目
とうとう5月になってしまいました。雨が降ろうと風が吹こうと「画廊は閉めたらいかん」がモットーだったのに・・・。敬愛する作家の作品をじっくり売る場(個展)も、大勢の人に売る機会(アートフェア)も、リアルな場所を失ってしまった画廊はさてどうしたら生き延びられるでしょうか。ここが思案のしどころです。
スタッフたちは毎日二回、電話会議であれこれ議論しているようです。そこから生まれるアイデアに期待しましょう。
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2013年04月29日|家の記憶~石田了一工房
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◆ときの忘れものは新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、当面の間、臨時休廊とし、スッタフは在宅勤務しています。メールでのお問合せ、ご注文には通常通り対応しています。
◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
(画像をクリックすると拡大します)少女がこちらをむいている。
こじんまりした顔にちまちまと収まったぱっちりした目、高すぎない鼻、小さな口元。
長い黒髪は腰まで長くまっすぐに伸びている。まるで若さと清純さの代名詞のようだ。
写真にはもうひとつまっすぐなものがあって、
撮り手を見つめる彼女の眼差しがそうなのである。
永遠にまばたかない不動の視線に、写真を見る者の目は射ぬかれ、こちらの身も不動になって固まる。
彼女の手には円盤型の飾りのようなものが握られている。
金属製で、光っていて、円盤の下に軸がついていて、
彼女の指はその軸に当てられている。
シャッターが切られた瞬間にぎゅっと力を入れて押したかのようだ。
口元が少し開いているのが、かすかな脅えの表示にも、なにかを問いかけているようにも見える。
彼女のなにに惹かれて撮り手はレンズをむけたのだろう。
愛らしさ、純粋さ、清らかさ、まっすぐさはもちろんのこと、
それ以上に惹かれたのは、瞼の下から顎にむかって白く塗られていることだったのではないか。
この白い塗りは三角形で、二辺の下方が丸みをおびポケットのような形をしている。
左右対称なのでより一層ポケットに似ている。
美しい顔に、なぜこのような白塗りがほどこされたのか。
顔全体ならまだしも、一部だけがポケットのような形に塗られているのか。
お化粧の途中で止めたような、何かになろうとしてなり切れてないような不安定感が漂っている。
撮り手はそこに反応して六十分の一秒くらいの速度で矢を放った。
その矢は彼女によっておそろしいほどまっすぐに受け止められ、その後すぐにこちら放たれた。
人間の目に対してではなく、機械の目、カメラアイにむかって逆進してくる視線の矢。
彼女のほかにこちらに向けられている顔が三つある。
左手後方にいるごま塩頭の角顔のおじいさんと、柱の横にいる母親と息子らしきふたりである。
おじいさんは撮り手の存在に気付いているらしく、薄目を開けてこちらを見ているが、
口はへの字型で、眉間には皺が寄っていて、うさん臭気な表情だ。
母親の目は無関心そうに別方向を向いているが、少年は気付いている。
顔半分がフレームアウトしてしているので、注がれているのは彼の右目だけだ。
その目は少女と同じくらいまっすぐで、白目と黒目がはっきりしている。
もしも彼の両方の目がフレームに入っていたら、まったくちがう写真になっていただろう。
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大竹昭子(おおたけあきこ)
●掲載写真のタイトル
〈South〉より2
●作品情報
2002年
ヴィンテージゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:32.0x25.7cm シートサイズ :35.6x28.0cm
Ed.20 サインあり
●作家紹介
小林紀晴 Kisei KOBAYASHI
1968年長野県生まれ。
東京工芸大学短期大学部写真科卒業。
新聞社カメラマンを経て、1991年よりフリーランスフォトグラファーとして独立。1997年に「ASIAN JAPANES」でデビュー。1997年「DAYS ASIA》で日本写真協会新人賞受賞。2000年12月 2002年1月、ニューヨーク滞在。現在、雑誌、広告、TVCF、小説執筆などボーダレスに活動中。写真集に、「homeland」、「Days New york」、「SUWA」、「はなはねに」などがある。他に、「ASIA ROAD」、「写真学生」、「父の感触」、「十七歳」など著書多数。
●本日のお勧め作品は植田実です。
植田実 Makoto UYEDA《端島複合体》(16)
1974年撮影(2014年プリント)
ゼラチンシルバープリント
40.4×26.9cm
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臨時休廊(在宅勤務)35日目
とうとう5月になってしまいました。雨が降ろうと風が吹こうと「画廊は閉めたらいかん」がモットーだったのに・・・。敬愛する作家の作品をじっくり売る場(個展)も、大勢の人に売る機会(アートフェア)も、リアルな場所を失ってしまった画廊はさてどうしたら生き延びられるでしょうか。ここが思案のしどころです。
スタッフたちは毎日二回、電話会議であれこれ議論しているようです。そこから生まれるアイデアに期待しましょう。
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TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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