柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」第18回
アート・ライト ART-RITE
3月に横浜へ引っ越したため、湯島の仕事場へ向かうことも、県境を越えての移動になってしまいます。なので、仕事場へ出向くのは週一回に抑え、目に付いたものを横浜へ持ち帰り、仕事をする・・・という形にしています。といっても、書籍や版画、資料を吟味して持ち帰るのではなく、目についたものを段ボール箱に詰め込んで車のトランクに入れる・・・何を持ち帰ったかは、横浜に戻って数日後にならないと把握できない、そんな感じです。そんな中、そろそろ連載の準備をと思い、先週持ち帰った箱の中をチェックしていたところ、運よくちょっと珍しいものがありました。
アート・ライト、ART-RITE という雑誌です。1973年から78年までの間、ニューヨークで刊行されました。


エディット・ディアクとウォルター・ロビンソンという人が編集、発行人となっています。約5年のあいだに21号まで刊行されましたが、合併号があったり、また刊行されなかった号があったりと、かなり不定期な雑誌だったようです。
同時に内容も、かなり自由なものでした。創刊号はコンセプチュアル・アーティスト、レス・レヴィンのエッセイに始まり、幾つかの文章、図版、そして広告などが含まれ、8ページと薄いものでしたが、美術雑誌らしい内容となっていました。そして、例えば10号のパフォーマンス特集、14号のアーティスト・ブック特集などは、評論家の文章、アーティストへのインタビューなど、かなり濃い内容となっています。
しかし号が進むにつれて、アーティストの発表の場的なものも出されるようになってきたようです。11号は、全体がローズマリー・メイヤーズの画文集、17号は、全てのページが、ケン・マッコーネルのイメージのみで、文章は掲載されていません。また、20号は、一号丸ごとオペラの楽譜になっています。
今あげた、これらのアーティスですが、実は殆ど聞き覚えもない人たちです。また編集者の二人に関しても、恥ずかしながら知識がありません。機会があったら、他の資料なども参照して、アート・ライト各号の内容の意味を検証したいと思いますが、肝心の資料類がほぼ全て仕事場にあるので・・・次の機会にさせていただきます。



その代わりに、今回はこの「雑誌」の最大の特徴である表紙について書かせていただきます・・・実は、アート・ライト、10号の表紙は、ヨーゼフ・ボイスのマルチプル作品として、カタログ・レゾネに掲載されているのです。(印刷バージョンに加えて手書きバージョンもあったようですが・・・肝心のカタログ・レゾネが仕事場でして・・・宿題です。)

その他の号も、表紙のデザインはアーティストに託されていたようです。幾つかを紹介させていただきます。
3号、リチャード・タトル・・・タトルの版画作品にも通じる、まさに、印刷絵画といった表紙です。

5号、クリスト・・・一部が覆い隠された表紙のイメージです。コラージュされているわけではありません・・・印刷です。が、手元の一冊には、クリストの直筆サインが入っています。

11-12号、エドワード・ルシェ・・・既存のオブジェの写真かとも思います。気になるモチーフですが・・・何なのか調べられませんでした。宿題にします。

14号、カール・アンドレ・・・ミニマル・アートの雄、アンドレの創作は彫刻作品がメインですが、手書きやタイプ打ちした文字による作品も知られています。

最終号となった21号、ジュディ・リフカ・・・表紙自体は真っ白ですが、内部にリフカによる、オリジナル・ドローイングが描かれています。(というか、この号の内容はこのドローイングのみです。)


・・・アート・ライト、全冊のセットが手元にありますが、用紙がそれほど上質のものではありません。正直、余り手を触れたくない気持ちになってしましいます。今回、全冊を取り出してみて・・・こうなったら、内容を覗くことは諦めて、表紙だけを鑑賞するために、額縁に入れてしまおう!とも思い始めています。
(やなぎ まさひこ)
■柳正彦 Masahiko YANAGI
東京都出身。大学卒業後、1981年よりニューヨーク在住。ニュー・スクール・フォー・ソシアル・リサーチ大学院修士課程終了。在学中より、美術・デザイン関係誌への執筆、展覧会企画、コーディネートを行う。1980年代中頃から、クリストとジャンヌ=クロードのスタッフとして「アンブレラ」「包まれたライヒスターク」「ゲート」「オーバー・ザ・リバー」「マスタバ」の準備、実現に深くかかわっている。また二人の日本での展覧会、講演会のコーディネート、メディア対応の窓口も勤めている。
2016年秋、水戸芸術館で開催された「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」も柳さんがスタッフとして尽力されました。
●柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」は毎月20日の更新です。
●本日のお勧め作品は宇田義久です。
宇田義久 Yoshihisa UDA
"bamboo-blind 04 (yellow)"
2004年
木綿布、木綿糸、アクリル絵具、アクリルメディウム、パネル
27.5×27.5×4.0cm
裏面にサインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2015年08月18日|森下泰輔「 戦後・現代美術事件簿 第1回 犯罪者同盟からはじまった」
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◆没後60年 第29回瑛九展(Web展/アポイントメント制)では初めて動画を制作し、第一部と第二部をYouTubeで公開しています。
特別寄稿・大谷省吾さんの「ウェブ上で見る瑛九晩年の点描作品」もあわせてお読みください。
今まで研究者やコレクターの皆さんが執筆して下さったエッセイや、亭主が発信した瑛九情報は2020年5月18日のブログ「81日間<瑛九情報!>総目次(増補再録)」にまとめて紹介しています。
◆ときの忘れもののブログは作家、研究者、コレクターの皆さんによるエッセイを掲載し毎日更新を続けています(年中無休)。
皆さんのプロフィールは奇数日の執筆者は4月21日に、偶数日の執筆者は4月24日にご紹介しています。
◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
アート・ライト ART-RITE
3月に横浜へ引っ越したため、湯島の仕事場へ向かうことも、県境を越えての移動になってしまいます。なので、仕事場へ出向くのは週一回に抑え、目に付いたものを横浜へ持ち帰り、仕事をする・・・という形にしています。といっても、書籍や版画、資料を吟味して持ち帰るのではなく、目についたものを段ボール箱に詰め込んで車のトランクに入れる・・・何を持ち帰ったかは、横浜に戻って数日後にならないと把握できない、そんな感じです。そんな中、そろそろ連載の準備をと思い、先週持ち帰った箱の中をチェックしていたところ、運よくちょっと珍しいものがありました。
アート・ライト、ART-RITE という雑誌です。1973年から78年までの間、ニューヨークで刊行されました。


エディット・ディアクとウォルター・ロビンソンという人が編集、発行人となっています。約5年のあいだに21号まで刊行されましたが、合併号があったり、また刊行されなかった号があったりと、かなり不定期な雑誌だったようです。
同時に内容も、かなり自由なものでした。創刊号はコンセプチュアル・アーティスト、レス・レヴィンのエッセイに始まり、幾つかの文章、図版、そして広告などが含まれ、8ページと薄いものでしたが、美術雑誌らしい内容となっていました。そして、例えば10号のパフォーマンス特集、14号のアーティスト・ブック特集などは、評論家の文章、アーティストへのインタビューなど、かなり濃い内容となっています。
しかし号が進むにつれて、アーティストの発表の場的なものも出されるようになってきたようです。11号は、全体がローズマリー・メイヤーズの画文集、17号は、全てのページが、ケン・マッコーネルのイメージのみで、文章は掲載されていません。また、20号は、一号丸ごとオペラの楽譜になっています。
今あげた、これらのアーティスですが、実は殆ど聞き覚えもない人たちです。また編集者の二人に関しても、恥ずかしながら知識がありません。機会があったら、他の資料なども参照して、アート・ライト各号の内容の意味を検証したいと思いますが、肝心の資料類がほぼ全て仕事場にあるので・・・次の機会にさせていただきます。



その代わりに、今回はこの「雑誌」の最大の特徴である表紙について書かせていただきます・・・実は、アート・ライト、10号の表紙は、ヨーゼフ・ボイスのマルチプル作品として、カタログ・レゾネに掲載されているのです。(印刷バージョンに加えて手書きバージョンもあったようですが・・・肝心のカタログ・レゾネが仕事場でして・・・宿題です。)

その他の号も、表紙のデザインはアーティストに託されていたようです。幾つかを紹介させていただきます。
3号、リチャード・タトル・・・タトルの版画作品にも通じる、まさに、印刷絵画といった表紙です。

5号、クリスト・・・一部が覆い隠された表紙のイメージです。コラージュされているわけではありません・・・印刷です。が、手元の一冊には、クリストの直筆サインが入っています。

11-12号、エドワード・ルシェ・・・既存のオブジェの写真かとも思います。気になるモチーフですが・・・何なのか調べられませんでした。宿題にします。

14号、カール・アンドレ・・・ミニマル・アートの雄、アンドレの創作は彫刻作品がメインですが、手書きやタイプ打ちした文字による作品も知られています。

最終号となった21号、ジュディ・リフカ・・・表紙自体は真っ白ですが、内部にリフカによる、オリジナル・ドローイングが描かれています。(というか、この号の内容はこのドローイングのみです。)


・・・アート・ライト、全冊のセットが手元にありますが、用紙がそれほど上質のものではありません。正直、余り手を触れたくない気持ちになってしましいます。今回、全冊を取り出してみて・・・こうなったら、内容を覗くことは諦めて、表紙だけを鑑賞するために、額縁に入れてしまおう!とも思い始めています。
(やなぎ まさひこ)
■柳正彦 Masahiko YANAGI
東京都出身。大学卒業後、1981年よりニューヨーク在住。ニュー・スクール・フォー・ソシアル・リサーチ大学院修士課程終了。在学中より、美術・デザイン関係誌への執筆、展覧会企画、コーディネートを行う。1980年代中頃から、クリストとジャンヌ=クロードのスタッフとして「アンブレラ」「包まれたライヒスターク」「ゲート」「オーバー・ザ・リバー」「マスタバ」の準備、実現に深くかかわっている。また二人の日本での展覧会、講演会のコーディネート、メディア対応の窓口も勤めている。
2016年秋、水戸芸術館で開催された「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」も柳さんがスタッフとして尽力されました。
●柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」は毎月20日の更新です。
●本日のお勧め作品は宇田義久です。
宇田義久 Yoshihisa UDA"bamboo-blind 04 (yellow)"
2004年
木綿布、木綿糸、アクリル絵具、アクリルメディウム、パネル
27.5×27.5×4.0cm
裏面にサインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
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◎昨日読まれたブログ(archive)/2015年08月18日|森下泰輔「 戦後・現代美術事件簿 第1回 犯罪者同盟からはじまった」
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◆没後60年 第29回瑛九展(Web展/アポイントメント制)では初めて動画を制作し、第一部と第二部をYouTubeで公開しています。
特別寄稿・大谷省吾さんの「ウェブ上で見る瑛九晩年の点描作品」もあわせてお読みください。
今まで研究者やコレクターの皆さんが執筆して下さったエッセイや、亭主が発信した瑛九情報は2020年5月18日のブログ「81日間<瑛九情報!>総目次(増補再録)」にまとめて紹介しています。
◆ときの忘れもののブログは作家、研究者、コレクターの皆さんによるエッセイを掲載し毎日更新を続けています(年中無休)。
皆さんのプロフィールは奇数日の執筆者は4月21日に、偶数日の執筆者は4月24日にご紹介しています。
◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
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