小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第35回
長かった新型コロナの休業でしたが、ようやく６月１日から店舗の営業を再開できました。とはいうものの、通常営業というのは難しく、営業日数、時間を減らしての再スタートです。しばらくの間は、また休業しなくてはならない状況になることも覚悟しての営業となりそうです。
このブログ、いつもは新入荷品についてあれこれとご紹介するのですが、それは一回お休み。
今回は、営業再開にあたって、所信表明、というほど大仰なものでもないのですが、この間考えたことを書きたいと思います。
「斜陽産業」と常日頃言われ続けている出版業界ですが、今回の新型コロナでは、意外にも持ちこたえている印象です。というのも、営業休止している当店のような古書店は除外すると、営業を続けていた新刊書店は、非常に良い売上を出しているようなのです。外出自粛のなか、大手ネット書店が書籍の流通を制御し、日用品の流通に注力したという与件もあったのか、開いている書店は忙しかったようです。ツイッターなどのSNSでも、本に関する話題は多く、「本の底力」を感じた二か月間でした。
一方で、休業して苦境に立たされている書店への支援を呼びかける取り組みもあり、お客様の「本屋を潰さない！」という思いと行動には、本屋の一員として、大変励まされる二か月間でもありました。
この二か月間でこんなにたくさんの方に出版業界が応援いただいたことを考えるとき、やはり我々は「商売」でありながら、それだけではない役割を果たしているのだなぁ、と思います。柄にもなく。
えーと、うまく遠回りして書こうと思ったのですが、うまくいかないので、端的に言いますと、わたしは、今、かなり残念なんですよね。
なにが？あれです。この新型コロナ期間で話題になった「天才編集者」の事件です。
（詳細は語りませんが、編集者が女性ライターに行ったハラスメント事件です。）
事件そのものも、もちろん大問題ではありますが、何よりも残念なのは、自分のことを「天才編集者」と呼ぶ、事件を起こした当人が、他の出版関係者による嫉妬によって事件が大きくなった、と言っていること。
１０万部、１００万部のベストセラーを作る編集者、もちろん「天才」だと思います。
しかし、それと同時に、１０００部の本を作って、何年もかけて売切って、また作る。そういう本を作る編集者も、また「天才」なんです。そして、その両方の「天才」（いや、そもそも天才ってなんだ？）がいるから、商売が成り立ち、商売以上の「何か」が生まれる。
この方は、それを忘れているのではないだろうか？
このブログで、こんなことを取り上げてすみません。
私は基本的に、本屋と出版を商売だと思っていて、そのことに誇りを持っています。
売っているものが「文化」だから誇りを持っているわけではない。
しかし、同時に本が商売以上の「何か」を買った方に与えることがあるのも事実です。
そのバランスの上で、出版業界（古書も含む）は成り立っています。
部数と人気「だけ」にとらわれることのないよう、これからこの仕事を目指す方には、この編集者に影響を受けた方々には、お願いしたいところです。
というわけで、当店の所信表明。
なにを何冊売ったか、を誇りにしない。
この本は青いカバで買った、と覚えてもらえるお店にする。
まぁ、結局営業再開前も同じことを思って商売をしていたんですけどね・・・。
これからもどうぞお付き合いください。よろしくお願いします。
（おくに たかし）
●小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
●本日のお勧め作品は宇田義久です。
宇田義久 Yoshihisa UDA
"leafisheed 13-3(purple-yellow)"
2013年
板、木綿布、アクリル絵具、ウレタンニス
40.0×18.5×9.0cm
裏面にサインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先（住所）」を明記してください。
◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込５丁目４の１ LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン＜コラージ2017年12月号18～24頁＞に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間＝火曜～土曜の平日11時～19時。＊日・月・祝日は休廊。
長かった新型コロナの休業でしたが、ようやく６月１日から店舗の営業を再開できました。とはいうものの、通常営業というのは難しく、営業日数、時間を減らしての再スタートです。しばらくの間は、また休業しなくてはならない状況になることも覚悟しての営業となりそうです。
このブログ、いつもは新入荷品についてあれこれとご紹介するのですが、それは一回お休み。
今回は、営業再開にあたって、所信表明、というほど大仰なものでもないのですが、この間考えたことを書きたいと思います。
「斜陽産業」と常日頃言われ続けている出版業界ですが、今回の新型コロナでは、意外にも持ちこたえている印象です。というのも、営業休止している当店のような古書店は除外すると、営業を続けていた新刊書店は、非常に良い売上を出しているようなのです。外出自粛のなか、大手ネット書店が書籍の流通を制御し、日用品の流通に注力したという与件もあったのか、開いている書店は忙しかったようです。ツイッターなどのSNSでも、本に関する話題は多く、「本の底力」を感じた二か月間でした。
一方で、休業して苦境に立たされている書店への支援を呼びかける取り組みもあり、お客様の「本屋を潰さない！」という思いと行動には、本屋の一員として、大変励まされる二か月間でもありました。
この二か月間でこんなにたくさんの方に出版業界が応援いただいたことを考えるとき、やはり我々は「商売」でありながら、それだけではない役割を果たしているのだなぁ、と思います。柄にもなく。
えーと、うまく遠回りして書こうと思ったのですが、うまくいかないので、端的に言いますと、わたしは、今、かなり残念なんですよね。
なにが？あれです。この新型コロナ期間で話題になった「天才編集者」の事件です。
（詳細は語りませんが、編集者が女性ライターに行ったハラスメント事件です。）
事件そのものも、もちろん大問題ではありますが、何よりも残念なのは、自分のことを「天才編集者」と呼ぶ、事件を起こした当人が、他の出版関係者による嫉妬によって事件が大きくなった、と言っていること。
１０万部、１００万部のベストセラーを作る編集者、もちろん「天才」だと思います。
しかし、それと同時に、１０００部の本を作って、何年もかけて売切って、また作る。そういう本を作る編集者も、また「天才」なんです。そして、その両方の「天才」（いや、そもそも天才ってなんだ？）がいるから、商売が成り立ち、商売以上の「何か」が生まれる。
この方は、それを忘れているのではないだろうか？
このブログで、こんなことを取り上げてすみません。
私は基本的に、本屋と出版を商売だと思っていて、そのことに誇りを持っています。
売っているものが「文化」だから誇りを持っているわけではない。
しかし、同時に本が商売以上の「何か」を買った方に与えることがあるのも事実です。
そのバランスの上で、出版業界（古書も含む）は成り立っています。
部数と人気「だけ」にとらわれることのないよう、これからこの仕事を目指す方には、この編集者に影響を受けた方々には、お願いしたいところです。
というわけで、当店の所信表明。
なにを何冊売ったか、を誇りにしない。
この本は青いカバで買った、と覚えてもらえるお店にする。
まぁ、結局営業再開前も同じことを思って商売をしていたんですけどね・・・。
これからもどうぞお付き合いください。よろしくお願いします。
（おくに たかし）
●小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。
■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。
●本日のお勧め作品は宇田義久です。
宇田義久 Yoshihisa UDA"leafisheed 13-3(purple-yellow)"
2013年
板、木綿布、アクリル絵具、ウレタンニス
40.0×18.5×9.0cm
裏面にサインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先（住所）」を明記してください。
◆ときの忘れものは版画・写真のエディション作品などをアマゾンに出品しています。
●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込５丁目４の１ LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン＜コラージ2017年12月号18～24頁＞に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間＝火曜～土曜の平日11時～19時。＊日・月・祝日は休廊。
コメント