<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第94回

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よく晴れた、雲ひとつない晴天の空である。
周囲に建物がないから、一層広々として感じられ、丘のてっぺんにいるようだ。
その丘の上には、門がある。塀はなく、扉もなく、石と木を組み合わせた柱のうえに二層の屋根だけがのっている。
門のあいだを風が通り抜ける。
人間ではなくて、風がお通りになる門のような清々しさだ。

その門のところに子どもが六人集まっている。ぜんいん女の子。
屋外で写生をすることになり、校舎を出て丘にやって来たのだろう。
どこでも好きなところで描きなさい、と言われて、彼女らはこの門を選んだのだ。

六人のうち、手前の三人は地面に座り込み、膝に画板をのせて描いている。
膝を曲げている子がふたりで、伸している子がひとり。
と思ってよく見ると、その子の横に帽子を被った小さな少女がもうひとり立っている。
お姉さんに付いてきたのだろうか、描いている手元を一心に見つめている。

と、そのとき、上のほうにさらにもうひとりいるのを発見!
帽子の少女から柱にそって視線をあげていくと、
左足の膝から下と、右足の靴先と、画板がほんの一部写っている。
ということは、ここに写っているのは八人という計算になる。

反対側の柱には三人の姿がある。みんな柱の上にあがっている。
スカートのふたりはカメラに背中をむけ、脚を台からおろして腰かけている。
もうひとりは柱に背中をつけ、脚を前に伸ばし、腿の上に画板を載せているが、
うつむいている姿勢が、絵に熱中しているようにも、
描いているうちに居眠りをはじめたようにも見える。
背中向きのふたりはどうかというと、絵をそっちのけでおしゃべりしているような気配……。
高いところにあがり、周囲を見下ろしながら脚をぶらぶらさせていると、
気分がよくなり、写生どころではなくなったのだろう。

それにしても、これほど高い場所に、まだ背丈の大きくない少女たちが上がっていった事実に驚かされる。
足場になるものもあるが、子供の足をひっかけるにしては位置が高すぎる。
柱に抱きついて、よじ登ったのだろうか。

どこでも好きなところで描きなさい、と言われて、ここに上がろうと思う子供は、
現代にはいないはずだ。
叱られるとわかっているから、しない。
そのことを思うと、ひとりが登ると、わたしも、と後につづいた子どもたちを黙って見ていた先生の鷹揚さにも驚く。

よく見ると、背中向きの少女と、脚を前にだした少女とでは、上がっている場所がちがう。
門を支える柱組みが、左右にふたつずつ備わっているのだ。
ということは、手前側にもうひとつ、写真には写っていない柱があるわけで、
そこに別の少女たちが載っているという可能性もあるのではないか。

そのような状態を遠くから眺めたとしよう。
少女たちは門のところに居る、というより、門に群れて止っている、という印象である。
きっとよじ登ったのではなく、飛んできたのだ。
トンボが風にのってやってきて、思い思いの場所に止まり、気が済むとまた飛び去っていくがごとくに。

少し離れた場所には、帽子を被った若いメガネの男が立っている。
この人は撮影者の存在に気付いているようだ。
だれだ、と疑うような目つきでこちらを見ている。
見えない翅で軽々と飛びまわる少女たちの番人にちがいない。

大竹昭子(おおたけあきこ)

●作品情報
山田 實《守礼門でスケッチ 再建された頃》
制作年)1958年
技法)ゼラチン・シルバー・プリント
縦横サイズ)553×379㎜
所蔵)東京都写真美術館

●作家紹介
山田 實(やまだ・みのる/1918-2017)
1918年、兵庫県生まれ。2歳のときに一家で那覇に移住し、1936年に第二中学校(現・那覇高等学校)を卒業。1941年、明治大学商科(現・商学部)卒業後、日産土木(現・りんかい日産建設)に入社し、満州に赴任した。現地で召集され従軍。終戦後はシベリア抑留を経て、1952年に沖縄へ帰還し、同年、那覇で写真機店を開業した。1959年、沖縄ニッコールクラブを結成。2002年、『こどもたちのオキナワ 1955–1965』(池宮商会)を刊行。翌年、那覇市民ギャラリーで「時の謡 人の譜 街の紋 山田實・写真50年」を開催。2012年、『山田實が見た戦後沖縄』(琉球新報社)、『山田實写真集 故郷は戦場だった』(未来社)を刊行。同年、沖縄県立博物館・美術館で「山田實展 人と時の往来」が開催された。翌年、日本写真協会賞功労賞、第29回写真の町東川賞飛驒野数右衛門賞を受賞。没後の2018年、ニコンプラザ新宿で生誕100年を記念して「山田實写真展 きよら生まり島─おきなわ」が開催された。

●展覧会のお知らせ
「TOPコレクション 琉球弧の写真」
kouhou山田實
《手をつないで 糸満漁港》
1960 年 ゼラチン・シルバー・プリント
東京都写真美術館蔵

会期:2020年9月29日(火)~11月23日(月・祝)
開館時間:10:00-18:00 ※入館は閉館の 30 分前まで
休館日:毎週月曜日(ただし 11 月 23 日[月・祝]は開館)
会場:東京都写真美術館 3階展示室(東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)
出品作家:山田 實/比嘉 康雄/平良 孝七/伊志嶺 隆/平敷 兼七/比嘉 豊光/石川 真生
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都写真美術館
助成:公益財団法人ポーラ美術振興財団
出品作品点数:206点(出品リストはこちら

本展では、「琉球弧の写真」と題し、35,000 点を超える当館コレクションから、新規収蔵作品を中心に、沖縄を代表する 7 名の写真家(山田實、比嘉康雄、平良孝七、伊志嶺隆、平敷兼七、比嘉豊光、石川真生)の多種多様な写真表現を紹介します。
沖縄は、その温暖な気候や風土、古来からの歴史を背景に、独自の文化を育んできました。本展出品作品の多くは、1960 年代から 70 年代の沖縄を撮影したものです。市井の人々の暮らしや、大きなうねりとなった復帰運動、古くから各地に伝わる祭祀などを写した作品は、それぞれの写真家にとって、キャリア初期の代表作となっています。
沖縄に暮らし、沖縄にレンズを向けた 7 名の写真家の作品には、沖縄のみならず、琉球弧(奄美群島から八重山列島にかけて弧状に連なる島々)全体を見据えたまなざしがあり、様々な角度から、この土地固有の豊かさと同時に、沖縄が直面する困難を写し出しています。
本展はこれまで沖縄県外の公立美術館で紹介されることが少なかった、沖縄を代表する写真家の作品を網羅的に紹介する初の展覧会です。

公式図録「TOP コレクション 琉球弧の写真」
本展出品作品図版を全点収録。伊藤貴弘(東京都写真美術館学芸員)による論考のほか、作家解説等。
A4版変形、全 264 頁、装丁:田中義久
東京都写真美術館発行、価格:3,000 円(税抜)
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◆書籍のご案内
4c997155-s『室内室外 しつないしつがい 大竹昭子短文集』発売中
発売日:2020年7月7日初版
サイズ:文庫版 80P
著者:大竹昭子
編集協力:大林えり子(ポポタム)
校正:大西香織
装幀:横山 雄+大橋悠治(BOOTLEG)
表紙・挿画:工藤夏海
ロゴデザイン:宮地未華子(古書ほうろう)
印刷・製本:株式会社シナノパブリッシングプレス
©2020 Otake Akiko/Katarikoko Bunko Printed in Japan
サイン入り 税込価格 990円
『室内室外 しつないしつがい』のなかの一編「エイリアンになる」が著者自身の朗読でYouTubeにて聴けます。



●本日のお勧め作品は大竹昭子です。
otake-26大竹昭子 Akiko OTAKE
「ミラノ/ランブラーテ墓地」
Type-Cプリント
35.5×43.0cm Ed.1 Signed
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●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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