小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」第41回

クリスマスが近づいてきました。
今年は、去年の今頃では思いもつかなかったような一年になりました。
今年最後のブログで取り上げたいのは、この1冊です。

202012小国貴司‗IMG_4559『緑の髪のパオリーノ』(講談社)

作者のジャンニ・ロダーリは日本でも多くの読者がいるイタリアの作家です。今年は生誕百年の記念の年。訳者の内田洋子さんから、そんな記念の年にロダーリの新しい翻訳が出版されると聞いて、それだけで、なんとなく頬がゆるんでしまいました。そんな作家です。
同じ講談社文庫から出版されている『パパの電話を待ちながら』もそうですが、今回も短いお話がたくさん収録されていて、一冊の本の形が、キラキラしたドロップが詰め込まれている箱のように見えます。(その「箱」の素晴らしい装画を手掛けた荒井良二さんも、解説でロダーリさんのお話を「あめ玉」に例えていました。)
猫がお話をしたり、山が動いたり、どのお話もファンタジーではありますが、ロダーリさんの書くファンタジーは、完全に我々の世界とは違う場所を書くのではなくて、今日、自分が歩いた町が見せる違う表情、世界が隠していたちょっとした秘密、そんなものを書いているように思えます。

「人間たちが僕たちに星をくれないから、抗議のために占拠しよう・・・」(ネコ星)
「星にじっとしていないで、いつもあちこちに動いてもらいたいのです。
星の行進も見てみたいです。十万個の星が並ぶのです。先頭には、白い旗のように月がいるのです。」(空)

今年は、個人的には、特に物語を読む時間の多い一年でした。
読書をするときに頭の中に浮かぶ光景は、どんなにがんばっても人と共有することができません。だから本質的には、読書は一人ですることだと思います。どんなに小さな子でも、大人でも、たった一人の、自分の頭にしかない世界。だからこそ、たった一つのその世界は尊いし、たとえ絶望的な世界でも、その頭の中の世界は、誰にも侵されない。
でも、逆説的ですが、その世界をいろんな人と共有してみたい、いろんな人の世界を見てみたい、とも思います。
物語を読んでいることの孤独も、つながりも、どちらも大切。そんなことを思えるクリスマスプレゼントを、ロダーリさんたちに貰った気がします。
おくに たかし

小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。

■小国貴司 Takashi OKUNI
「BOOKS青いカバ」店主。学生時代より古書に親しみ、大手書店チェーンに入社後、店長や本店での仕入れ・イベント企画に携わる。書店退職後、新刊・古書を扱う書店「BOOKS青いカバ」を、文京区本駒込にて開業。


●本日のお勧め作品は、百瀬寿です。
momose_07_Square_lame-G_Y_R_V_around_White百瀬寿 Hisashi MOMOSE
"Square lame' - G, Y, R, V around White"
2009年
シルクスクリーン
42.5x42.5cm
Ed.90
サインあり
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11月28日ブログで新連載・塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」が始まりました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。
Water Music 青ラベル、白ラベル塩見允枝子先生には11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきます。塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」は毎月28日掲載です。
連載に合わせて作品も特別頒布させていただきます。お気軽にお問い合わせください。

●ドキュメンタリー叢書創刊 #01『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』が刊行されました。
『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』小執筆:ジョナス・メカス、井戸沼紀美、吉増剛造、井上春生、飯村隆彦、飯村昭子、正津勉、綿貫不二夫、原將人、木下哲夫、髙嶺剛、他
*ときの忘れもので扱っています。メール・fax等でお申し込みください。


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阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。