<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第97回
(画像をクリックすると拡大します)
いつかどこかで見かけたことのある光景のような気がする。
でも、実際は見たことなんかないのである。
男性がふたりで並んで歩いている光景なら、ある。
でも、こんなふうに手をつないではいない。
昨今では子ども同士だってこんなことはしないだろう。
手をつなぐのは、つないでいないと倒れそうだったり、
どこかに行ってしまいがちな幼い子を、親が連れているときくらいである。
さ、手をつなぎましょう、と母親が小さな手をとる。
大人の行こうとする方向に誘導するために手をとる。
これは「つなぐ」というより、「引っぱる」のにちかく、
手をつなぎ合っているという、ほのぼのしたニュアンスとは隔たっている。
ところが、このふたりの男性はそうではなく、
言葉のまったき意味において手をつなぎ合っている。
ひとりがもう一方の手を引くのではなく、
ふたつの手が対等な関係でつながれているのだ。
よくみると、踏み出している足も一緒である。
ということは、この手はただつながれているだけでなく、
前後に振られているのかもしれない。
左の男性のつないでいないほうの手が、体から離れているのに注目したい。
その手には、かばんのようなものが提げられている。
これがつないだ手の動きに合わせて振り子のように揺れ、
徐々に離れていったのではないだろうか。
一方、握っているものが二つ折りの封筒という右の帽子の男性の腕は、
体にぴたりと張り付いている。
この腕の印象の違いが、帽子の男性に「静」的な、無帽の男性には「動」的な印象を与えている。
左の無帽の男性は足の挙げ方も大きい。
全身が躍動して歩調にリズムがついている。
それにしても、どんないきさつがあってふたりは手をつなぐことになったのか?
会合を終えて帰る途上かと思うが、
そこで酒が振る舞われ、ほろ酔い加減になっているとは想像できる。
でも、果たして酔いだけが手をつなぐ条件を満たしうるだろうか。
ふたりは幼なじみで、子どもの頃の記憶に一気に立ち返るような出来事がその場であり、
気持ちが高揚したのかもしれない。
それとも、会合のあとはいつも手をつないで帰るのがふたりの習慣だったのだろうか。
それはない、とは思うが、わからない。
兄弟が手をつないで径を行くユージン・スミスの「楽園への道」という写真作品がある。
手をつないだ後姿がとらえられているので、あれとイメージがダブりもするが、
あの写真になくて、この写真にあるもの、それは謎の存在である。
微笑んで見入りつつも、どうして?と問わずにいられない。
その不可解さが、見るたびに同じ場所へと引きもどし、考え込ませる。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●作品情報
タイトル:「旅は道連れ、世は情け」。城址公園を歩む二人の後ろ姿のアズマシサ(かっこよさ)よ。〈津軽・聊爾先生行状記〉より
写真:秋山亮二 ©Ryoji Akiyama
技法:ゼラチン・シルバー・プリント
●作家紹介
秋山亮二 (あきやま りょうじ)
1942年、東京に生まれる。父は写真家の秋山青磁(1905—1978)。1964年、早稲田大学文学部卒業後、AP通信社東京支局、朝日新聞社写真部を経て、1967年にフリーランスの写真家となる。フォトジャーナリストの視点で国内外の社会問題を積極的に取材し、作品を発表。1974年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の企画展「New Japanese Photography」に森山大道、深瀬昌久らとともに出品。
その後、アメリカや中国、日本各地での旅や滞在を通じてとらえたユニークな作品を発表し、独自の写真世界を確立した。主な写真集に『津軽・聊爾先生行状記』(津軽書房、1978年)、『ニューヨーク通信』(牧水社、1980年)、『楢川村』(朝日新聞社、1991年)、『なら』(遊人工房、2006年)、訳書に『アメリカの世紀 1900-1910 20世紀の夜明け』(西武タイム、1985年)、エッセイ集に『扇子のケムリ』(法曹会、2014年)がある。MoMA、東京都写真美術館、青森県立美術館などに作品が収蔵されている。
近年、1983年に刊行された写真集『你好小朋友—中国の子供達』の復刻版と、同シリーズの未発表作をまとめた『光景宛如昨—中国の子供達II』(いずれも青艸堂)が日本と中国で刊行されて大きな反響を呼び、再評価が進んでいる。
●写真展のお知らせ
FUJIFILM SQUARE 写真歴史博物館 企画写真展ここに人間味あふれる写真家がいます。秋山亮二「津軽・聊爾(りょうじ)先生行状記」
開催期間 : 2021年1月4日(月) – 3月31日(水)
10:00–19:00(最終日は16:00まで、入館は終了10分前まで) 会期中無休
※ 写真展・イベントはやむを得ず、中止・変更させていただく場合がございます。予めご了承ください。
会 場 : FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア) 写真歴史博物館
〒 107-0052 東京都港区赤坂9丁目7番3号(東京ミッドタウン・ウエスト)
TEL 03-6271-3350 URL http://fujifilmsquare.jp/
作品点数 :小全紙サイズ・30点(予定)
入 館 料 :無料
※ 企業メセナとして実施しており、より多くの方に楽しんでいただくために入館無料にしております。
主 催 :富士フイルム株式会社
後 援 : 港区教育委員会
企 画 : フォトクラシック
●写真集のお知らせ
フジフイルム スクエア 写真歴史博物館 企画写真展「秋山亮二『津軽・聊爾先生行状記』」開催を機に、42年ぶりに新装復刻の写真集が刊行されました。

秋山亮二『新編 津軽 聊爾先生行状記』
【刊行日】2020 年 12 月 21 日
【サイズ】210×210mm
【ページ数】全 96 ページ
【写真点数】42 点
(初版に未収録作品4点を含む)
【価格】3,960 円(税込)、限定 100 部オリジナルプリント付き 11,000 円(税込)
【発行元】rojirojibooks
フジフイルム スクエアでの販売は2021年3月31日まで。その他、青山ブックセンター本店(東京・表参道)、スタンダードブックストア(大阪)、恵文社一乗寺店(京都)、青森県立美術館ミュージアムショップ(青森)ほか各オンライン書店(shashasha、ONREADING)などでも発売中です。
●新刊のお知らせ
大竹昭子さんがはじめた書籍レーベル<カタリココ文庫>から新刊『五感巡礼』がでました。
日本経済新聞「プロムナード」の連載を再構成した随想録で、ひとつのエピソードが思わぬ方向に発展して五感を巡礼していきます。
全国の特約書店および通販でお求めいただけます。
https://katarikoko.stores.jp/
●塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」第3回を掲載しました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。
塩見允枝子先生には11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきます。1月28日には第3回目の特別頒布会を開催しました。
●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。
もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
(画像をクリックすると拡大します)いつかどこかで見かけたことのある光景のような気がする。
でも、実際は見たことなんかないのである。
男性がふたりで並んで歩いている光景なら、ある。
でも、こんなふうに手をつないではいない。
昨今では子ども同士だってこんなことはしないだろう。
手をつなぐのは、つないでいないと倒れそうだったり、
どこかに行ってしまいがちな幼い子を、親が連れているときくらいである。
さ、手をつなぎましょう、と母親が小さな手をとる。
大人の行こうとする方向に誘導するために手をとる。
これは「つなぐ」というより、「引っぱる」のにちかく、
手をつなぎ合っているという、ほのぼのしたニュアンスとは隔たっている。
ところが、このふたりの男性はそうではなく、
言葉のまったき意味において手をつなぎ合っている。
ひとりがもう一方の手を引くのではなく、
ふたつの手が対等な関係でつながれているのだ。
よくみると、踏み出している足も一緒である。
ということは、この手はただつながれているだけでなく、
前後に振られているのかもしれない。
左の男性のつないでいないほうの手が、体から離れているのに注目したい。
その手には、かばんのようなものが提げられている。
これがつないだ手の動きに合わせて振り子のように揺れ、
徐々に離れていったのではないだろうか。
一方、握っているものが二つ折りの封筒という右の帽子の男性の腕は、
体にぴたりと張り付いている。
この腕の印象の違いが、帽子の男性に「静」的な、無帽の男性には「動」的な印象を与えている。
左の無帽の男性は足の挙げ方も大きい。
全身が躍動して歩調にリズムがついている。
それにしても、どんないきさつがあってふたりは手をつなぐことになったのか?
会合を終えて帰る途上かと思うが、
そこで酒が振る舞われ、ほろ酔い加減になっているとは想像できる。
でも、果たして酔いだけが手をつなぐ条件を満たしうるだろうか。
ふたりは幼なじみで、子どもの頃の記憶に一気に立ち返るような出来事がその場であり、
気持ちが高揚したのかもしれない。
それとも、会合のあとはいつも手をつないで帰るのがふたりの習慣だったのだろうか。
それはない、とは思うが、わからない。
兄弟が手をつないで径を行くユージン・スミスの「楽園への道」という写真作品がある。
手をつないだ後姿がとらえられているので、あれとイメージがダブりもするが、
あの写真になくて、この写真にあるもの、それは謎の存在である。
微笑んで見入りつつも、どうして?と問わずにいられない。
その不可解さが、見るたびに同じ場所へと引きもどし、考え込ませる。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●作品情報
タイトル:「旅は道連れ、世は情け」。城址公園を歩む二人の後ろ姿のアズマシサ(かっこよさ)よ。〈津軽・聊爾先生行状記〉より
写真:秋山亮二 ©Ryoji Akiyama
技法:ゼラチン・シルバー・プリント
●作家紹介
秋山亮二 (あきやま りょうじ)
1942年、東京に生まれる。父は写真家の秋山青磁(1905—1978)。1964年、早稲田大学文学部卒業後、AP通信社東京支局、朝日新聞社写真部を経て、1967年にフリーランスの写真家となる。フォトジャーナリストの視点で国内外の社会問題を積極的に取材し、作品を発表。1974年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の企画展「New Japanese Photography」に森山大道、深瀬昌久らとともに出品。
その後、アメリカや中国、日本各地での旅や滞在を通じてとらえたユニークな作品を発表し、独自の写真世界を確立した。主な写真集に『津軽・聊爾先生行状記』(津軽書房、1978年)、『ニューヨーク通信』(牧水社、1980年)、『楢川村』(朝日新聞社、1991年)、『なら』(遊人工房、2006年)、訳書に『アメリカの世紀 1900-1910 20世紀の夜明け』(西武タイム、1985年)、エッセイ集に『扇子のケムリ』(法曹会、2014年)がある。MoMA、東京都写真美術館、青森県立美術館などに作品が収蔵されている。
近年、1983年に刊行された写真集『你好小朋友—中国の子供達』の復刻版と、同シリーズの未発表作をまとめた『光景宛如昨—中国の子供達II』(いずれも青艸堂)が日本と中国で刊行されて大きな反響を呼び、再評価が進んでいる。
●写真展のお知らせ
FUJIFILM SQUARE 写真歴史博物館 企画写真展ここに人間味あふれる写真家がいます。秋山亮二「津軽・聊爾(りょうじ)先生行状記」開催期間 : 2021年1月4日(月) – 3月31日(水)
10:00–19:00(最終日は16:00まで、入館は終了10分前まで) 会期中無休
※ 写真展・イベントはやむを得ず、中止・変更させていただく場合がございます。予めご了承ください。
会 場 : FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア) 写真歴史博物館
〒 107-0052 東京都港区赤坂9丁目7番3号(東京ミッドタウン・ウエスト)
TEL 03-6271-3350 URL http://fujifilmsquare.jp/
作品点数 :小全紙サイズ・30点(予定)
入 館 料 :無料
※ 企業メセナとして実施しており、より多くの方に楽しんでいただくために入館無料にしております。
主 催 :富士フイルム株式会社
後 援 : 港区教育委員会
企 画 : フォトクラシック
●写真集のお知らせ
フジフイルム スクエア 写真歴史博物館 企画写真展「秋山亮二『津軽・聊爾先生行状記』」開催を機に、42年ぶりに新装復刻の写真集が刊行されました。

秋山亮二『新編 津軽 聊爾先生行状記』
【刊行日】2020 年 12 月 21 日
【サイズ】210×210mm
【ページ数】全 96 ページ
【写真点数】42 点
(初版に未収録作品4点を含む)
【価格】3,960 円(税込)、限定 100 部オリジナルプリント付き 11,000 円(税込)
【発行元】rojirojibooks
フジフイルム スクエアでの販売は2021年3月31日まで。その他、青山ブックセンター本店(東京・表参道)、スタンダードブックストア(大阪)、恵文社一乗寺店(京都)、青森県立美術館ミュージアムショップ(青森)ほか各オンライン書店(shashasha、ONREADING)などでも発売中です。
●新刊のお知らせ
大竹昭子さんがはじめた書籍レーベル<カタリココ文庫>から新刊『五感巡礼』がでました。日本経済新聞「プロムナード」の連載を再構成した随想録で、ひとつのエピソードが思わぬ方向に発展して五感を巡礼していきます。
全国の特約書店および通販でお求めいただけます。
https://katarikoko.stores.jp/
●塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」第3回を掲載しました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。
塩見允枝子先生には11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきます。1月28日には第3回目の特別頒布会を開催しました。●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。
もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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