<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第102回

202106大竹昭子(画像をクリックすると拡大します)
なんだかとても楽しそうである。
三人の女性が笑いながら何かしている。
左の女性は薙刀でも構えるような手つきで長い竹竿を抱え、
真ん中の女性はその竹竿の穴に、手にした看板の柄を差し込もうとしている。
遠くからでも見えるように、看板の柄を長くして頭上に掲げようというのだろう。

「うまくはいんない! 穴が見えない!」
真ん中の女性が笑いながら言うと、
横から手が伸びてきて、「竹竿を下げて縦にしなきゃ」。
そう言った彼女は、反対側の手を別の女性の腕に絡めている。
スクラムを組んでいるところなのだ。

看板が傾いていて字がうまく読めないが、
下の中央の文字は「大学」で、それにつづくのは「学友会」か。
いちばん上の文字は判読不可能だが、二段目の頭は「紛」かもしれない。

要するに女性たちはデモの最中なのである。
女だけで腕を組んで何事かに抗議している。
看板にはその抗議の題目が書かれているのだろう。

デモだとわかると、このうれしげな表情はちょっと場違いにも感じる。
運動会の準備をしていると言われたほうがまだ納得する気がする。
もしかしたら、デモというものにはじめて参加したのだろうか。
これまでマスコミで見聞きしていただけだった街頭デモに仲間たちと加わり、
自分たちの思うことを世間にむけて表明した。
思わず気持ちが弾んできて、笑みもこぼれて、まぶしいほどの初々しさだ。

左端に男子学生らしい人影が写っている。
もっと長い竹竿を掲げており、先端には旗がついている。
どうして男女が混じって一緒にクラムを組まないのだろう、とは思う。
いまなら当然そうするだろう。
この頃は別々に組むのがふつうだったのだろうか。
それとも彼女らは女子大の学生たちで、学校ごとに参加していたか。

この場面に男子学生が遭遇したとしよう。
「なーにやってんだ。だめだなあ、貸してみな」
と彼はまず左の女性から奪った竹竿を地面に立て、
もう一方の手で真ん中の女性から看板をもぎ取り、
あっという間に差し込んでしまうだろう。

でも、自分たちで笑いながらやるのが楽しいのだ。
うまくいかないから協働する歓びがあるし、
慣れた手つきでおこなう型通りのデモより希望が感じられる。
彼女たちはいまどこでどうしているのだろう。
その後を知りたいと強く思わせる。
大竹昭子(おおたけあきこ)

●作品情報
〈日米安保条約反対デモ〉より 1960年

●作家紹介
篠山紀信 Shinoyama Kishin
1940年東京生まれ。日本大学藝術学部写真学科在学中の61年に広告写真家協会展APA賞受賞。広告制作会社「ライトパブリシティ」を経て、68年よりフリー写真家として活動開始。66年東京国立近代美術館「現代写真の10人」展に最年少で参加。76年にはヴェネツィア・ビエンナーレ日本館の代表作家に選ばれるなど、その表現は早くから評価を受ける一方で、1971年より『明星』の表紙を担当して以降、写真家として時代を牽引する存在となる。70年日本写真協会年度賞、72年芸術選奨文部大臣新人賞、73年講談社出版文化賞、79年毎日芸術賞、98年国際写真フェスティバル金賞、2020年菊池寛賞など受賞歴多数。東京都写真美術館 第二期重点収集作家。

●写真展のお知らせ
『新・晴れた日 篠山紀信』
会期:2021年5月18日~8月15日
会場:東京都写真美術館、2階・3階展示室
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
電話番号:03-3280-0099 
開館時間:10:00~18:00 ※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月(祝日の場合は翌平日)
料金:一般 1200円 / 学生 950円 / 中高生・65歳以上 600円
※オンラインによる日時指定予約(推奨)

●写真展図録のお知らせ
『新・晴れた日 篠山紀信』
発行年:2021年5月
発行元:光村推古書院
サイズ:255×210mm
仕様:160ページ
アートディレクション:細谷巖
言語:日、英
価格:2,970円(税込)
「篠山紀信 新・晴れた日」展覧会カタログ。出品作品図版を全点収録、関昭郎(東京都写真美術館学芸員)による論考など。

●本日のお勧め作品は大竹昭子です。
otake-36大竹昭子 Akiko OTAKE
《ミラノ/大聖堂》
ラムダプリント
イメージサイズ:16.6×23.3cm
Ed.8
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。