優れたものはほっておいても必ず評価される、なんてのは嘘です。誰かが、これは美しい、大切なものなのだと言い続けなければ、あっという間に忘れ去られ、<なかった>ことになってしまいます。
北川太一)>

ときの忘れものが弘前市を訪ねる建築ツアーを組んだのは、尾立麗子が入社した2005年の秋10月でした。
弘前には建築家・前川國男が設計した建物が八つもあり、すべてが現在でも丁寧に使われ大切にされています。
2005年弘前木村産業研究所1)
前川國男設計:木村産業研究所、当時はかなり傷んだ状態でした。

2005年弘前木村産業研究所2)
あれから16年、木村産業研究所が国の重要文化財に指定される見込みです。ここに至るまでには「前川國男の建物を大切にする会」などの長年の地道な活動がありました。建築には門外漢の亭主ですが、同会の人たちに<建築専門でない人に地元が気づいていない弘前の魅力をしゃべって欲しい>と乞われ、2010年5月に『ときのわすれもの-都市を巡る・画商が見た、弘前・建築・アート・人-』という話をしたこともありました。

嬉しいニュースの一方で同じ前川國男が手掛けた東京海上日動ビルや、磯崎新先生の文字通りの代表作である旧・福岡相互銀行本店の解体という悲しいニュースも続きました。
IMG_7598磯崎新設計:西日本シティ銀行本店(旧・福岡相互銀行本店)
2019年9月撮影

2019年にプリツカー賞を受賞した磯崎新先生の初期のパトロンは岩田学園の岩田英二先生と、福岡相互銀行頭取の四島司さんでした(二人とも故人)。岩田学園は現存し今も若い世代の教育施設として健在ですが、四島さんが磯崎先生を設計者に登用し1967年から1973年にかけて次々と建てた福岡相互銀行の本店、六つの支店(大分、大名、東京、長住、六本松、佐賀)は全て消えてしまいました。
解体されることにより、人々の記憶や経験までが失われてしまう。
磯崎新「還元OFFICE1(BANK)」磯崎新
「OFFICE I(BANK)」(福岡相互銀行本店)
1983年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:55.0x55.0cm
シートサイズ:90.0x63.0cm
Ed.75  サインあり

大昔、磯崎先生が亭主に言った「俺の建築は100年経ったら一軒も残っていないだろうが、紙は残る」という言葉が俄かに現実味を帯びてきました。
悲しいし、残念でなりません。
こういう場合、必ずあげられる理由は「老朽化」という言葉ですが、真の理由は「経済」でしょう、壊してもっと儲かる不動産にしたいという欲望。

壊して新たにつくる、その繰り返しは文化を生まないし育ちません。
先日のブログでご紹介した安藤忠雄先生が改修設計したパリの最新美術館「Bourse de Commerce Pinault Collection ブルス・ドゥ・コメルス - ピノー・コレクション」は、18世紀の穀物取引所だった歴史的建造物を実業家のフランソワ・ピノーが時間とお金をかけて再生したもので、一気に世界の注目を集めています。
casa brutus202105表紙雑誌『Casa BRUTUS』2021年5月号でブルス・ドゥ・コメルスが特集されています。

casa brutus202105 彼我の文化の違いというか、底力を感ぜざるを得ません。

当初、ピノー氏はセーヌ川の中州、かつてルノーの自動車工場があったスガン島に美術館を建てる計画だったのですが実現せず(下の版画がそのプロジェクトです)、新たな構想でこのたびの新美術館竣工となりました。
安藤忠雄「ピノー」安藤忠雄「ピノー美術館
2003年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:36.0x86.0cm
シートサイズ:65.5x90.0cm
Ed.15  サインあり

これもコンペで敗れ実現しなかったロンドンのテート・モダンのプロジェクト。紙の上(版画)では永遠に遺ります。
安藤忠雄テートモダン安藤忠雄「テート・モダン
2002年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:33.0x86.0cm
シートサイズ:75.0x106.0cm
Ed.15  サインあり

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*お詫び
前回の「没後10年 元永定正もこもこワールドPartⅡ」展の案内状には次回の案内として「生誕100年 駒井哲郎展 Part.2」を予告しておりました。しかしコロナ感染がやまず、ご遺族も監修者の皆さんもご来場が難しいと判断し、再延期といたしました。ネットやメルマガでは再延期のお知らせをしていたのですが、ネットを使われていない方への周知が足らず、開催中と思われた方が来廊されました。たいへん申し訳なく、お詫びいたします。

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
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