昨日は磯崎新先生が設計した名作・福岡相互銀行本店が解体取り壊しという悲しいニュースに触れ、現実の建物が無くなってもそのコンセプトを二次元化した「版画」は残ると書きましたが、本日は現代版画センターの共同エディションで生まれた磯崎新先生らの銅版画集を特別頒布します。

先月6月21日のブログは梅津元先生による「関根伸夫資料をめぐって」第5回でしたが、関根伸夫先生が主宰した環境美術研究所と、ほぼ同時期に結成された現代版画センター(1974~1985)に共通する活動として<「地方」の重要さ>を指摘されています。
現代版画センターは、中央偏重の美術の現状に対して、生活実感のある地方への美術の普及を志した。それは、複数性という表現媒体としての利点と、比較的廉価で入手できる経済的な利点という、版画の特性を存分に生かした活動であった。(梅津元)>

現代版画センターの活動については埼玉県立近代美術館で2018年に開催された『版画の景色 現代版画センターの軌跡』展図録をご参照いただきたいのですが、版元としての現代版画センターが地方の拠点(支部)に作品を卸すという流通機構としての面もありますが、むしろ作品を享受する側が積極的に制作に関与するための「会員制による共同版元」というのが当時の私たちの目指したものでした。
10年余りの活動で約80作家、700点のエディションを制作、発表できた原動力は、全国各地の支部との「共同エディション」でした。
どういう仕組みかというと、各地方には地元出身や所縁の作家を応援したいというコレクターがおり、またその地方を題材にした作品を生み出したいという人々の夢もありました。
制作にかかる費用を折半し、出来あがった作品も現代版画センターと支部が半分づつ分け合い頒布しました。具体的にどのよううな作品が共同エディションとして生まれたのか、いくつかの例をご紹介し、特別頒布します(7月31日までの期間限定)。

1)秋田県大曲画廊との共同エディション
木村茂 銅版画集「角館」
文:船木仁
銅版画5点組(作家自刷り、限定50部)
刊行:1975年7月31日
発行:現代版画センターと秋田県大曲画廊(佐藤功介)との共同エディション
初めての共同エディションは木村茂先生に大曲、角館を取材していただき生まれました。
地元の歯科医でVOUの同人だった船木仁先生とやはり地元の高校の日本画教師だった佐藤功介先生が現代版画センターのためだけに作ってくださったのが佐藤先生の実家の土間を改造した大曲画廊でした。
木村茂「角館」01

木村茂「角館」02

木村茂「角館」03

古城山
木村茂「角館」04《古城山》

桜並木
木村茂「角館」05《桜並木》

百穂碑前にて
木村茂「角館」06《百穂碑前いて》

民家
木村茂「角館」07《民家》

屋敷街
木村茂「角館」08《屋敷街》


2)岩手県MORIOKA第一画廊との共同エディション
舟越保武 銅版画集「若い女」
銅版画3点組(刷り・宮下登喜雄、限定150部)
刊行:1982年4月11日
発行:現代版画センターと岩手県MORIOKA第一画廊(上田浩司)との共同エディション
上田浩司さんは現代版画センターの旗揚げに駆け付けてくれ、全国に先駆けて最初の支部に名乗りをあげてくださいました。上田さんが敬愛したのが岩手ゆかりの松本竣介舟越保武先生でした(二人は中学の同級生です)。版画センターの舟越作品はほとんどがMORIOKA第一画廊との共同エディションで生まれました。
舟越保武「若い女」01

舟越保武「若い女」02

舟越保武「若い女」03

若い女
舟越保武「若い女」04《若い女》

横顔
舟越保武「若い女」05《横顔》

若い女・横顔
舟越保武「若い女」06《若い女・横顔》


3)福井県アートフル勝山の会との共同エディション
磯崎新 銅版画集「MOCA」
銅版画2点組(刷り・山村兄弟版画工房、限定100部)
刊行:1983年11月10日
発行:現代版画センターと福井県アートフル勝山の会(荒井由泰)との共同エディション
地元の実業家でありコレクターの荒井由泰さんはこのブログでも常連執筆者なのでご存じの方も多いでしょう。
現代版画センターの初期からの会員であり、同じく地元の医師の中上光雄・陽子ご夫妻も熱心な会員でした。その縁で、人口2万人の小さな山間の街に磯崎新設計の個人住宅が二軒もあります。中上夫妻の自宅・中上邸イソザキホールは勝山の文化サロンとしても今も親しまれています。
銅版画集のモチーフは磯崎先生の設計したMOCA(ロサンゼルス現代美術館)です。
磯崎新「MOCA」01

磯崎新「MOCA」02

磯崎新「MOCA」03

MOCA #4
磯崎新「MOCA」04《MOCA #4》

MOCA #5
磯崎新「MOCA」05《MOCA #5》

以上、三つの銅版画集をご紹介しましたが、ぜひコレクションに加えてください。
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埼玉県立近代美術館での「版画の景色―――現代版画センターの軌跡」展に関しては、植田実先生のレビュー「美術展のおこぼれ第47回」をぜひご参照ください。

*画廊亭主敬白
本日7月18日はデザイナー北澤敏彦さんの命日です。ときの忘れものの開廊時からすべての案内状、図録等のデザインを担当され、2017年7月18日に亡くなられました。最後の仕事は「植田正治展」のカタログと、ときの忘れものの移転案内状でした。心よりご冥福を祈ります。

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。