佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第58回
仮囲いの群れ
モノの群、群体として世界を捉えてみること、群れによって場所を作り出すこと。ここ数年来、自分の興味が向かっている先はその辺りだ。数年前カメラを作り、さて次はどうしようかと考えたが、結局今も引き続き、木製ピンホールカメラを作っている。そして、作るカメラはやはり複数なければいけない気がするし、そもそもカメラである限り被写体という他者、別の存在を必要としている。他者の存在を必要とするカメラというモノのあり方、道具性において、先の群体を作り出すための可能性を感じているのだ。
一つの針穴から光を取り込み、内部の印画紙を感光させていくその仕組みはとても単純であるが、針穴の径とカメラ内部の空洞形状と寸法によって写る像は大きく異なる。内部の空間操作が、外界の像の取り込み方を定める。よってなかなかコントロールできない部分もあり難しいが、面白い。カメラを作る時にはそんな内部の空洞のあり方と同時に、カメラの外部の形状を考える。複数のカメラを制作し、同時に撮影し合った際にはそれが撮影者であり、また被写体でもある存在の両義性が、そのまま内部と外部の造形の根拠となる。
そしてもう一つ、今回、外部造形でありながらも写す像に影響を及ぼすモノとして、カメラ本体に加えてその正面に取り付けるフィルター、ある種の仮面、仮囲いの制作に取り組んでいる。
（制作途中9：鉛筆、顔彩、画用紙）
（制作途中10：鉛筆、顔彩、画用紙）
（制作途中11：鉛筆、顔彩、画用紙）
仮面はなかなかに呪術的で妖美な存在だ。あらゆる文化圏の演劇、儀式において仮面といいう道具が用いられるし、造形もさまざまでどれも魅力に溢れている。建築ではJ・ヘイダックの、仮面劇を建築スケールで展開した自律的な都市建築を試行する群像プロジェクトがまず思い浮かぶ。
仮面はさまざまな解釈を要請する。多層にわたって示唆的なモノであるが、今回の制作プロジェクトにおいて仮面は、「内部空間＝空洞」に対する「外部の表皮＝装飾」である、ということを書き留めておきたい。なので、仮面という擬人的な道具というよりはむしろ仮囲い、なのかもしれない。そうした空洞に対する装飾を考えるということは、スケールは少々異なるが、建築の創作においても全く同じ問題構制を抱いている。さらに、今回のカメラにおける仮面あるいは仮囲いは、単なる物体＝オブジェクトを、日本語的な意味での「モノ」という含意に富む存在に次元を押し上げていくための一要素となりうるだろう、とも直感している。これは直感でしかないので、実際の造形によって確かめるしかない。
仮囲いの群れ。今回の制作プロジェクトにそんな言葉を付したいと思う。
（制作途中のカメラの姿写真に鉛筆で加筆）
（制作途中のカメラの姿写真に鉛筆で加筆）
（制作途中のカメラの姿写真に鉛筆で加筆）
（さとう けんご）
■佐藤研吾（さとう けんご）
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程（石山修武研究室）修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧めは尾川宏です。
尾川宏 Hiroshi OGAWA
《CONSTRUCT 90》
合成樹脂
Ed.200
34.0×34.0×36.0cm
刻印あり、特製ケース入り
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先（住所）」を明記してください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込５丁目４の１ LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会（Web展）を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン＜コラージ2017年12月号18～24頁＞の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間＝火曜～土曜の平日11時～19時。＊日・月・祝日は休廊。
仮囲いの群れ
モノの群、群体として世界を捉えてみること、群れによって場所を作り出すこと。ここ数年来、自分の興味が向かっている先はその辺りだ。数年前カメラを作り、さて次はどうしようかと考えたが、結局今も引き続き、木製ピンホールカメラを作っている。そして、作るカメラはやはり複数なければいけない気がするし、そもそもカメラである限り被写体という他者、別の存在を必要としている。他者の存在を必要とするカメラというモノのあり方、道具性において、先の群体を作り出すための可能性を感じているのだ。
一つの針穴から光を取り込み、内部の印画紙を感光させていくその仕組みはとても単純であるが、針穴の径とカメラ内部の空洞形状と寸法によって写る像は大きく異なる。内部の空間操作が、外界の像の取り込み方を定める。よってなかなかコントロールできない部分もあり難しいが、面白い。カメラを作る時にはそんな内部の空洞のあり方と同時に、カメラの外部の形状を考える。複数のカメラを制作し、同時に撮影し合った際にはそれが撮影者であり、また被写体でもある存在の両義性が、そのまま内部と外部の造形の根拠となる。
そしてもう一つ、今回、外部造形でありながらも写す像に影響を及ぼすモノとして、カメラ本体に加えてその正面に取り付けるフィルター、ある種の仮面、仮囲いの制作に取り組んでいる。
（制作途中9：鉛筆、顔彩、画用紙）
（制作途中10：鉛筆、顔彩、画用紙）
（制作途中11：鉛筆、顔彩、画用紙）仮面はなかなかに呪術的で妖美な存在だ。あらゆる文化圏の演劇、儀式において仮面といいう道具が用いられるし、造形もさまざまでどれも魅力に溢れている。建築ではJ・ヘイダックの、仮面劇を建築スケールで展開した自律的な都市建築を試行する群像プロジェクトがまず思い浮かぶ。
仮面はさまざまな解釈を要請する。多層にわたって示唆的なモノであるが、今回の制作プロジェクトにおいて仮面は、「内部空間＝空洞」に対する「外部の表皮＝装飾」である、ということを書き留めておきたい。なので、仮面という擬人的な道具というよりはむしろ仮囲い、なのかもしれない。そうした空洞に対する装飾を考えるということは、スケールは少々異なるが、建築の創作においても全く同じ問題構制を抱いている。さらに、今回のカメラにおける仮面あるいは仮囲いは、単なる物体＝オブジェクトを、日本語的な意味での「モノ」という含意に富む存在に次元を押し上げていくための一要素となりうるだろう、とも直感している。これは直感でしかないので、実際の造形によって確かめるしかない。
仮囲いの群れ。今回の制作プロジェクトにそんな言葉を付したいと思う。
（制作途中のカメラの姿写真に鉛筆で加筆）
（制作途中のカメラの姿写真に鉛筆で加筆）
（制作途中のカメラの姿写真に鉛筆で加筆）（さとう けんご）
■佐藤研吾（さとう けんご）
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程（石山修武研究室）修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
●本日のお勧めは尾川宏です。
尾川宏 Hiroshi OGAWA《CONSTRUCT 90》
合成樹脂
Ed.200
34.0×34.0×36.0cm
刻印あり、特製ケース入り
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先（住所）」を明記してください。
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込５丁目４の１ LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会（Web展）を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
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