◆Uコレクション展
会期=2021年11月26日(金)―12月11日(土)
建築界で長年活躍されているU氏は、編集者としての仕事や建築批評のほかに、美術についてのエッセイや展覧会レビューも手がけ、またその共感を示すコレクターでもありました。
このたびそのコレクションから21作家の24点を選び、52頁に及ぶカタログでは、U氏と草間彌生さんとの対談(1983年)や今までの評論の再録と併せて、新たにそれぞれの作家について綴った覚え書きを収録しています。

絵の行方
東京・品川にあった、建築家・土浦亀城自邸の解体工事が今年から始まり、もう終わった頃だ。1935年竣工。この時代に日本に実現したいわばモダニズム住宅のなかでももっとも純粋で、しかも奇蹟的に残されていた、木造・平屋根の建築遺産である。50 年前にこの住宅を初めて訪ね、屋内もひととおり見せていただくことがあった。土浦御夫妻もお元気だった。
その住宅はただモダンスタイルなのではない。傾斜地にある条件を逆に反映・利用して、玄関ホール、ギャラリー、寝室・書斎、浴室など、地階から2階にかけての各フロアを、慣習的な区切りから解き放つように連結した。それぞれに落ち着いた場があると同時に隣接した場と融合している。ワンルームシステムが思いがけない働きをしている。その中心は2層吹き抜けになっていて、寝室も食堂もギャラリーも玄関ホールも、いつのまにかそこに組み込まれ、別の場に変質しているのだ。
この2層分の高さの居間は、南側は可愛らしい庭に面し、北は2階の寝室、1階の食堂と一体になっている。西側は2階の書斎、中2階のギャラリー、1階のソファ、そして少し下がった玄関ホールに開かれている。平・断面図も写真もなしの説明で申しわけないのだが要するに、大きな透明の立体(あるい
は箱)に、小さな透明の立体がいくつも、何層にも貼りついている。こんな建築空間は滅多にない。
その吹き抜け居間の、残る東面は、大きな壁面だけ。ここは上手いなあとしみじみ思った。余計なことはしない。この処理で住宅全体がシンプルな明快さに向かう。そしてこの小文で言いたかったことにもやっと辿りついた。その東の壁にはじつに大きな絵が掛けられていたのである。
岡田謙三の《詩人 Poets》(1948年)、237.3×281.5cmの横長の油彩で空白の地に輪郭線だけで描かれた若い女性が4人、等間隔に並び立ち、それぞれ軽くポーズをとっている。この訪問の同行者が撮ってくれていたスナップ写真を見ると、その絵の前に置かれた椅子に座っている私の頭の上で跳ねたりしている女性たちは等身大に近い気がするほどだ。それほどのサイズの絵を個人の家で、しかも美術館にはあり得ない距離と向きで見ている。当然、土浦さんの所蔵作品と見做して別の機会にお尋ねしたら、「いや、あれは知人の所有で、大きすぎて置き場所に困っているというので一時預かっていたんですよ」と屈託ない。 住まいに大きい絵が欲しいわけではない。やはり建築の取材でうかがったお宅には思いがけなく、浜口陽三の銅版画十数点だけを家じゅうに飾って、その「点」を拾いながら見ていくと、もうひとつの建築が浮かびあがってくるような。そんなこともあった。その大小どちらも、作品集や展覧会図録に収められている作品とは微妙に、決定的に違う。いまさら実物本位主義を持ち出すつもりはなくて、美術の歴史や現在をかぎりなく自由に見渡す言葉を、私空間に関わる作品は奪われている。その言葉の喪失感がおもしろいというか、ひらたく言えば好きだと思った絵を買うのに理屈はいらない、と言う以上の、ある問題の在り処を感じている。海外の特定の美術館のコレクションから選んだ企画展などで、その館員が購入の動機やタイミングまで解説している図録を読むのは大好きだ。美術批評など読み慣れていないせいか。
解体された土浦亀城邸はこれから、場所を替えて再現・再生される。その完成を恐る恐る待つ楽しみが残っている。
身近にありながら見渡すことが一度もなかった作品群のあいだに繋がりがあるの
か、初めて考える事態になってしまった。その作品について、作家について、植田某なる偽名で以前、感想などを書かせていただいたところもあれば、時間切れでまだノーコメント同然のところもあるのは、ごらんのとおり。お許し下さい。
(2021 年10 月 U)
出品作家:前川千帆、谷中安規、サルヴァドール・ダリ、海老原喜之助、一原有徳、吉田政次、ロイ・リキテンスタイン、アンディ・ウォーホル、草間彌生、木原康行、磯崎新、[宮脇愛子]、森ヒロコ、アルビン・ブルノフスキ、横尾忠則、[倉俣史朗]、若林奮、ティニ・ミウラ、関根伸夫、井上直久、山本容子
展覧会カタログ『Uコレクション関連ファイル』
2021年11月26日発行
ときの忘れもの発行
B5変形サイズ、52頁、価格880円(税込み)
No.1
前川千帆
おばあさんと孫の入浴
No.2
谷中安規
The ancient flower
No.3
サルバドール・ダリ
不死の十種の処方より
No.4
海老原喜之助
記念碑的像
No.5
一原有徳
LEY(b)
No.6
一原有徳
HBD(b)2
No.7
吉田政次
悲しき記録 No.1
No.8
吉田政次
除夜の鐘 No.1
No.9
ロイ・リキテンスタイン
art of the sixties ポスター
No.10
アンディ・ウォーホル
Campbell's Soup Ⅱ
No.11
草間彌生
死の直前
No.12
木原康行
transition 4
No.13
磯崎新
ARATA ISOZAKI ETROSPECTIVE ART NET LONDON
No.14
磯崎新+宮脇愛子
MIYAWAKI Aiko Sculpture 1968-1976 Displayed by ISOZAKI Arata
No.15
森ヒロコ
翼を結んだ少年
No.16
アルビン・ブルノウスキー
デジャ・ヴュ(一度見たことがある)

No.17
横尾忠則+倉俣史朗
倉俣史朗の世界(原美術館) ポスター
No.18
横尾忠則
その時が来た時のために
No.19
若林奮
題不詳
No.20
ティニ・ミウラ
題不詳
No.21
関根伸夫
黒い人
No.22
関根伸夫
絵空事-鳥居
No.23
井上直久
スパイラル・ヴィレッジ

No.24
山本容子
Topical Noses(左:とびら)
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
会期=2021年11月26日(金)―12月11日(土)
建築界で長年活躍されているU氏は、編集者としての仕事や建築批評のほかに、美術についてのエッセイや展覧会レビューも手がけ、またその共感を示すコレクターでもありました。
このたびそのコレクションから21作家の24点を選び、52頁に及ぶカタログでは、U氏と草間彌生さんとの対談(1983年)や今までの評論の再録と併せて、新たにそれぞれの作家について綴った覚え書きを収録しています。

絵の行方
東京・品川にあった、建築家・土浦亀城自邸の解体工事が今年から始まり、もう終わった頃だ。1935年竣工。この時代に日本に実現したいわばモダニズム住宅のなかでももっとも純粋で、しかも奇蹟的に残されていた、木造・平屋根の建築遺産である。50 年前にこの住宅を初めて訪ね、屋内もひととおり見せていただくことがあった。土浦御夫妻もお元気だった。
その住宅はただモダンスタイルなのではない。傾斜地にある条件を逆に反映・利用して、玄関ホール、ギャラリー、寝室・書斎、浴室など、地階から2階にかけての各フロアを、慣習的な区切りから解き放つように連結した。それぞれに落ち着いた場があると同時に隣接した場と融合している。ワンルームシステムが思いがけない働きをしている。その中心は2層吹き抜けになっていて、寝室も食堂もギャラリーも玄関ホールも、いつのまにかそこに組み込まれ、別の場に変質しているのだ。
この2層分の高さの居間は、南側は可愛らしい庭に面し、北は2階の寝室、1階の食堂と一体になっている。西側は2階の書斎、中2階のギャラリー、1階のソファ、そして少し下がった玄関ホールに開かれている。平・断面図も写真もなしの説明で申しわけないのだが要するに、大きな透明の立体(あるい
は箱)に、小さな透明の立体がいくつも、何層にも貼りついている。こんな建築空間は滅多にない。
その吹き抜け居間の、残る東面は、大きな壁面だけ。ここは上手いなあとしみじみ思った。余計なことはしない。この処理で住宅全体がシンプルな明快さに向かう。そしてこの小文で言いたかったことにもやっと辿りついた。その東の壁にはじつに大きな絵が掛けられていたのである。
岡田謙三の《詩人 Poets》(1948年)、237.3×281.5cmの横長の油彩で空白の地に輪郭線だけで描かれた若い女性が4人、等間隔に並び立ち、それぞれ軽くポーズをとっている。この訪問の同行者が撮ってくれていたスナップ写真を見ると、その絵の前に置かれた椅子に座っている私の頭の上で跳ねたりしている女性たちは等身大に近い気がするほどだ。それほどのサイズの絵を個人の家で、しかも美術館にはあり得ない距離と向きで見ている。当然、土浦さんの所蔵作品と見做して別の機会にお尋ねしたら、「いや、あれは知人の所有で、大きすぎて置き場所に困っているというので一時預かっていたんですよ」と屈託ない。 住まいに大きい絵が欲しいわけではない。やはり建築の取材でうかがったお宅には思いがけなく、浜口陽三の銅版画十数点だけを家じゅうに飾って、その「点」を拾いながら見ていくと、もうひとつの建築が浮かびあがってくるような。そんなこともあった。その大小どちらも、作品集や展覧会図録に収められている作品とは微妙に、決定的に違う。いまさら実物本位主義を持ち出すつもりはなくて、美術の歴史や現在をかぎりなく自由に見渡す言葉を、私空間に関わる作品は奪われている。その言葉の喪失感がおもしろいというか、ひらたく言えば好きだと思った絵を買うのに理屈はいらない、と言う以上の、ある問題の在り処を感じている。海外の特定の美術館のコレクションから選んだ企画展などで、その館員が購入の動機やタイミングまで解説している図録を読むのは大好きだ。美術批評など読み慣れていないせいか。
解体された土浦亀城邸はこれから、場所を替えて再現・再生される。その完成を恐る恐る待つ楽しみが残っている。
身近にありながら見渡すことが一度もなかった作品群のあいだに繋がりがあるの
か、初めて考える事態になってしまった。その作品について、作家について、植田某なる偽名で以前、感想などを書かせていただいたところもあれば、時間切れでまだノーコメント同然のところもあるのは、ごらんのとおり。お許し下さい。
(2021 年10 月 U)
出品作家:前川千帆、谷中安規、サルヴァドール・ダリ、海老原喜之助、一原有徳、吉田政次、ロイ・リキテンスタイン、アンディ・ウォーホル、草間彌生、木原康行、磯崎新、[宮脇愛子]、森ヒロコ、アルビン・ブルノフスキ、横尾忠則、[倉俣史朗]、若林奮、ティニ・ミウラ、関根伸夫、井上直久、山本容子
展覧会カタログ『Uコレクション関連ファイル』2021年11月26日発行
ときの忘れもの発行
B5変形サイズ、52頁、価格880円(税込み)
No.1前川千帆
おばあさんと孫の入浴
No.2谷中安規
The ancient flower
No.3サルバドール・ダリ
不死の十種の処方より
No.4海老原喜之助
記念碑的像
No.5一原有徳
LEY(b)
No.6一原有徳
HBD(b)2
No.7吉田政次
悲しき記録 No.1
No.8吉田政次
除夜の鐘 No.1
No.9ロイ・リキテンスタイン
art of the sixties ポスター
No.10アンディ・ウォーホル
Campbell's Soup Ⅱ
No.11草間彌生
死の直前
No.12木原康行
transition 4
No.13磯崎新
ARATA ISOZAKI ETROSPECTIVE ART NET LONDON
No.14磯崎新+宮脇愛子
MIYAWAKI Aiko Sculpture 1968-1976 Displayed by ISOZAKI Arata
No.15森ヒロコ
翼を結んだ少年
No.16アルビン・ブルノウスキー
デジャ・ヴュ(一度見たことがある)

No.17
横尾忠則+倉俣史朗
倉俣史朗の世界(原美術館) ポスター
No.18横尾忠則
その時が来た時のために
No.19若林奮
題不詳
No.20ティニ・ミウラ
題不詳
No.21関根伸夫
黒い人
No.22関根伸夫
絵空事-鳥居
No.23井上直久
スパイラル・ヴィレッジ

No.24山本容子
Topical Noses(左:とびら)
●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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