スタッフSの海外ネットサーフィン No.104
「Beatrix Potter: Drawn to Nature」
Victoria and Albert Museum, London


 読者の皆様こんにちは。雨が降っても涼しくなるどころか湿度で却って暑苦しく感じる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。夜寝る分にはタオル一枚で丁度良い塩梅で~等と嘯いていられたのも今は昔、7月に入って以降は昼夜問わず在宅時はエアコンを全力稼働させて日々を過ごしております、スタッフSこと新澤です。

 今回の記事では、お盆休み前に開催しておりました「夏休み こども図書室」にちなみまして、現在英国・ロンドンはV&Aミュージアムで来年1月まで開催中の「Beatrix Potter: Drawn to Nature」を紹介させていただきます。タイトルにもある通り、絵本世界の大御所、ピーター・ラビットの作者であるベアトリクス・ポターの個展ですが、今回の展覧会は作家が支援していたナショナル・トラストが協賛しており、絵本作家だけではなく、科学者、環境保護活動家、農家としてのポターを知ることができる展覧会となっております。
 また、今月15日からは別口でポターが1890年代にイソップ寓話を独自にアレンジした作品を展示する「Beatrix Potter and 'Aesop in the Shadows'」も始まっており、後に「町ねずみのジョニー」などを制作する際に、ポターはこれらの作品を見返したそうです。

20220826_potter_hp
 展覧会を開催しているV&Aミュージアムのあるサウスケンシントンはポターの生地でもあり、若き日にここで展示されている精緻な仕立てのウェイストコートを観たポターは「あんなに細かい仕立て、ネズミがやったのかと思ったわ!」と感想を残しています。そこからインスピレーションを受けて、後の著作の一つ「グロースターの仕たて屋」が生まれました。ちなみにモデルとなったコートは現在も美術館に所蔵されており、今回の展覧会でも展示されています。他にも、ポターが9歳の頃に描いたスケッチや、湖水地方を歩き回る際に使用した靴など、作品のみならず、作家自身を知るための資料にも富んだ展示が行われています。

20220826_potter_coat「グロースターの仕たて屋」のインスピレーション元になったと言われるコート。
© Victoria and Albert Museum, London
 ポターといえばピーター・ラビットを始めとする絵本が群を抜いて有名ですが、幼少のころから博物学に親しみ、植物や昆虫の精密なスケッチも多数描いていました。飼っていた動物が死亡すると、自ら解剖して骨格標本にしたというのですから、かなり多才で好奇心旺盛な人物だったであろうことが伺えます。ジョン・ケージのようにキノコの研究もアマチュアを超えたレベルで行っていたようですが、男尊女卑が横行していた当時は一顧だにされず、学会に論文を発表する際も代読の上に、一説にによると読み上げられたのは論文のタイトルのみという仕打ちを受け、研究者としての道は断念したそうです。そうして湖水地方に移り住んだ日々からピーター・ラビットシリーズが世に生まれました。

20220826_potter_insectポターが20代前半に描いた甲虫の拡大スケッチ。
© Victoria and Albert Museum, London, courtesy Frederick Warne & Co Ltd
 記録によるとポターは生来身体が弱かったそうですが、それでも77歳まで生きました。しかし、その中で作家として活動した期間は十数年間と、短くはありませんが長いとも言えません。では他の時間はどうしていたのかというと、上に書いた環境保護活動家、農家として活動していました。1882年に避暑地として家族で湖水地方を訪れたポターは後のナショナル・トラスト設立者の一人であるハードウィック・ローンズリーと出会い、父・ルパートと共に環境保護活動に傾倒していきます。ちなみに1895年にナショナルトラストが設立された際には、ルパートが第1号終身会員となっています。
 最終的に4,000エーカー(東京ドーム348個分!)に及ぶ湖水地方の大地主となったポターは創作への熱意を薄れさせ、1943年に亡くなるまで所有する農場の経営や、当時数を減らしていた湖水地方原産の羊(ハードウィック種)の保護・育成を熱心に行いました。
 以下のナショナル・トラスト制作の動画では、作家の湖水地方への貢献や、初出となる作家からの遺贈品について、展覧会のキュレーターが解説しています。惜しむらくは字幕が英語しかないことですが、風景画像だけでも非常に綺麗なので是非ご覧になってください。


 こちらは非公式の動画ですが、ポター所縁の湖水地方の景色や施設、08:00からはV&Aミュージアムの展示を観ることができます。絵画作品のみならず、上に挙げたポターの靴や家族写真、イラストを添えた個人への手紙や、変わったものだと暗号化された作家の日記等の展示も映っているので、こちらも是非ご覧ください。


(しんざわ ゆう)

V&Aミュージアム公式ページ(英語)
「Beatrix Potter: Drawn to Nature」展覧会ページ(英語)
「Beatrix Potter and 'Aesop in the Shadows'」展覧会ページ(英語)
ナショナル・トラスト公式ページ(英語)
「Beatrix Potter: Drawn to Nature」展覧会ページ(英語)