ブータンミュージアム開館10周年記念イベントのお知らせとその目指すもの
荒井由泰
福井県勝山市の勝山市民会館で10月9日に「ブータン王国から、これからの幸せを考えよう!」をテーマに2部構成でイベントを開催します。

遠方ですので、なかなか会場に足を運んでもらえないと思いますので、主催者側の企画の意図などをここにお示しすることで、自分自身そしてお住まいになっている地域の幸せについて、考える一助となればと思っています。
ブータンミュージアムですが、滋賀県出身の実業家・野坂弦司氏が2011年にブータン国王・王女が日本を訪れ、東日本大震災の現場や国会で話された言葉に感動され、何度もブータンに足を運ばれ、福井市内にブータン国公認の「ブータンミュージアム」の開館を実現されました。一昨年、勝山市に移転されましたが、本年で開館10周年を迎えた次第です。


第一部はブータン人が作った映画「ブータン 山の学校」の上映会です。この映画は本年度のアカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた5作品の一つです。ご存じのように濱口監督の「ドライブ・マイカー」がこの部門で見事アカデミー賞を受賞しました。
この映画ですが、首都ティンプーに住む海外脱出を考える青年教師がルナナというブータンの僻地の学校にいやいや赴任し、そこで出会う子供たちや人々との交流によって、心が変化し、自分の心のふるさとを自覚する物語です。ブータンの雄大な自然とピュアな子供たちとの交流の姿に現代文明のなかで、われわれが忘れてきた大切なものを想起させます。まさに、本当の幸せとは何かを考えさせてくれる秀作です。関心がありましたら、DVDも発売されていますのでご覧ください。

第二部は上に記した「ブータン王国から、これからの幸せを考えよう!」をテーマにパネラーも交え一緒に考えるフォーラムを予定しています。
最初に高野翔氏によるミニ講演:「ブータンで私が考えたこと」、それを受けて、4名のパネラーでそれぞれの立場で「幸せが実感できる暮らしとまちづくり」をテーマに話を深める時間にしたいと思っています。私もパネラーの一員となっており、主に経済・経営の立場で話をするつもりです。
ここで一番重要な役割をお願いしているのが高野翔氏です。我々の仲間であり、大切な
ブレーンでもあります。彼は福井市出身で英国のシューマッハカレッジを卒業後、国連の緒方貞子さんにあこがれて、2009年から20年まで、JICA(国際協力機構)に在籍していました。福井県立大学から声がかかり、現在、福井県立大学地域経済研究所准教授として活躍されています。38歳の若手の研究者・実践者です。その彼ですが、ブータン国が推進している*GNH(国民総幸福量:Gross National Happiness)の指標をベースにした国づくりに関心を持ち、3年間、ブータンに住み、GNHにおける国民へのインタビューに立ち会うなど、ブータンの政治・暮らしを体感してきました。その彼が日本総合研究所の発表している全国幸福度ランキングで毎回一位に輝いている福井県に戻り、県民の声を直接聞くと「実感がない」という返事が返ってくる現実と向き合うなかで、「ウェルビーイング(Well-Being)」と出会い、その研究と実践に現在取り組んでいます。
ブータンでは国民を対象(人口の1%)に148の幸せに関する質問を2時間半ほど時間をかけて丁寧に行っているとのことですが、調査に同行して気づいた彼の言葉を紹介します。
「幸せは多様である」「幸せは身近なものである」そして「特別なことなんて何もない」という結論にたどりついた。「どうゆうときに幸せを感じますか?」という質問を投げかけると、ブータンの人々の口からは「親が健康であることが幸せ」、「子どもが無事に育ってくれていることが幸せ」、「近所の人がたまに会いに来てお茶する時間が幸せ」といった、とても身近な内容の答えしか返ってこなかった。幸福は自分の内側から生じるものであり、身近なものであることを実感した。そこで「幸せのものさしを外に求めるのでなく、自分自身にその幸せの中心点(評価軸)をもつことが何よりも大事なことだと気づかされた。現在の幸福度ランキングは客観的なデータに基づいてランキングを決めているが、客観的なものばかりでなく、主観的な幸福感を測る工夫が必要だ。
彼が取り組んでいる「ウェルビーイング」という言葉はあまりなじみがないと思いますが、経済界でも関心が高く、一部の企業での取り組みがはじまっています。「ウェルビーイング」はまさによき状態であり、幸せと訳すことができます。「ハピネス(幸せ)」は瞬間的な幸せであり、「ウェルビーイング」は持続的な幸せと言えます。経営の世界では「健康経営」という言葉で社員の肉体的な健康、さらにはメンタルな健康を経営のなかに取り込むことで、働きやすい環境を目指す企業が増加しています。一方、「ウェルビーイング」経営においては、さらに一歩踏み込んで、肉体的そして精神的健康・幸せに加え、社会的な幸せを経営課題に取り込むことで働きやすく、活気のある職場環境づくりを目指そうとする考え方です。日経においても「ウェルビーイング」シンポジウムがすでに3回開催されており、10月に4回目が予定されています。このように「ウェルビーイング」の大切さが認識され、それを目指す地域そして企業が着実に増えているようです。高野氏は現在、一人ひとりが主観的に幸せを感じる実感ベースの「ウェルビーイング」こそ、目指すべき目標・課題と考え、「ウェルビーイング」の研究・実践に取り組んでいます。彼はその解決策につながるキーワードとして「居場所」と「舞台」の大切さを訴えています。
「まちの中に自分らしくいられる居場所や、自分にとって大事な空間・舞台があれば、自己肯定感やチャレンジ精神、将来への希望が高まり、ウェルビーイングにつながる」と論じます。
フォーラムではそれぞれの立場で、地域で、企業でいかに「居場所」や「舞台」を仕掛けることでウェルビーイングな企業や地域を創出するかを話し合えればと思っています。
私自身の立場からは人件費を投資と考える必要性とか、企業においても社員の社会的な活動にも配慮・応援することの大切さなどを述べたいと思っています。加えて、祭りは大切な地域の舞台であり、地域挙げて応援することで地域の活性化につながるとの発言も考えています。
私のふるさと・福井県勝山市には椎名誠氏が「日本一の祭り」と応援していただいている*「勝山左義長まつり」という市民が誇る祭りがあります。毎年2月の最終土日に開催され、12基の櫓(やぐら)が街に立ち並び、赤襦袢をきた大人・子どもが櫓で左義長ばやしを演じます。

フィナーレは河原での大規模などんど焼きです。まさに「舞台」がそこにあり、そこで演ずることは「幸せの実感」を体感することであり、それによって祭りに訪れた人々を幸せな気持ちにするのではと、まさにウェルビーイングにつながる世界だと思っています。地域の祭りは、大切にしなければなりません。来年の2月には3年ぶりにフルスペックで勝山左義長まつりが開催される予定です。「幸せ」探しへの来勝をお待ちしています。
新型コロナに、ロシアのウクライナ侵攻、そして物価高で、うっとうしく、もやもやした気分が漂うなか、時代はGDP(Gross Domestic Product)全盛の時代、すなわちお金がすべてから、GDW(Gross Domestic Well-Being)、幸せの実感を求める時代に変わりつつあるようにも感じています。みなさん、いかがでしょうか?
以上でブータンミュージアム開館10周年イベントの紹介といたします。
(あらい よしやす)
GNH(国民総幸福量)政策について:
GNHは1970年に第4代ブータン国王(現国王は第5代)によって提唱された概念で、以後、世界的に知られるようになった。第4代ワンチュク国王は、幸せはモノやお金以上に大切な要素だとしてGNHを国策の主軸に据えた。現在も、王立ブータン研究所を中心に、5年に一度の国勢調査(インタビューが中心)が行われ、全国の各世代の幸福度が調査されている。
このGNHには4つの柱と9つの領域がある。しばしば誤解があるので注意しておかねばならないのは、GNH政策を進めるからといって、GNPやGDPといった経済的側面を否定するものではなく、4つの柱と9つの領域を維持していく上では経済成長も大事であり、物質と精神のバランスをとりながらの政策運営が執り行われている。
4つ柱:「持続可能な社会経済開発」「環境保護」「伝統文化の復興」「優れた統治」
9つの領域:「心理的幸福」「時間の使い方とバランス」「文化の多様性」「地域の活力」「環境の多様性」「良い統治」「健康」「「教育」「生活水準」
勝山市左義長まつりについて:
勝山左義長まつりのルーツは小笠原藩が勝山を治めていた300年前の小正月の行事にありますが、明治の時代、町人衆が櫓を立て、そこでは様々な芸能が演じられていました。大正から昭和にかけて、現代の左義長ばやしが形作られていきますが、そもそも、櫓は女人禁制で、唯一芸子さんが三味線・唄で櫓に登れました。男ばかりで色気がないとのことで、男性が赤襦袢を着て、太鼓をたたき始めました。戦後は芸者さんがいなくなり、お母様方・娘さん方が三味線・唄そして太鼓たたきと領域が広がり、加えて、かつては自由に櫓に登らせてもらえなかった子供たちも加わり、現在のにぎやかな左義長まつり・左義長ばやしと変化しました。変化することで「勝山左義長まつり」の魅力が高まりました。2月の祭りは珍しいうえに、雪国ならではの春の到来を待ちわびる気持ちにあふれ、さらに大人から子供たちへと伝統が伝わる(新しい伝統)姿が笑顔いっぱいで広がります。その光景をみて、作家の椎名誠氏も大感激され、「日本一」とお墨付きをいただきました。百聞は一見に如かずで、ぜひ勝山へお出かけください。勝山市には子供たちのあこがれの地・福井県立恐竜博物館もあります。本年12月から来年7月まで、大規模なリニューアル工事のため、休館となりますので、ご注意ください。

*画廊亭主敬白
ときの忘れものの(いやもっと遡って1974年以来の)古い顧客の荒井由泰さんの投稿が30回を超え、今回が31回目となりました。
亭主がこの半世紀、最も頻繁に訪ねてきたのは岩手県盛岡と福井県勝山です。資金繰りに窮するとこの二つの街を訪ね一息つくのでした。人口は僅か2万人、中世の面影を宿す平泉寺がある山間の小さな街ですが、磯崎新設計の個人住宅が二つもあり、黒川紀章設計の福井県立恐竜博物館もある勝山には「騙されたと思って、ご一緒にどうぞ」と寒い季節に開催される左義長祭りにお客様を誘ってきました。東京とは異なる豊かさがある街、そろそろ来年2月の予定を組みたいですね。ご興味のあるかたはぜひ。
荒井由泰
福井県勝山市の勝山市民会館で10月9日に「ブータン王国から、これからの幸せを考えよう!」をテーマに2部構成でイベントを開催します。

遠方ですので、なかなか会場に足を運んでもらえないと思いますので、主催者側の企画の意図などをここにお示しすることで、自分自身そしてお住まいになっている地域の幸せについて、考える一助となればと思っています。
ブータンミュージアムですが、滋賀県出身の実業家・野坂弦司氏が2011年にブータン国王・王女が日本を訪れ、東日本大震災の現場や国会で話された言葉に感動され、何度もブータンに足を運ばれ、福井市内にブータン国公認の「ブータンミュージアム」の開館を実現されました。一昨年、勝山市に移転されましたが、本年で開館10周年を迎えた次第です。


第一部はブータン人が作った映画「ブータン 山の学校」の上映会です。この映画は本年度のアカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた5作品の一つです。ご存じのように濱口監督の「ドライブ・マイカー」がこの部門で見事アカデミー賞を受賞しました。
この映画ですが、首都ティンプーに住む海外脱出を考える青年教師がルナナというブータンの僻地の学校にいやいや赴任し、そこで出会う子供たちや人々との交流によって、心が変化し、自分の心のふるさとを自覚する物語です。ブータンの雄大な自然とピュアな子供たちとの交流の姿に現代文明のなかで、われわれが忘れてきた大切なものを想起させます。まさに、本当の幸せとは何かを考えさせてくれる秀作です。関心がありましたら、DVDも発売されていますのでご覧ください。

第二部は上に記した「ブータン王国から、これからの幸せを考えよう!」をテーマにパネラーも交え一緒に考えるフォーラムを予定しています。
最初に高野翔氏によるミニ講演:「ブータンで私が考えたこと」、それを受けて、4名のパネラーでそれぞれの立場で「幸せが実感できる暮らしとまちづくり」をテーマに話を深める時間にしたいと思っています。私もパネラーの一員となっており、主に経済・経営の立場で話をするつもりです。
ここで一番重要な役割をお願いしているのが高野翔氏です。我々の仲間であり、大切な
ブレーンでもあります。彼は福井市出身で英国のシューマッハカレッジを卒業後、国連の緒方貞子さんにあこがれて、2009年から20年まで、JICA(国際協力機構)に在籍していました。福井県立大学から声がかかり、現在、福井県立大学地域経済研究所准教授として活躍されています。38歳の若手の研究者・実践者です。その彼ですが、ブータン国が推進している*GNH(国民総幸福量:Gross National Happiness)の指標をベースにした国づくりに関心を持ち、3年間、ブータンに住み、GNHにおける国民へのインタビューに立ち会うなど、ブータンの政治・暮らしを体感してきました。その彼が日本総合研究所の発表している全国幸福度ランキングで毎回一位に輝いている福井県に戻り、県民の声を直接聞くと「実感がない」という返事が返ってくる現実と向き合うなかで、「ウェルビーイング(Well-Being)」と出会い、その研究と実践に現在取り組んでいます。
ブータンでは国民を対象(人口の1%)に148の幸せに関する質問を2時間半ほど時間をかけて丁寧に行っているとのことですが、調査に同行して気づいた彼の言葉を紹介します。
「幸せは多様である」「幸せは身近なものである」そして「特別なことなんて何もない」という結論にたどりついた。「どうゆうときに幸せを感じますか?」という質問を投げかけると、ブータンの人々の口からは「親が健康であることが幸せ」、「子どもが無事に育ってくれていることが幸せ」、「近所の人がたまに会いに来てお茶する時間が幸せ」といった、とても身近な内容の答えしか返ってこなかった。幸福は自分の内側から生じるものであり、身近なものであることを実感した。そこで「幸せのものさしを外に求めるのでなく、自分自身にその幸せの中心点(評価軸)をもつことが何よりも大事なことだと気づかされた。現在の幸福度ランキングは客観的なデータに基づいてランキングを決めているが、客観的なものばかりでなく、主観的な幸福感を測る工夫が必要だ。
彼が取り組んでいる「ウェルビーイング」という言葉はあまりなじみがないと思いますが、経済界でも関心が高く、一部の企業での取り組みがはじまっています。「ウェルビーイング」はまさによき状態であり、幸せと訳すことができます。「ハピネス(幸せ)」は瞬間的な幸せであり、「ウェルビーイング」は持続的な幸せと言えます。経営の世界では「健康経営」という言葉で社員の肉体的な健康、さらにはメンタルな健康を経営のなかに取り込むことで、働きやすい環境を目指す企業が増加しています。一方、「ウェルビーイング」経営においては、さらに一歩踏み込んで、肉体的そして精神的健康・幸せに加え、社会的な幸せを経営課題に取り込むことで働きやすく、活気のある職場環境づくりを目指そうとする考え方です。日経においても「ウェルビーイング」シンポジウムがすでに3回開催されており、10月に4回目が予定されています。このように「ウェルビーイング」の大切さが認識され、それを目指す地域そして企業が着実に増えているようです。高野氏は現在、一人ひとりが主観的に幸せを感じる実感ベースの「ウェルビーイング」こそ、目指すべき目標・課題と考え、「ウェルビーイング」の研究・実践に取り組んでいます。彼はその解決策につながるキーワードとして「居場所」と「舞台」の大切さを訴えています。
「まちの中に自分らしくいられる居場所や、自分にとって大事な空間・舞台があれば、自己肯定感やチャレンジ精神、将来への希望が高まり、ウェルビーイングにつながる」と論じます。
フォーラムではそれぞれの立場で、地域で、企業でいかに「居場所」や「舞台」を仕掛けることでウェルビーイングな企業や地域を創出するかを話し合えればと思っています。
私自身の立場からは人件費を投資と考える必要性とか、企業においても社員の社会的な活動にも配慮・応援することの大切さなどを述べたいと思っています。加えて、祭りは大切な地域の舞台であり、地域挙げて応援することで地域の活性化につながるとの発言も考えています。
私のふるさと・福井県勝山市には椎名誠氏が「日本一の祭り」と応援していただいている*「勝山左義長まつり」という市民が誇る祭りがあります。毎年2月の最終土日に開催され、12基の櫓(やぐら)が街に立ち並び、赤襦袢をきた大人・子どもが櫓で左義長ばやしを演じます。

フィナーレは河原での大規模などんど焼きです。まさに「舞台」がそこにあり、そこで演ずることは「幸せの実感」を体感することであり、それによって祭りに訪れた人々を幸せな気持ちにするのではと、まさにウェルビーイングにつながる世界だと思っています。地域の祭りは、大切にしなければなりません。来年の2月には3年ぶりにフルスペックで勝山左義長まつりが開催される予定です。「幸せ」探しへの来勝をお待ちしています。
新型コロナに、ロシアのウクライナ侵攻、そして物価高で、うっとうしく、もやもやした気分が漂うなか、時代はGDP(Gross Domestic Product)全盛の時代、すなわちお金がすべてから、GDW(Gross Domestic Well-Being)、幸せの実感を求める時代に変わりつつあるようにも感じています。みなさん、いかがでしょうか?
以上でブータンミュージアム開館10周年イベントの紹介といたします。
(あらい よしやす)
GNH(国民総幸福量)政策について:
GNHは1970年に第4代ブータン国王(現国王は第5代)によって提唱された概念で、以後、世界的に知られるようになった。第4代ワンチュク国王は、幸せはモノやお金以上に大切な要素だとしてGNHを国策の主軸に据えた。現在も、王立ブータン研究所を中心に、5年に一度の国勢調査(インタビューが中心)が行われ、全国の各世代の幸福度が調査されている。
このGNHには4つの柱と9つの領域がある。しばしば誤解があるので注意しておかねばならないのは、GNH政策を進めるからといって、GNPやGDPといった経済的側面を否定するものではなく、4つの柱と9つの領域を維持していく上では経済成長も大事であり、物質と精神のバランスをとりながらの政策運営が執り行われている。
4つ柱:「持続可能な社会経済開発」「環境保護」「伝統文化の復興」「優れた統治」
9つの領域:「心理的幸福」「時間の使い方とバランス」「文化の多様性」「地域の活力」「環境の多様性」「良い統治」「健康」「「教育」「生活水準」
勝山市左義長まつりについて:
勝山左義長まつりのルーツは小笠原藩が勝山を治めていた300年前の小正月の行事にありますが、明治の時代、町人衆が櫓を立て、そこでは様々な芸能が演じられていました。大正から昭和にかけて、現代の左義長ばやしが形作られていきますが、そもそも、櫓は女人禁制で、唯一芸子さんが三味線・唄で櫓に登れました。男ばかりで色気がないとのことで、男性が赤襦袢を着て、太鼓をたたき始めました。戦後は芸者さんがいなくなり、お母様方・娘さん方が三味線・唄そして太鼓たたきと領域が広がり、加えて、かつては自由に櫓に登らせてもらえなかった子供たちも加わり、現在のにぎやかな左義長まつり・左義長ばやしと変化しました。変化することで「勝山左義長まつり」の魅力が高まりました。2月の祭りは珍しいうえに、雪国ならではの春の到来を待ちわびる気持ちにあふれ、さらに大人から子供たちへと伝統が伝わる(新しい伝統)姿が笑顔いっぱいで広がります。その光景をみて、作家の椎名誠氏も大感激され、「日本一」とお墨付きをいただきました。百聞は一見に如かずで、ぜひ勝山へお出かけください。勝山市には子供たちのあこがれの地・福井県立恐竜博物館もあります。本年12月から来年7月まで、大規模なリニューアル工事のため、休館となりますので、ご注意ください。

*画廊亭主敬白
ときの忘れものの(いやもっと遡って1974年以来の)古い顧客の荒井由泰さんの投稿が30回を超え、今回が31回目となりました。
亭主がこの半世紀、最も頻繁に訪ねてきたのは岩手県盛岡と福井県勝山です。資金繰りに窮するとこの二つの街を訪ね一息つくのでした。人口は僅か2万人、中世の面影を宿す平泉寺がある山間の小さな街ですが、磯崎新設計の個人住宅が二つもあり、黒川紀章設計の福井県立恐竜博物館もある勝山には「騙されたと思って、ご一緒にどうぞ」と寒い季節に開催される左義長祭りにお客様を誘ってきました。東京とは異なる豊かさがある街、そろそろ来年2月の予定を組みたいですね。ご興味のあるかたはぜひ。
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