杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第90回

秋の展覧会


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ブレゲンツ美術館へ行ってきました。

よく思い返してみたら、美術館へ足を運んだのはしばらくぶりだったような気がします。
美術館というのは、一度向かえば2-3時間くらいは滞在してしまうものなので、まとまった時間を取ろうとしないといけないし、展示物に対峙して観ていくのには少し気力もいる。。なんて言い訳をしていたかもしれません。ともあれ、最近美術館自体を訪ねることがなかったので、展示も美術館自体も楽しめるブレゲンツ美術館は、久しぶりに向かうにはピッタリでした。

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いつもこの美術館に来て思うのは、ズントーは建築家として、一体どうして、こう建物ごとに特別な回答することができたのだろう。という疑問、驚きです。

ブレゲンツ美術館は外部は半透明のガラスに覆われていて、光を内部に取り込みます。そして、その光は天井懐に一旦取り込まれて、もう一度半透明のガラス天井を通して内部に光を運びます。ガラスで光を操作して、こんなにも展示空間としてうまくできているのに、以降のプロジェクトでは同じ手法を使っていません。普通なら、少し手を加えてもう一度試したり、建築家としてスタイルを作ったりすることも考えられるのですが。一度やった手は二度と使わない。というか、(本来はそうあるべきなのだけれど)、プロジェクトの機会ごとに個別の最適解で応えていると言ったらいいでしょうか。

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その後、バスに乗ってAndelsbuchまで。ここにあるwerkraumという展示場で、九月の中旬までピーター・ズントーの模型展が開催されています。
ズントー事務所の模型は、美術館に展示されていても遜色ないような、つまり建築設計で用いるという目的を除いても成り立つような、生き生きとしたものです。事務所では、プレゼンテーションのための模型は作らない。という信念があって、常に作業ができるように模型は仮留めしたり、いろんなバリエーションを試しながら制作していたので、仮設的な印象がありました。今にも誰かが模型を使って設計スタディをはじめていくようなライブ感が感じられるのです。

話は変わりますが、今月15日から25日までヒルサイドフォーラムにて行われるSDレビューという展覧会に参加させていただきます。通常の建築展とは異なり、実施を前提とした設計中ないしは施工中のものを展示する趣旨です。設計中、建築家が辿っている軌跡、ライブ感を追うことができると思いますので、ぜひお時間を見つけていらしてください。

(すぎやま こういちろう)

杉山幸一郎 SUGIYAMA Koichiro
日本大学、東京藝術大学大学院にて建築を学び、在学中にスイス連邦工科大学に留学。2014年から2021年までアトリエピーターズントー。現在、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で設計を教える傍ら、建築設計事務所atelier tsuを共同主宰。2022年1月ときの忘れものにて初個展「杉山幸一郎展スイスのかたち、日本のかたち」を開催、カタログを刊行。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

・ 杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

●本日のお勧め作品は杉山幸一郎です。
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《Museum 01》
2019年、MDF、アルミ、55.0x18.0x25.0cm
Ed.1、サインあり
※制作は家具職人Serge Borgmannと協働

●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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