東京都美術館で2024年1月8日(月・祝) まで開催中の「上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす」と「動物園にて 東京都コレクションを中心に」の内覧会に行ってきたので、ご報告いたします。

美術館のギャラリーA・Cに展示されている「上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす」では、自然界の動植物を並々ならぬ熱意で描き続けた6人の画家の作品が展示されています。
野生きのこに魅了された小林路子(こばやし みちこ)、草花を日々描き記録し続けた辻永(つじ ひさし)、日本におけるバードカービングの世界を切り拓いた内山春雄(うちやま はるお)、後半生をサラブレッドの撮影にささげた今井壽惠(いまい ひさえ)、ウシたちの存在を木版画に刻み続けている冨田美穂(とみた みほ)、世界各地の動物園やアフリカの野生に暮らすゴリラを描き記してきた阿部知暁(あべ ちさと)です。

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夜の東京都美術館は初めて訪れました。明かりが球体のオブジェに反射して幻想的です。

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展示は野生の植物・動物から始まり、家畜動物を経て動物園で飼育される動物の作品へと繋がっていきます。身近な動物になるほど、鑑賞者を見つめ返す「目」がより感情豊かに”人間らしく”表現されているのが印象的でした。
また、野生の動植物から飼育動物の順に作品を配置することで、その先にある動物園の展示へスムーズに繋がる配置になっていたと思います。

小林路子はきのこに情熱を燃やします。絵本の挿絵がきっかけということもあってなのか、温かみと物語性のある可愛らしいタッチが印象的でした。きのこの笠の影から小人が出てきそうです。
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キャプションのきのこ情報も充実しており、まるできのこの図鑑を眺めているようです。
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辻永は本業の画家稼業の傍ら、趣味で植物画を描き続け、その数は60年間で約2万点にも上るとのこと。現存は4500点、うち97点が今回出品されています。一見水彩のように見えますが、輪郭線は墨、着色は油彩で施されています。
個人的には、後年になるほど微妙な色合いの熟練度が増し、更に再現度が上がっていると感じました。是非年代による違いも見比べてみてください。
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辻永≪にしきのぶだう≫1907年10月16日

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≪おどんとぐろっすむ・じゅのー≫1936年3月24日

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≪いぬりんご≫1949年4月29日

内山春雄は、バードカービング即ち鳥の彫刻がご専門。バードカービングの技術自体は1980年代にアメリカから日本へと伝わったものですが、アメリカでは鳥をおびき寄せて狩るために彫刻が使われたのに対し、日本では希少な鳥を呼び戻して保護するために使われました。
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内山春雄≪イワヒバリ≫

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≪ライチョウ(冬)≫

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≪トキ≫
内山氏の作品の中にも、野鳥保護用のデコイと同じ型から作られた作品もあるそうです。

展示室の最後には、タッチカービングの体験コーナーが設けられています。視覚に障害のある方向けに、彫刻を触り鳴き声を聞くことで鳥を学ぶための作品です。
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ずらりと並ぶ鳥たち。壮観です。

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専用のタッチペンを、

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作品左下の丸穴に差し込むと、、

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タッチペンからそれぞれの鳥の鳴き声が聞こえてきます。
前述の通り手で触れて形を確かめることができます。羽毛の繊細さ、腕の筋肉のしなやかな張り具合など、触覚を通して得られる情報の多さに驚きました。

今井壽恵は1956年にデビューした写真家です。当初は心象風景をモチーフとしていましたが、1962年の事故で一時的に失明しましたが、視力が回復してから『アラビアのロレンス』を観て馬の生命力に大層惹かれ、以降競走馬の撮影に取り組むようになったとのこと。

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今井壽恵≪光る雪≫

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≪晩秋≫
大自然を駆け抜ける、疾走感のある馬の遠景写真が印象的です。

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≪オグリキャップ 黄色い光の中で≫

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≪サドラーズウェルズ クールモア・スタッド放牧中≫
かと思えば、こちらを見つめる愛らしい目をした近景写真も。
今井の馬に対する畏敬の念と愛情を追体験するような作品群でした。

富田美穂は牛をモチーフとする木版画家。大学在学中にバイトとして北海道の酪農を経験し、そこで見た牛の姿に衝撃を受けて以来牛を描くようになったとのこと。
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富田美穂≪701全身図≫

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≪388横臥図≫

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左≪915Ⅱ≫、右≪1554≫
等身大(!)の牛の版画は、前に立つだけで存在感に圧倒されます。
その雄大さに反してつぶらな瞳はどこまでも穏やかで優しく、北海道の大地で悠々と生きる牛の余裕を感じさせます。

阿部知暁はゴリラ画家と呼ばれているそう。大学在学中に一陽会に参加し、当初は心象風景を描いていました。1980年代から作品の方向性に迷い、知り合いから好きなものを描きなさい、と助言させたときに幼い頃動物園で出会ったゴリラが心に浮かんだと言います。以降、日本/海外の動物園やアフリカの野生のゴリラを取材。40年近く描き続けた全てのゴリラにモデルがいるそうです。
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阿部知暁≪スノーフレーク≫

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≪ブルブル≫
思慮深い目と柔らかい表情が印象的。作者のゴリラに対する優しい眼差しが伝わってきます。

さて、内山春雄のタッチカービングを進むと、美術館内のギャラリーBの「動物園にて 東京都コレクションを中心に」に辿り着きます。この展覧会は、東京国立博物館の付属施設として1882年に開園した上野動物園に焦点を充て、その歴史を辿ることで、上野の歴史をも俯瞰しようという試みです。

第1章は動物園の歴史について。開園当時の興行の風俗画と記録用の動物の絵が並びます。学芸員課程の教科書で見たような風俗画を間近に見ることができ感動です。
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博物学資料としての動物写生画

第2章は明治~昭和にかけての資料集。東京美術学校(東京藝術大学の前身)の学生が写生した動物の絵など、芸術都市上野ならではの資料が多く残ります。
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写生は美大生それぞれの個性が光ります。

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対して田井正忠の広告グラフィックは、小さなスペースでいかに動物の姿形を分かりやすく描くか、コントラストや構図の工夫が伺えます。

第3章は動物と戦争について。
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「軍馬並動物感謝の夕」イベントポスター
戦時中に動物たちの慰霊碑を立てるなど手厚く葬られた例があると聞いたことはありましたが、生きた軍馬を称えるイベントが催されていたことは初めて知りました。

第4章は戦後の写真と絵画。これまで人間が一方的に眼差していた動物たちですが、一歩引いた目線からみる/みられるの関係性を可視化したり、意図的に逆転させたりする作品が散見されました。
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右側の絵の画面の左下には柵があり、その手前にいる人々は、まるで鑑賞者が動物園の動物であるようにこちらを見つめています。

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酒航太 ≪ZOO ANIMALS≫
動物園の動物たち。こちらを見つめる目線は、人間の都合で狭い檻に閉じ込めていることを非難しているようにも見えます。

動植物に魅入られた人々による情熱溢れる作品から博物学的資料に至るまで、人間と動物の関わりを考えさせられる展覧会でした。
「上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす」と「動物園にて 東京都コレクションを中心に」は、2024年1月8日(月・祝)まで開催中です。
上野に御用の際は、動物園と共にぜひお立ち寄りください。
※2023年12月21(木)~2024年1月3日(水)の期間は休室となります。

じんの もえ

●本日のお勧め作品はアンディ・ウォーホルのポスターです。
041983年6月渋谷・パルコ ウォーホル展ポスター
1983年 オフセット
103x72.5cm
デザイン・制作:パルコ
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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