富山県美術館の倉俣史朗展をつくる
稲塚展子
(富山県美術館 学芸課副主幹)
「倉俣史朗のデザイン――記憶のなかの小宇宙」は、世田谷美術館、富山県美術館、京都国立近代美術館が中心となって準備を進めてきたが、その過程で担当学芸員たちが共有してきたことの1つは、本展を通してそのデザインだけではなく、人としての倉俣史朗を伝えたいという事であった。想いは1つでも、倉俣展に限らずとも巡回展は会場ごとに印象が変わっていく。館名に「アート&デザイン」がついている富山県美術館の展示室で、「人としての倉俣史朗」を伝えることは担当学芸員だけでできる訳はなく、グラフィックとインテリアのデザイナーの方々から力をお借りした。
図録はグラフィックデザイナー、アートディレクターの永井裕明さんにお引き受けいただいた。併せて富山県美術館での開催告知ポスターをお願いしたところ、程なく、当館所蔵の《ミス・ブランチ》(1988年)や《ハウ・ハイ・ザ・ムーン》(1986年)を真横から撮影したカットを据えた案が送られてきた。「人としての倉俣史朗」という問いへの永井さんの答えは、1脚の椅子を人の佇まいになぞらえ、真横からのカットをその椅子のデザイナーである倉俣の、心象としてのプロフィールに重ねてみるというものだった。椅子が真横になるだけで、背もたれの前の余白に誰かの気配が生まれる。富山のポスターは、これ以外は考えられなくなってしまった。最小限の要素で豊かに展覧会を伝えるポスターに、富山での開会まで導いてもらった感がある。

ポスター 富山県美術館「倉俣史朗のデザイン」展(デザイン:永井裕明)
会場構成とデザインは、インテリアデザイナーの五十嵐久枝さんにお引き受けいただいた。武蔵野美術大学美術館・図書館で開催された「みんなの椅子」展の気持ち良い空間デザインが印象に残っていたことはもとより、クラマタデザイン事務所のスタッフとして「人としての倉俣史朗」にふれてきた方である。早速出してくださった展示図面では、フリーハンドのような緩急のある線が流れていた。五十嵐さんの答えは、倉俣が描いたような線に導かれてながら作品と出会っていくことなのだという。そして、その線の内側にはシュレッダーにかけた廃棄紙を敷き詰めるという。膨大なシュレッダー紙の準備は、当館ボランティアの皆さんが配架終了後のチラシを加工する作業を引き受け、武蔵野美術大学美術館・図書館さんなども協力を申し出てくれた。
設営が始まって会場の風景が見えてくると、テラゾーのテーブル《トウキョウ》(1983年)の場所でやっと気がついた。色ガラスの破片が光るテラゾーも、元の印刷物に乗った色をはらんだシュレッダー紙も、打ち捨てられた素材から見いだされた光なのである。テラゾーは、大理石の安価な代用品としてその屑などを混ぜ込んだもの。そこに倉俣がガラスの屑を散りばめた様を、職人たちが「スターピース」と呼んだのがそのままこのテラゾーの愛称となった。シュレッダー紙のスターピースが広がる富山の展示室のそこここで、倉俣のデザインと言葉が瞬いている。

会場風景_富山県美術館「倉俣史朗のデザイン」(会場構成デザイン:五十嵐久枝、撮影:柳原良平)
富山県美術館での倉俣史朗展は、4月7日まで。美術館の入口に掲げられた横顔の《ミス・ブランチ》が、倉俣のイマジネーションと創造が静かに流れる会場へと導いてくれる。
(いなづか ひろこ)
●富山県美術館「倉俣史朗のデザイン――記憶のなかの小宇宙」
会期 2024年2月17日(土)~4月7日(日)
開館時間 9:30~18:00(入館は17:30まで)
休館日 毎週水曜日(ただし3月20日は開館)、3月21日(木)
観覧料 一般:900円(700円)、大学生:450円(350円)
■稲塚展子 Hiroko Inazuka
富山県生まれ。旧・富山県立近代美術館にて主に「20世紀の椅子コレクション」の収集・展示等を担当。富山県民会館美術館、富山県庁文化振興課を経て、現在、富山県美術館学芸課副主幹(学芸員)。主な担当展として、「時代の共鳴者-辻井喬・瀧口修造と20世紀美術」(富山県立近代美術館、2015)、「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」(2018、2021)など。
●倉俣史朗の限定本『倉俣史朗 カイエ Shiro Kuramata Cahier 1-2』販売中
限定部数:365部(各冊番号入り)
監修:倉俣美恵子、植田実
執筆:倉俣史朗、植田実、堀江敏幸
アートディレクション&デザイン:岡本一宣デザイン事務所
体裁:25.7×25.7cm、64頁、和英併記、スケッチブック・ノートブックは日本語のみ
価格:7,700円(税込) 送料1,000円
詳細は2023年3月24日ブログをご参照ください。お申込みはこちらから
※同書籍は富山県美術館のミュージアムショップでも販売いただいております。
●『倉俣史朗 カイエ4集』の予約受付を開始しました。
特別価格での予約受付は5/31まで。
〇A版 シルクスクリーン 10点組/44万円
予約特別価格:35万円(税込)
〇B版 《68.ミス ブランチ(1988)》入り11点組/55万円
予約特別価格:45万円(税込)
監修:倉俣美恵子、植田実(住まいの図書館出版局編集長)
製作 2024年
技法 シルクスクリーン
用紙 ベランアルシュ紙
用紙サイズ 37.5×48.0cm
刷り:石田了一工房・石田了一
たとう製作 小林薫
発行 ときの忘れもの
*詳細については、2024年3月8日ブログをご参照ください。

ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
稲塚展子
(富山県美術館 学芸課副主幹)
「倉俣史朗のデザイン――記憶のなかの小宇宙」は、世田谷美術館、富山県美術館、京都国立近代美術館が中心となって準備を進めてきたが、その過程で担当学芸員たちが共有してきたことの1つは、本展を通してそのデザインだけではなく、人としての倉俣史朗を伝えたいという事であった。想いは1つでも、倉俣展に限らずとも巡回展は会場ごとに印象が変わっていく。館名に「アート&デザイン」がついている富山県美術館の展示室で、「人としての倉俣史朗」を伝えることは担当学芸員だけでできる訳はなく、グラフィックとインテリアのデザイナーの方々から力をお借りした。
図録はグラフィックデザイナー、アートディレクターの永井裕明さんにお引き受けいただいた。併せて富山県美術館での開催告知ポスターをお願いしたところ、程なく、当館所蔵の《ミス・ブランチ》(1988年)や《ハウ・ハイ・ザ・ムーン》(1986年)を真横から撮影したカットを据えた案が送られてきた。「人としての倉俣史朗」という問いへの永井さんの答えは、1脚の椅子を人の佇まいになぞらえ、真横からのカットをその椅子のデザイナーである倉俣の、心象としてのプロフィールに重ねてみるというものだった。椅子が真横になるだけで、背もたれの前の余白に誰かの気配が生まれる。富山のポスターは、これ以外は考えられなくなってしまった。最小限の要素で豊かに展覧会を伝えるポスターに、富山での開会まで導いてもらった感がある。

ポスター 富山県美術館「倉俣史朗のデザイン」展(デザイン:永井裕明)
会場構成とデザインは、インテリアデザイナーの五十嵐久枝さんにお引き受けいただいた。武蔵野美術大学美術館・図書館で開催された「みんなの椅子」展の気持ち良い空間デザインが印象に残っていたことはもとより、クラマタデザイン事務所のスタッフとして「人としての倉俣史朗」にふれてきた方である。早速出してくださった展示図面では、フリーハンドのような緩急のある線が流れていた。五十嵐さんの答えは、倉俣が描いたような線に導かれてながら作品と出会っていくことなのだという。そして、その線の内側にはシュレッダーにかけた廃棄紙を敷き詰めるという。膨大なシュレッダー紙の準備は、当館ボランティアの皆さんが配架終了後のチラシを加工する作業を引き受け、武蔵野美術大学美術館・図書館さんなども協力を申し出てくれた。
設営が始まって会場の風景が見えてくると、テラゾーのテーブル《トウキョウ》(1983年)の場所でやっと気がついた。色ガラスの破片が光るテラゾーも、元の印刷物に乗った色をはらんだシュレッダー紙も、打ち捨てられた素材から見いだされた光なのである。テラゾーは、大理石の安価な代用品としてその屑などを混ぜ込んだもの。そこに倉俣がガラスの屑を散りばめた様を、職人たちが「スターピース」と呼んだのがそのままこのテラゾーの愛称となった。シュレッダー紙のスターピースが広がる富山の展示室のそこここで、倉俣のデザインと言葉が瞬いている。

会場風景_富山県美術館「倉俣史朗のデザイン」(会場構成デザイン:五十嵐久枝、撮影:柳原良平)
富山県美術館での倉俣史朗展は、4月7日まで。美術館の入口に掲げられた横顔の《ミス・ブランチ》が、倉俣のイマジネーションと創造が静かに流れる会場へと導いてくれる。
(いなづか ひろこ)
●富山県美術館「倉俣史朗のデザイン――記憶のなかの小宇宙」
会期 2024年2月17日(土)~4月7日(日)
開館時間 9:30~18:00(入館は17:30まで)
休館日 毎週水曜日(ただし3月20日は開館)、3月21日(木)
観覧料 一般:900円(700円)、大学生:450円(350円)
■稲塚展子 Hiroko Inazuka
富山県生まれ。旧・富山県立近代美術館にて主に「20世紀の椅子コレクション」の収集・展示等を担当。富山県民会館美術館、富山県庁文化振興課を経て、現在、富山県美術館学芸課副主幹(学芸員)。主な担当展として、「時代の共鳴者-辻井喬・瀧口修造と20世紀美術」(富山県立近代美術館、2015)、「世界ポスタートリエンナーレトヤマ」(2018、2021)など。
●倉俣史朗の限定本『倉俣史朗 カイエ Shiro Kuramata Cahier 1-2』販売中
限定部数:365部(各冊番号入り)監修:倉俣美恵子、植田実
執筆:倉俣史朗、植田実、堀江敏幸
アートディレクション&デザイン:岡本一宣デザイン事務所
体裁:25.7×25.7cm、64頁、和英併記、スケッチブック・ノートブックは日本語のみ
価格:7,700円(税込) 送料1,000円
詳細は2023年3月24日ブログをご参照ください。お申込みはこちらから
※同書籍は富山県美術館のミュージアムショップでも販売いただいております。
●『倉俣史朗 カイエ4集』の予約受付を開始しました。
特別価格での予約受付は5/31まで。〇A版 シルクスクリーン 10点組/44万円
予約特別価格:35万円(税込)
〇B版 《68.ミス ブランチ(1988)》入り11点組/55万円
予約特別価格:45万円(税込)
監修:倉俣美恵子、植田実(住まいの図書館出版局編集長)
製作 2024年技法 シルクスクリーン
用紙 ベランアルシュ紙
用紙サイズ 37.5×48.0cm
刷り:石田了一工房・石田了一
たとう製作 小林薫
発行 ときの忘れもの
*詳細については、2024年3月8日ブログをご参照ください。

ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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