先日、岡山・磯崎新建築ツアーを開催しました。
ときの忘れもの亭主に「え?まだ奈義町現代美術館見てないの?」と毎度呆れられるので、岡山の国際芸術祭「森の芸術祭 晴れの国・岡山」(会期=2024年9月28日~11月24日)に合わせて、お客様と一緒に岡山県にある磯崎新建築2軒と国宝建築2軒を見てきました。
まず、奈義町行きを検討する際、新幹線と飛行機、どちらで行っても遠い遠い。5時間はかかります。結局行きは飛行機、帰りは新幹線にして、県内はタクシー移動の1泊2日の強行軍。
今回は1日目の奈義町現代美術館訪問のレポートです。

【ツアー行程】
2024年11月14日(木)~15日(金) 1泊2日
●1日目:岡山空港ー奈義町現代美術館ー岡山市街泊
●2日目:吉備津神社―岡山西警察署―旧閑谷学校―岡山駅

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岡山空港からジャンボタクシーで1時間45分、奈義町現代美術館へ到着。
那岐山を背景にえんじ色の四角い建築と、大きな太鼓がゴロンと転がっているようなシンボリックな建物が見えてきました。
IMG_3024那岐山を背に、屋上から見た「大地」の建物。手前には宮脇愛子さんの《うつろひ》が見えます。

IMG_3022敷地の裏側に回ると三日月型の建物。この建物は、中秋の名月の夜10時の月明かりにあわせて考えられたという一年に1回だけその効果を発揮する特別な建物です。

IMG_3028太鼓のような建物は近寄ると意外と大きい。

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IMG_3019少し傾斜して建てられています。

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ときの忘れものの庭に設置させていただいている北川太郎さんの彫刻が3点設置されていました。

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手前の作品も北川太郎さんの彫刻

奈義町現代美術館をつくる際、磯崎新さんが提案したのは、サイト・スペシフィックな美術館でした。作家に半永久的に設置するインスタレーションを考えてもらい、建築家はそれに屋根をかけるだけ。作品と建築が一体化し、ここでしか味わえない体験ができる第三世代の美術館です。
ちなみに、第一世代の美術館はルーブル美術館のようにお城の中に古美術から現代美術までのコレクションを公開するというもので、第二世代の美術館はMoMAのようなホワイトキューブで企画展を開催するもの。現在は第二世代の美術館が主流になっています。
磯崎さんが考えた第三世代の美術館は、奈義町が初めての試みであり、他にも試そうとしたそうですが計画だけで実現しなかったので唯一の美術館ということになります。
今でこそ直島の地中美術館のような体感型の美術館がありますが、磯崎さんは30年前からサイト・スペシフィックな美術館をこの奈義町で実現させています。
磯崎さんが奈義町現代美術館に選んだ作家は、宮脇愛子さん、岡崎和郎さん、荒川修作さん+マドリン・ギンズさんの3組。いずれも瀧口修造さんの影響を受けた作家たちです。

美術館内にある町民ギャラリーでは、芸術祭企画の「磯崎新展」が開催されていました。
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IMG_3037モンローチェアーハイバックやアーク・ノヴァの模型などが展示されていました。

IMG_3040奈義町現代美術館のために描いたデッサンのパネル。

IMG_3041この図は、中秋の名月22時の方向軸に合わせた岡崎和郎さんの展示室・月の部屋、太陽の南北軸に合わせた荒川修作さん+マドリン・ギンズさんの展示室・太陽の部屋、秀峰那岐山が背景になるようにした宮脇愛子さんの展示室・大地のそれぞれの軸線が描かれています。

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IMG_3014大地の部屋の宮脇愛子さんの彫刻《うつろひ》。半分は屋外で水盤に、もう半分は屋内で丸石が敷き詰められたところに設置されており、空間によって見え方が異なるのを比べられました。《うつろひ》のワイヤーのしなり具合が強くて美しく、水盤への映り込みでワイヤーが複雑に重なり、時間を忘れて魅入ってしまう作品です。

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IMG_3053空にドローイングするというコンセプトの《うつろひ》は、下からワイヤー越しに空を見上げるものだと思っていましたが、水盤に反射する空にもしっかりドローイングされていました。

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IMG_3056《うつろひ》のドローイング。

気になっていた太鼓が転がったような建物の中へ行くには、壁一面、地元の方の写真が貼られた部屋の中心にある傾斜した螺旋階段を上ります。
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目が回りそうになりながらようやく上った先に、真っ直ぐ立っていられないし歩けもしない空間が・・・1/8という円筒の縦方向の傾斜があるらしく、平衡感覚がおかしくなり、気分が悪くなり、とにかくベンチに座るので精一杯。早く出たい・・・これが荒川修作さん+マドリン・ギンズさんの《遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体》。
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部屋の中には円筒型の両側には龍安寺を模したものが。この夏訪ねた何時間でもいられる心地よい龍安寺とは似ても似つきませんが・・・シーソーも鉄棒も気になるけれど、そこまで歩いて辿りつく自信がないのでそそくさと退散。

そして、岡崎和郎さんの作品の展示室・月の部屋へ。三日月型の建物は、壁はレンガに漆喰を塗ったもので、床は土俵と同じ素材だそうです。それぞれが堅い素材なので、音がとても響きます。幅の狭い細長い空間には、岡崎和郎さんのブロンズの作品《HISASHI》が壁からにょきっと出ていました。この空間には岡山産御影石でつくられたベンチと2つの窓のみで、照明はありません。夜になると何も見えなくなるそうですが、中秋の名月の22時には窓から月明りが差し込むのだとか。1年にたった1日のために作られたこの空間。タイム・スペシフィックでもあるわけですね。是非中秋の名月の22時にこの空間に来てみたいものです。
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最後にえんじ色の四角い建物にある図書館へ。吹き抜けの正方形の四面の壁にはびっしりと本が並んでいます。天井を突き抜けたトップライトからの光が空間にほんわかと明るさをもたらしていました。所々に設けられた窓の前にはデスクがあり、景色を独り占めできます。

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皆様、図書館も忘れずに行ってくださいね。

同じ敷地内にある人気店のイタリアンレストラン(こちらも磯崎新さん設計、内装は当時から変わっています)でピザを食べてから、岡山市街地へ。

夕食に選んだ居酒屋さん(内装はバーのようですが)の壁に舟越桂さんの作品が3点飾ってあり感激。料理もいちいち美味しくて、いい一日の締めくくりとなりました。
おだち れいこ

国際芸術祭「森の芸術祭 晴れの国・岡山」
2024年9月28日(土)~11月24日(日)
・アートディレクター:長谷川 祐子(キュレーター、美術評論家、金沢21世紀美術館館長)
・開催エリア:岡山県内12市町村
(津山市、高梁市、新見市、真庭市、美作市、新庄村、鏡野町、勝央町、奈義町、西粟倉村、久米南町、美咲町)
・アーティスト(順不同):レアンドロ・エルリッヒ、アンリ・サラ、キムスージャ、リクリット・ティラヴァニ、タレク・アトゥイ、ジェンチョン・リョウ、ビアンカ・ボンディ、スミッタ・G・S、オウティ・ピエスキ、アシム・ワキフ、ジャコモ・ザガネッリ、ウメッシュ・P・K 、パオラ・ベザーナ、ムハンナド・ショノ、坂本龍一+高谷史郎、森山未來、川内倫子、蜷川実花、妹島和世、立石従寛、片桐功敦、AKI INOMATA、上田義彦、磯崎新、東勝吉、東山詩織、川島秀明、森夕香、八木夕菜、染谷悠子、太田三郎、杉浦慶侘、江見正暢 and more...
2024年秋、 岡山県北部において、国際芸術祭 「森の芸術祭 晴れの国・岡山」 を開催します。本芸術祭のアートディレクターは、キュレーターとして 数々の国内外の先鋭的な美術展に携わり、日本の現代アートの海外発信や国際文化交流の 推進に貢献してきた長谷川祐子氏。長谷川氏が国内で国際芸術祭のアートディレクションを行うのは本芸術祭が初となります。
「森の芸術祭」という名称は、 温暖な気候、豊かな水や文化、人々が集まる場所としての多様性と豊かさを 象徴する「森」からきています。アートの力で地域の魅力を引き出し、岡山ならでは、 県北部ならではの国際芸術祭を作り上げます。(JRおでかけネットより)

奈義町現代美術館
〒708-1323 岡山県勝田郡奈義町豊沢441
0868-36-5811(奈義町現代美術館)
3組のアーティストに巨大作品を制作依頼し、その作品と全体の空間を建築化したもので、作品と建物が半永久的に一体化した公共建築として世界で初めての美術館です。「太陽」、「月」、「大地」と名付けられた3つの展示室から構成されています。
円筒形の展示室「太陽」には、日本を代表する現代美術家・荒川修作氏とマドリン・ギンズ氏の作品が展示されており、傾斜した不思議な空間で鑑賞することができます。
建築家/完成年:磯崎新/1994年(岡山観光WEBより)


●本日のお勧め作品は磯崎新です。
isozaki_villa-03磯崎新 Arata ISOZAKI《ヴィラ3》
1977年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:62.0x47.0cm
シートサイズ:65.0x50.0cm
Ed. 100  サインあり
*現代版画センターエディション
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田中純著『磯崎新論』をときの忘れもので販売中です。先着10名様には特別プレゼントとして磯崎新展のカタログをおつけします。
書影(帯付)『磯崎新論』
著者:田中純
発売:2024年
四六判 784ページ
発行:講談社
定価: 4,750円+税=5,225円、梱包送料550円
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。

●パリのポンピドゥー・センターで始まったシュルレアリスム展にはときの忘れものも協力し瀧口修造のデカルコマニーを貸し出し出品しています。カタログ『SURREALISME』は、仏語版の他に、やっと英語版が到着しました。どちらをご希望か明記して注文してください。
サイズ:32.8×22.8×3.5cm、344頁 22,000円(税込み)+送料1,500円
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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。

12月7日(土)は臨時休廊いたします。

●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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