開廊30周年記念 塩見允枝子×フルクサス from 塩見コレクション」のギャラリートークのレポートです。

●ギャラリートーク「塩見允枝子×フルクサス from 塩見コレクション」
日時:2025年6月20日(金)16時~
講師:西川美穂子 先生(東京都美術館)

■西川美穂子(にしかわ みほこ)
2004年から2025年3月まで東京都現代美術館の学芸員。2025年4月からは東京都美術館の学芸員。主な企画に「MOTアニュアル2008 解きほぐすとき」(2008年)、「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」(2012年)、「MOTアニュアル2012 Making Situations, Editing Landscapes 風が吹けば桶屋が儲かる」(2012年)、「フルクサス・イン・ジャパン2014」(2014年)などがある。2021年「Viva Video! 久保田成子展」の企画及びカタログ中の論文が評価され、新潟県立近代美術館の濱田真由美主任学芸員、国立国際美術館の橋本梓主任研究員、ニュージャージー・シティ大学の由本みどり准教授とともに第32回倫雅美術奨励賞を受賞した。

当日は猛暑の中、ご予約の10名の方にお集りいただきました。
講師の西川美穂子先生は、東京都現代美術館に在任中、「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」(2012年)や「Viva Video! 久保田成子展」(2021年)を企画され、今年2025年4月からは東京都美術館にお勤めになっています。
塩見先生にギャラリートークのご相談をしたところ、西川先生のお名前を挙げられ、塩見先生からのご指名とあらばと急なお願いにもかかわらず快諾いただきました。

西川先生はスーツケースに目一杯詰め込んだフルクサス資料を持参してくださり、初心者の方でも分かりやすいフルクサス講座開講となりました。
塩見先生の名著『フルクサスとは何か 日常とアートを結び付けた人々』(2005年、フィルムアート社)から、フルクサスの特徴要素として「多国籍であること」「グループの境界が曖昧」「美術・音楽・詩など様々な分野の作家がいる」「観客参加型の作品がある」「ユーモアを重んじた」など12項目を音読され、例として靉嘔先生の作品集を広げて説明いただきました。靉嘔先生は「虹」というインストラクション(演劇でいうキュー出し)を自分に課し、光のスペクトルの色である「虹」の色分けだけで作品をつくることを決して覆すことなく現在も制作を続けています。
また、塩見先生の著書のタイトルにある「日常とアートを結び付けた」という点は、フルクサスにとって重要な要素である一方、誰でもできるという点に重きを置いて理解されることで、わかりにくくなってしまっている可能性があると西川先生は指摘されました。フルクサスにとって「誰でもできる」ということが主眼ではありません。例えば当時(1960~1970年代)発表された観客参加型の作品の場合、彼らが作家同士でパフォームしていた時代のリアリティを持っていない我々(現代)には同じように日常を捉えることは難しいでしょう。
日常の行為を取り上げつつ、その行為を延長や展開させているところこそがフルクサスの重要なところなのではないかと西川先生は仰います。
その中で、音楽家である塩見先生は、地球をステージ(舞台)にした《SPATIAL POEM スペイシャル・ポエム》(直訳:空間の詩)を制作します。西川先生は、この作品はシンプルだが複雑な要素があり真に理解するには時間がかかる。塩見さんがNYから日本に帰国した後にも制作されており、アートの中心とされるニューヨークから離れた日本という場所で、結婚されて子育てする中でもアートが可能だということを示したことが重要であり素晴らしいと仰っていました。

客席には、三上豊先生、社会学の視点から《スペイシャル・ポエム》を分析している金光淳先生にもご出席いただきました。
トークの終了後には、ざっくばらんにお話も伺うことができました。
Viva Video! 久保田成子展」(2021年)は、開催の10年以上前から計画され、当初はナム・ジュン・パイクジョン・ケージといった関連する作家の作品を含めることも検討されていたそうですが、2020年代に入り、開催が決まった時には、久保田単独の個展として成立すると判断されたそうです。これまで単独で取り上げられることが少なかった女性作家の個展が開催できた意義を感じるとのことでした。この展覧会で久保田成子さんの功績を初めて知ったという方も少なくないのではないでしょうか。

トークの後半では「塩見さんは理知的な方で文才がありフルクサスについて多くのことを書き残し、伝えてくださっていますが、塩見さんに頼りすぎず私たち研究者がもっとフルクサスについての言説を補完していかなければならないと思っている。」と仰っていたことも印象的でした。そのお話の中で、余談ですが、塩見先生の事務能力がとても高いことも明かされました。私たちスタッフも毎日塩見先生とメールのやりとりをしている中で、塩見先生からは本当に明確なお返事をいただけますし、丁寧なお仕事に頭が上がらないことを西川先生と共有しました。塩見先生のご自宅へ伺った際、塩見先生がご自身のことを「コンポーザー(作曲家)であり、コンポーヤー(梱包屋)」だと仰っていたことは、フルクサスメンバーたるジョークが効いたお言葉で、先生から丁寧に梱包された荷物が届くたびに思い出してはニヤリとしてしまう私たちでしたが、西川先生も同じ思いをされたことがあるようで、トークで言い忘れましたね汗、と悔やまれていました。
最後には質問タイムも設けることができ、1時半ほどのギャラリートークは終了しました。
西川先生、お忙しい中ありがとうございました。

下の写真はスペシャルエディション《数の回路》を演奏するスタッフMJ

ギャラリートークとは別日ですが、画廊亭主とはン十年来の木下哲夫さんが来廊されました。
フルクサスに参加した作家のベン・ヴォーティエの名言Tシャツを着て来て下さいました。
“I don’t want to do art I want to be happy”

展覧会「塩見允枝子×フルクサス from 塩見コレクション」も終了しました。
炎暑の中、ご来廊いただいた皆様ほんとうにありがとうございました。
作品集の進捗が遅れておりますが、またご報告させていただきますので、いましばらくお待ちいただけましたら幸いです。
スタッフM

●ときの忘れものの建築空間(設計:阿部勤)についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info[at]tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は原則として休廊ですが、企画によっては開廊、営業しています。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。