磯崎新 特大 MOCA の生誕地「甲斐小泉の古民家」
Y さんの手描き案内図コピー 1983 年

 合板やベニヤ 30 枚、スチール棚、養生シート、ブロック、消火器ほか、資材一式を積み込んだトラックが、山梨県八ヶ岳山麓に向かった。1983 年秋のことである。

 磯崎新の MOCA シリーズ 《 [外観]の昼・夜、[内部]の昼・夜 》の 4 種類の特大サイズ2m×1m を刷るためで、9 月と 10 月にそれぞれ 1 週間の合宿制作となった。
 当時の工房では、このサイズの扱いが難しく、一時的に借りられる作業スペースを探していたところ、山梨の Y さんから、友人と共同で借りている別荘があるので空いている時に使っていいですよ、と嬉しい情報がもたらされた。
Y さんは(ブログ 15 号の)雑誌 J J の記事を見てお手紙を下さった方で、その時(1976 年)はまだ進路に悩める高校 3 年生であった。
 別荘といっても平屋の古民家なのだが、むしろこちらとしては願ったり叶ったり、障子や襖を取っ払うと作業しやすいワンルームとなる。
昔の家は、冠婚葬祭など大勢が集まる時はそうしていたし、時代劇やヤクザ映画の出入りなんかの時も襖や障子が外れたり切られたりでアクションを盛り上げていた。

畳の上に養生シートを敷き、その上に[ベニヤ板]+[ブロック]+[寝かせたスチール棚]+[厚めの合板]を載せて、丁度よい高さの刷り台となる。戸部君との二人刷り。
スクリーン版は W ホルダー3 個で咬ませている。
シルクの刷りは、それほどの立ち回りは無いにしても、乾燥のスペースが必要になる。

版の清掃中。写真右に刷り途中のベニヤ貼りの作品。
写っていないが写真の手前奥にも同じような置き場所がある。
ベニヤ板に紙を仮貼りして扱うことで、ひとりでも持てるし、紙折れの心配もない。
乾燥させる時も、間に駒を噛ませて立てかけて風を送ることができる。
大きな作品であるが、見当合わせは紙を扱うのと変わりない。「建物」なので、壁に隙間があったり、窓やドアが傾いたり、ズレがあってはならないのは当然のこと。
見当に当たる箇所を傷つけないように、絵は逆さに立ててある。


MOCA EXTERIOR (DAY TIME) 10 版 10 色 10 度刷り
MOCA INTERIOR (DAY TIME) 9 版 9 色 9 度刷り 群馬県立近代美術館にて (2008 年)


GA ギャラリー図録より EXTERIOR「外観」の昼と夜
版画の強みを生かし、版は共通で色だけ替えて[DAY]と[NIGHT]を表現している。

日曜日は、運送・刷り台セッティング、紙切りで、
月曜日は、ベニヤに紙貼り、空干しで、
火曜日と水曜日は、[外観] 昼・夜を刷り、
木曜日と金曜日は、[内部] 昼・夜を刷り、
土曜日は点検・片付けで、15 時からは NHK 青山へ

差し入れで命をつなぎ、昼夜兼行の一週間の山籠もり。
ここでのノーハウが 80 年代の ISOZAKI コンペ 大もの刷りに生かされていった。

(いしだ りょういち)

■石田了一(いしだ りょういち)
シルクスクリーン刷り師・石田了一工房主宰
1947年北海道根室生まれ、1970 年美學校で岡部徳三氏に師事。1971年、宇佐美圭司展(南画廊)で発表された<ボカシの 40 版>の版画で工房をスタート。これまでにアンディ・ウォーホル、安藤忠雄、磯崎新、草間彌生、熊谷守一、倉俣史朗、桑山忠明、五味太郎、菅井汲、関根伸夫、田名網敬一、寺山修司、鶴田一郎、萩原朔美、毛綱毅曠、元永定正、脇田愛二郎、脇田和 他 ,様々なジャンルのアーティストのシルクスクリーン作品を手掛ける。

●連載「刷り師・石田了一の仕事」は毎月3日の更新です。次回は新年2026年1月3日を予定しています。どうぞお楽しみに。

◆「作品集/塩見允枝子×フルクサス」刊行記念展
会期:2025年11月26日(水)~12月20日(土)11:00-19:00 日曜・月曜・祝日休廊

●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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