人が写っているとまず人数を数えたくなる。
7人いて、全員男性だ。
市街地を離れた山あいの廃虚のような場所である。
そう感じさせるのはまわりの木の繁みのせいだろうか。
どこか荒れた雰囲気がある。
7人はここで一休みしているらしい。
たき火が燃えている。
倒れた木の幹を椅子代わりに座っている人がいる。
地面右手のバックの上に新聞紙の束があるから、
これで集めた木々に火を点けたのだろう。
7人はそれぞれ顔の形がちがい、髪形もちがう。
きっと肌の色もちがっているだろう。
後列右手のポケットに手を入れている男は、髪が黒々として、量も多い。
彼は皮膚の色も浅黒いかもしれない。
その前にいる男は髪の色が明るく、皮膚の色も白そうだ。
その左横には細面で縮れ毛の甘いマスクの好男子がいる。
7人のなかでひとり髪質が違うのは、木の幹に座っている左の男だ。
金髪に近い柔らかい髪で、目の色も明るい。
彼は手に鳥打ちのパチンコを握っている。
パチンコのゴムひもは、となりにいる帽子の男性の手でひっぱられている。
彼らはここで鳥打ちをしていたのだろうか?
7人の顔を順繰りに見つめているうちに、
このなかに兄弟同士の人がいるように思えてきた。
帽子の男とそのすぐ後ろのセーターの男は口元と目が似ている。
帽子のほうが兄だろう。
金髪の男のうしろでニヤリと笑っている男と、
ポケットに手を入れている髪毛の多い男も血のつながりがあるかもしれない。
顔の形や額の狭さが共通している。
彼らの関係は兄弟より遠く、従兄弟くらいだろうか。
いちばん前に座っているタバコを指に挟んだ男はなかなかハンサムで、
そう思って見ると、最後列の”好男子”と似ているように見えてくる。
もしこの推理が当たっているとすれば、7人のうちペアが3組で、
残りは1人で、それは金髪の男ということになる。
彼は直毛で瞳の色が明るく、ほかに似た人が見当たらない。
おもしろいのは7人全員がだれかの肩に手をかけたり、腕をのせたりしてカメラのほうをむいていることだ。
”好男子”の両手は前にいる男の肩と腕にかけられている。
かけられた彼は帽子の男と金髪の彼の肩に腕をのせている。
最後列の肌の浅黒い男は7人のなかでいちばんカメラから離れているが、
その距離を埋めるようにセーターの男の肩に右手を乗せている。
写真に撮るときは身体のどこかを絡ませるのが習慣なのだろうか?
ひとりひとりは違うのに、くっつき合ってひとつの塊と化している。
この接触度の多さが7人に独特な雰囲気を醸しだしており、
それはそのまま写真の密度にもなっている。
塊の中心にいるのは帽子の男である。
年齢的にも彼がいちばん上だろうし、表情も思慮深さを感じさせる。
”6人の師”とは言わないまでも、それに近い存在なのではないか。
その印にこの男だけが帽子を被っている。
大竹昭子(おおたけ あきこ)
⚫︎写真集
落合由利子写真集『東欧1989 EASTERN EUROPE』
2025年4月刊行 プルナブックス
判型:210×265mm
116頁、掲載作品81点、ハードカバー
I S B N:978-4-9914151-0-4
yurikoochiai.theshop.jp
34年前に出版直前で流れてしまった写真集を新たに編み直し、歴史の中に一人ひとりの人が生きているということを、今の時代に伝えたい。巻末に当時の紀行文と、毛利嘉孝氏(社会学者、東京藝術大学大学院教授)の寄稿文を掲載。
⚫︎作家情報
落合由利子 (おちあい ゆりこ)
1963年 埼玉県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒
写真集
2025年 『東欧 1989 EASTERN EUROPE』 プルナブックス
2021年 『話したい—戦争は知らないけれど』 私家版
1984年 『WINDOW’S WHISPER』 私家版(日本大学芸術学部長賞受賞)
主な個展
2025年 「東欧 1989 EASTERN EURPE」 IG Photo Gallery
「CORNEREVA—ROMANIA 1991」 ギャラリー冬青
「絹ばあちゃんと90年の旅」 OGU MAG
2000〜2017年
「働くこと育てること」 全国巡回
コラボーレション展示〈スクリプカリウ落合安奈〉
「わたしの旅のはじまりは、あなたの旅のはじまり」
2024年 横浜市民ギャラリー
2023年 MYAF 2023 寺田倉庫G1ビル
2021年 ANB Tokyo
著書
2005年 『絹ばあちゃんと90年の旅—幻の旧満州に生きて』 講談社
2001年 『働くこと育てること』 草土文化
共著
2012年 『ときをためる暮らし』 文藝春秋/自然食通信社
2015年 『若者から若者への手紙1945←2015』 ころから 他
WEBサイト: https://ochiaiyuriko.com
●大竹昭子のエッセイ「迷走写真館~一枚の写真に目を凝らす」は隔月・偶数月1日の更新です。
●本連載の最初期の部分が単行本になった『迷走写真館へようこそ』(赤々舎)が発売中です。
赤々舎 2023年
H188mm×128mm 168P
価格:1,980円(税込) 梱包送料:250円
※ときの忘れものウェブサイトで販売しています。
◆「作品集/塩見允枝子×フルクサス」刊行記念展
会期:2025年11月26日(水)~12月20日(土)11:00-19:00 日曜・月曜・祝日休廊
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。




コメント