佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第108回
飾りのためのハコ
飾りについて、常日頃なるべく考え、作ろうともしているが、すべてをやり切った、飾り切る、という仕事はまだできていない。古建築では装飾は必須のものだった。構造が先か、装飾が先か、その発生起源を探ることはニワトリとタマゴの関係のように途方もないだろう。一方で20世紀に入ってアドルフ・ロースをはじめとするいくつかの装飾に関する言説を極解して出てきた装飾不要論あたりには少し疑問を感じつつ、改めて装飾、あるいは飾りというものが何なのかを考え込んでいる。
先月、家具職人のfurnituon小坂部さんと7体の立体を制作した。立体、と抽象的に言い表すよりも、今回は家具、により近いモノだとも思う。ハコを備え、正面の扉が可憐な丁番で開き、中に小さな物を入れることができる。扉には四角い穴が開いているので、扉を閉めていても中のモノが外から見える。中は少し暗がりになるので、すこし身を屈ませてドレドレとハコの中を覗き込むようになる。美術の小品でも、小さめの本でも使う人たちがそれぞれ好きなものを入れればよい。ハコの中が見えるのだから、すこしだけ整えながらモノを仕舞い込むようにもなるかもしれない。
足元には階段状のボリュームを付けた。こちらは全体の重心を下げる工夫であるとともに、蓋などは付いていないが、代わりにその階段のところへ少しだけモノを置けるようにしている。雛人形を飾る時の小さなひな壇のようなものだ。
何かモノを飾るための家具。そしてもちろんだが、その家具自体を置くことで空間・場所を飾ることにもなる。
以前、ある住宅の設計をしている際にもやっぱり飾りを考えることがあった。予算もシビアで、骨組みと最低限の仕上げだけを設えるので精一杯のプロジェクトにおいて、飾りを考える、仕込むこと自体なかなかに困難なことでもあるが、それでも生活には何らかの彩りが必要なのではないか、と考えて頑張る。もちろんその時の「飾り」とは、完全に余計なものでもなく、ちょっとしたモノを置くための棚とか、屋根の軒の出とか、玄関の明かり取り窓とか、そういった要素だ。本来的に、有機的に全てが繋がっているはずの人間の生活において、何が必要で何が不必要であるかを決めるのはとても難しい。仕事と遊びは表裏一体の関係であるだろうし、それこそ生きることと死ぬことだってどっちが裏か表かも決めることはできない気もする。
装飾、飾りについての興味を持ったのは、実は建築史家・鈴木博之さんの著書『建築の世紀末』からだ。そこではたしか、装飾を生み出すための要因として、付加性、形式性、表面性、そして世界観的前提、の4つが挙げられていたと記憶している。世界観的前提というものが今の時代ではとても厄介なもので、そこかしこで戦争が起こり、原発のデブリも取り出しきれず、誹謗中傷にまみれたウェブ空間にもまみれつつ、けれども私たちは一見すると平穏に暮らしてもいる。そんなモヤモヤとした雰囲気の中で、どんな世界観が生まれているのだろうか。なかなか見えてこない。ただし、そこへの熟慮に、なにか展開の余地があるのではないだろうか。そんな気がしている。
(さとう けんご)
■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。「一般社団法人コロガロウ」設立。2018年12月初個展「佐藤研吾展―囲いこみとお節介」をときの忘れもので開催。2022年3月第2回個展「佐藤研吾展 群空洞と囲い」を、2024年11月第3回個展「佐藤研吾展 くぐり間くぐり」をときの忘れもので開催した。
・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。次回は2026年4月7日を予定しています。どうぞお楽しみに。
■特集展示「安藤忠雄」
会期:2026年2月27日(金)~3月7日(土) 11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊
*好評につき3月12日(木)まで、会期を延長します。
会場:ときの忘れもの
安藤忠雄の1988年の巨大版画「中之島プロジェクト(アーバンエッグ)」2点を展示するとともに、ル・コルビュジエ、磯崎新、槇文彦、マイケル・グレイヴス、倉俣史朗、六角鬼丈、佐藤研吾など巨匠から気鋭まで建築家の秀作を併せてご覧いただきます。
◆ときの忘れものは、アートフェア東京2026 へ出展します。

*TOKYO ART BEATでも<ときの忘れものは、内間安瑆・内間俊子の作品、瑛九のフォト・デッサンなど戦後美術史における重要作家を取り上げる>と注目されています。
会期=2026年3月13日(金)~3月15日(日)
会場=東京国際フォーラム ホールE/ロビーギャラリー
(〒100-0005 東京都千代田区丸の内3丁目5番1号)
ときの忘れものブース番号= N009
出品作家=安藤忠雄、磯崎新、内間安瑆、内間俊子、瑛九、倉俣史朗、佐藤研吾、塩見允枝子、瀧口修造、松本竣介
*アートフェア東京2026 公式サイト https://artfairtokyo.com/
<重要なお知らせ>
アートフェア東京2026出展のため、
ときの忘れものは、2026年3月13日(金)~3月16日(月)は臨時休廊いたします。
スタッフはアートフェア東京の会場(東京国際フォーラム)におります。
●ときの忘れものの建築空間(阿部勤 設計)についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。






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