三上豊「今昔画廊巡り」第25回 ギャルリー・ところ
ギャルリー・ところといえば、ブランクーシ展がまず思い出される。77年、日本橋での開廊展、85年の銀座へ移転した際、最初の展覧会もブランクーシだった。過日、画廊があった日本橋本町1-5に行ってみたが、あたりは再開発され、面影はなかった。そして銀座へも行ってみると、1丁目6―2のそこはかつてのビルにかわってガラス張りの建物となっていた。
オーナーの所明義(1943―不詳)さんは、東京生まれ。慶應大学を卒業後、商社に勤め、68年から2年間、梅田画廊に勤務している。どうして美術業界に入ったかはよくわからないが、71年から6年ほど欧米を巡り、画商としての修行をしたとある(『美術商の提言』1994 美術年鑑社)。
日本橋の画廊の記憶は、それほど広くはなく、床は木のフローリングで明るい感じだった。《おんどり》など4点のブランクーシが展示されていた。本邦初という触込みで、『朝日ジャーナル』(懐かしや)などでも取り上げられた。ただ、作品はブランクーシの遺産相続人イストラッティ夫妻の許可付きの再鋳造であり、そのことはリーフレットのデータには記載されていなかった。
スキャンダルというほどではないが、案内状まで配布してボツになった展覧会があると聞く。91年11月に開催予定だった篠山紀信撮影の宮沢りえ写真展だ。あのサンタフェの延長線上に企画されたのだろう。会期直前に中止となり、ポスターなどは現在古書店でいい価格がついているようだ。日本人の作家では、流政之、篠田桃紅、村井正誠、三木富雄、さらに田中信太郎、海老塚耕一、鷲見和紀郎、大竹伸朗ら大御所から若手の美術家の発表があった。85年からの銀座のスペースは、地下1階で、暗めの空間が広がり、壁面65メートル、ちょっと贅沢な感じもした。海老塚、鷲見、大竹らの発表は記憶に残るものが多い。彼らを育てようとしたのだろうか。
しかしながら、所さんの狙いは別のところにあったのではないか。ブランクーシをはじめ、海外のモダン・マスターズ、カンデンスキー、マイヨール、デュシャン、レジェ、チリダ、アルバース、モンドリアンといった作家を扱った。80年にはマリーナ・ピカソコレクションの日本における独占販売権を得たそうだ。彼らを扱うには、遺族や海外の画廊をはじめ、なによりコレクターへの信用が必要で、それなりの費用がかかる。所さんを支えたパトロンもいただろう。しかし、国内の美術館への営業も大変だったのではないか。ウェッセルマン、シーガル、パナマレンコ、マリソールらの展覧会を美術館と組んで企画してもいた。富山県美術館などには作品が購入されていたし、私からみれば豪華すぎるカタログも制作していた。海外の画廊と互角の商いを目指していたのかもしれない。モンドリアンの展覧会以後、画廊の活動は縮小に向かった。
99年秋には、銀座8丁目10―3に移転している。かつて自由が丘画廊があったところだ。2009年初頭までの業界画廊地図から場所は確認できるが、その後の動向は不明だ。
(みかみ ゆたか)
■三上 豊(みかみ ゆたか)
1951年東京都に生まれる。11年間の『美術手帖』編集部勤務をへて、スカイドア、小学館等の美術図書を手掛け、2020年まで和光大学教授。現在フリーの編集者、東京文化財研究所客員研究員。主に日本近現代美術のドキュメンテーションについて研究。『ときわ画廊 1964-1998』、『秋山画廊 1963-1970』、『紙片現代美術史』等を編集・発行。
・三上豊のエッセイ「今昔画廊巡り」は毎月28日の更新です。
●本日のお勧め作品は、塩見允枝子です。
《バランス・ポエム 1》
1991年
紙にコラージュ
42.0×59.4cm
Ed.10
サインとナンバーあり
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ときの忘れものは開廊30周年を迎えました。記念展として「塩見允枝子×フルクサス from 塩見コレクション」展を開催しています。
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『父、松本竣介』
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判型:A5変判(200×148mm)・上製
頁数:368頁+カラー口絵16頁
定価:4,400円(税込)+梱包送料650円
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
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