北九州・磯崎新 建築ツアーレポート その2
3月1日(土)~2日(日)に、北九州・磯崎新 建築ツアーを開催し、二日目、北九州市立中央図書館・北九州市立文学館を訪ねました。
【スケジュール】
■ 3月1日(土)
13:20 北九州空港到着口集合、移動
14:00~17:00 北九州市立美術館
17:20 ホテルチェックイン
18:30~ 夕食
■ 3月2日(日)
9:00 ホテルチェックアウト、タクシー移動
9:30~11:30 北九州市立中央図書館、北九州市立文学館
11:40~13:00 ランチ、タクシーで移動
13:10~14:40 西日本総合展示場 本館、北九州国際会議場
14:45~ 移動、北九州空港にて解散

2館は繋がるように建っています。北九州市立美術館と同年に竣工した建築だそうですが、全く異なるコンセプトに感じます。
外観は、緑色と白色のバイカラーで、屋根の緑色は薬品処理で緑青を生じた0.3mmの銅板だそうです。

磯崎新 "LIBRARY"
1983年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:55.0x55.0cm
シートサイズ:90.0x63.0cm
Ed.75 サインあり
*現代版画センターエディション
私は〈還元〉シリーズでしか見たことがなかったので、今回初めて様子がわかりました。

図書館の建設当時はまだ予算がなかった時代で、躯体費用が掛かり、仕上げまでお金を使えなかったそうですが、建物自体に圧倒的なインパクトがあるので、お金がかかっていないようには感じません。
立面だとわかりませんが、上空から見ると、実はチューブ2本がそれぞれに伸びて湾曲し、面白い形状をしています。チューブの先端が曲がっている方が図書館、渦を巻くように曲がっている方が文学館です。工場にあるパイプを曲げて作ったような、まるで鉄の彫刻のような建物です。

建物の一部(カフェ)に、マリリン・モンローのボディラインを参考にしたモンローカーブを使用しています。


ヴォールト状の屋根は、西洋建築を見ているようで美しいこと。複雑そうにみえますが、たった3種類の型枠でつくられたプレキャストコンクリートを組み合わせて作られた屋根だそうで、合理的につくられたようです。


映画「図書館戦争」で予習していましたが、ロケ地に選ばれるだけあって、存在感のある図書館建築。図書館というものは、どこも居心地がよく特殊な空間だと思いますが、こんなにも豊かな図書館は日本には他にないのではないでしょうか。
続いては、チューブが渦巻き状になっている文学館。
文学館の外観。蔦が生い茂っていますが、これも計画通りだそう。
文学館のステンドグラスの裏側は雪の結晶のよう。

このステンドグラスは思想家・三浦梅園の著書に描かれた図から、磯崎さんがデザインしたそうです。ステンドグラスを眺めるこのひと時のために、来る価値があるように思います。

文学館の内部も図書館に連動しており、プレキャストを使ったアーチ状の天井。

美味しいランチを食した後に、埠頭の方へ車で移動し、西日本総合展示場 本館へ。
〈還元〉シリーズで見ていた"CONVENTION CENTER"(西日本総合展示場 本館)。
正直なところ、この版画を見るたびにムカデのようだと思うのですが、西岡弘さんにこの建物の構造を教えていただき、心底驚きました。柱がない大空間をつくるというコンセプト。丹下先生の代々木第一体育館を意識したそう。屋根を引っ張り上げて、まるで橋のようなつくりです。形としてはシンプルですが、前述の美術館や図書館とは全く異なる建築への挑戦を感じました。

磯崎さんは以下のように記しています。
「この天井を、海にダイブして水面上をふりかえったとき、そこに外光に反射するゆらめいている薄い膜面がみえる。そんな状態の現出を想った。そのためには長大スパンの建物に特有のごつい、重い梁が消去されねばならない。梁を外側から吊り下げること。梁成は支点の位置を考慮すれば、最小限におさえることができよう。それにうねるような被膜としての天井面をからませる。」


構造設計は川口衞さんで、国立代々木競技場の構造設計に坪井善勝さんの下で携わっておられる方です。
屋根の上に立つ巨大なポストは、載っかっているだけで(正確にはポストの先端の鉄板が屋根の側面に刺さっているだけで、固定されていない)屋根を引っ張り上げるワイヤーの張力と、地面に固定されているワイヤーの張力が等しいため、直立しているのだそうです。屋根をワイヤーで吊っているので、室内には屋根を支える柱はなく、約50×170mの巨大空間が生まれています。
中はイベント開催中だったため、ちょっとしか見ることはできませんでしたが、西岡さんの説明を聞くだけで面白くて、大興奮でした。

磯崎さんは、建物によって依頼する構造家を変えていたようで、北九州市立美術館と図書館は木村俊彦さんに、西日本総合展示場本館と北九州国際会議場は川口衞さんに構造を依頼しています。
最後に見学する建築は、向かい側にある北九州国際会議場。残念ながら中に入ることができず、外観のみ拝見。

こちらは西日本総合展示場の12年後の増築として、1990年に竣工したものだそうです。

こちらもすぐそばにある海の波や水がデザインの主題となっており、屋根は波のようになっていますが、これがまた大変だっそうです。
磯崎建築の変化の周期は10年と伺ったことがあり、12年前の建築とはまた異なる建築思想で考えられたことは一目瞭然。色を使い、市立美術館の双眼鏡ではなく望遠鏡のような形状で北九州国際会議場の方を望んでいるようでもあらいました。
大分だけでなく、北九州も磯崎建築の宝庫であることを知り、5建築も磯崎新さんに依頼した北九州に敬意を表します。
是非皆様も北九州へ磯崎新 建築巡礼をお勧めします。
帰りは北九州空港に行くも、霧の影響で欠航となり、小倉駅に戻って、新幹線で東京まで帰りました。
(おだち れいこ)
●本日のお勧め作品は磯崎新です。

磯崎新「闇1」
1999年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:58.3×77.0cm
シートサイズ:70.0×90.0cm
Ed.35 サインあり
*ときの忘れものエディション
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
昨日に続いて3月に開催した北九州・磯崎建築ツアーのレポートです。
文中で尾立麗子が触れている映画「図書館戦争」(佐藤信介監督)、ブログで確認したら2013年、ずいぶん前なんだなあ、つい昨日のような気がしていました。
福岡相互銀行、大分医師会館など既に壊されてしまった磯崎建築も少なくありません。名建築が失われないうちに若いスタッフには実物見学をして欲しい。引き続き磯崎建築ツアーを計画しますので、皆さんもどうぞご参加ください。
●5月11日のブログで「中村哲医師とペシャワール会支援5月頒布会」を開催しています。
今月の支援頒布作品は島州一、ブーランジェ、仙波均平です。
皆様のご参加とご支援をお願いします。
申し込み締め切りは5月20日19時です。
◆次回展覧会のお知らせ
「2025コレクション展3/駒井哲郎、菅井汲、池田満寿夫」
2025年5月21日(水)~5月24日(土)11:00-19:00
※前回展DMで予告していた日程から会期が変更となりました
●松本莞さんが『父、松本竣介』(みすず書房刊)を刊行されました。ときの忘れものでは莞さんのサインカード付本書を頒布するとともに、年間を通して竣介関連の展示、ギャラリートークを開催してゆく予定です。
『父、松本竣介』の詳細は1月18日ブログをお読みください。
ときの忘れものが今まで開催してきた「松本竣介展」のカタログ5冊も併せてご購読ください。
画家の堀江栞さんが、かたばみ書房の連載エッセイ「不手際のエスキース」第3回で「下塗りの夢」と題して卓抜な竣介論を執筆されています。
著者・松本莞
『父、松本竣介』
発行:みすず書房
判型:A5変判(200×148mm)・上製
頁数:368頁+カラー口絵16頁
定価:4,400円(税込)+梱包送料650円
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

3月1日(土)~2日(日)に、北九州・磯崎新 建築ツアーを開催し、二日目、北九州市立中央図書館・北九州市立文学館を訪ねました。
【スケジュール】
■ 3月1日(土)
13:20 北九州空港到着口集合、移動
14:00~17:00 北九州市立美術館
17:20 ホテルチェックイン
18:30~ 夕食
■ 3月2日(日)
9:00 ホテルチェックアウト、タクシー移動
9:30~11:30 北九州市立中央図書館、北九州市立文学館
11:40~13:00 ランチ、タクシーで移動
13:10~14:40 西日本総合展示場 本館、北九州国際会議場
14:45~ 移動、北九州空港にて解散

2館は繋がるように建っています。北九州市立美術館と同年に竣工した建築だそうですが、全く異なるコンセプトに感じます。
外観は、緑色と白色のバイカラーで、屋根の緑色は薬品処理で緑青を生じた0.3mmの銅板だそうです。

磯崎新 "LIBRARY"
1983年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:55.0x55.0cm
シートサイズ:90.0x63.0cm
Ed.75 サインあり
*現代版画センターエディション
私は〈還元〉シリーズでしか見たことがなかったので、今回初めて様子がわかりました。

図書館の建設当時はまだ予算がなかった時代で、躯体費用が掛かり、仕上げまでお金を使えなかったそうですが、建物自体に圧倒的なインパクトがあるので、お金がかかっていないようには感じません。
立面だとわかりませんが、上空から見ると、実はチューブ2本がそれぞれに伸びて湾曲し、面白い形状をしています。チューブの先端が曲がっている方が図書館、渦を巻くように曲がっている方が文学館です。工場にあるパイプを曲げて作ったような、まるで鉄の彫刻のような建物です。

建物の一部(カフェ)に、マリリン・モンローのボディラインを参考にしたモンローカーブを使用しています。


ヴォールト状の屋根は、西洋建築を見ているようで美しいこと。複雑そうにみえますが、たった3種類の型枠でつくられたプレキャストコンクリートを組み合わせて作られた屋根だそうで、合理的につくられたようです。


映画「図書館戦争」で予習していましたが、ロケ地に選ばれるだけあって、存在感のある図書館建築。図書館というものは、どこも居心地がよく特殊な空間だと思いますが、こんなにも豊かな図書館は日本には他にないのではないでしょうか。
続いては、チューブが渦巻き状になっている文学館。
文学館の外観。蔦が生い茂っていますが、これも計画通りだそう。
文学館のステンドグラスの裏側は雪の結晶のよう。
このステンドグラスは思想家・三浦梅園の著書に描かれた図から、磯崎さんがデザインしたそうです。ステンドグラスを眺めるこのひと時のために、来る価値があるように思います。

文学館の内部も図書館に連動しており、プレキャストを使ったアーチ状の天井。

美味しいランチを食した後に、埠頭の方へ車で移動し、西日本総合展示場 本館へ。
〈還元〉シリーズで見ていた"CONVENTION CENTER"(西日本総合展示場 本館)。
正直なところ、この版画を見るたびにムカデのようだと思うのですが、西岡弘さんにこの建物の構造を教えていただき、心底驚きました。柱がない大空間をつくるというコンセプト。丹下先生の代々木第一体育館を意識したそう。屋根を引っ張り上げて、まるで橋のようなつくりです。形としてはシンプルですが、前述の美術館や図書館とは全く異なる建築への挑戦を感じました。

磯崎さんは以下のように記しています。
「この天井を、海にダイブして水面上をふりかえったとき、そこに外光に反射するゆらめいている薄い膜面がみえる。そんな状態の現出を想った。そのためには長大スパンの建物に特有のごつい、重い梁が消去されねばならない。梁を外側から吊り下げること。梁成は支点の位置を考慮すれば、最小限におさえることができよう。それにうねるような被膜としての天井面をからませる。」


構造設計は川口衞さんで、国立代々木競技場の構造設計に坪井善勝さんの下で携わっておられる方です。
屋根の上に立つ巨大なポストは、載っかっているだけで(正確にはポストの先端の鉄板が屋根の側面に刺さっているだけで、固定されていない)屋根を引っ張り上げるワイヤーの張力と、地面に固定されているワイヤーの張力が等しいため、直立しているのだそうです。屋根をワイヤーで吊っているので、室内には屋根を支える柱はなく、約50×170mの巨大空間が生まれています。
中はイベント開催中だったため、ちょっとしか見ることはできませんでしたが、西岡さんの説明を聞くだけで面白くて、大興奮でした。

磯崎さんは、建物によって依頼する構造家を変えていたようで、北九州市立美術館と図書館は木村俊彦さんに、西日本総合展示場本館と北九州国際会議場は川口衞さんに構造を依頼しています。
最後に見学する建築は、向かい側にある北九州国際会議場。残念ながら中に入ることができず、外観のみ拝見。

こちらは西日本総合展示場の12年後の増築として、1990年に竣工したものだそうです。

こちらもすぐそばにある海の波や水がデザインの主題となっており、屋根は波のようになっていますが、これがまた大変だっそうです。
磯崎建築の変化の周期は10年と伺ったことがあり、12年前の建築とはまた異なる建築思想で考えられたことは一目瞭然。色を使い、市立美術館の双眼鏡ではなく望遠鏡のような形状で北九州国際会議場の方を望んでいるようでもあらいました。
大分だけでなく、北九州も磯崎建築の宝庫であることを知り、5建築も磯崎新さんに依頼した北九州に敬意を表します。
是非皆様も北九州へ磯崎新 建築巡礼をお勧めします。
帰りは北九州空港に行くも、霧の影響で欠航となり、小倉駅に戻って、新幹線で東京まで帰りました。
(おだち れいこ)
●本日のお勧め作品は磯崎新です。

磯崎新「闇1」
1999年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
イメージサイズ:58.3×77.0cm
シートサイズ:70.0×90.0cm
Ed.35 サインあり
*ときの忘れものエディション
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。
*画廊亭主敬白
昨日に続いて3月に開催した北九州・磯崎建築ツアーのレポートです。
文中で尾立麗子が触れている映画「図書館戦争」(佐藤信介監督)、ブログで確認したら2013年、ずいぶん前なんだなあ、つい昨日のような気がしていました。
福岡相互銀行、大分医師会館など既に壊されてしまった磯崎建築も少なくありません。名建築が失われないうちに若いスタッフには実物見学をして欲しい。引き続き磯崎建築ツアーを計画しますので、皆さんもどうぞご参加ください。
●5月11日のブログで「中村哲医師とペシャワール会支援5月頒布会」を開催しています。
今月の支援頒布作品は島州一、ブーランジェ、仙波均平です。皆様のご参加とご支援をお願いします。
申し込み締め切りは5月20日19時です。
◆次回展覧会のお知らせ
「2025コレクション展3/駒井哲郎、菅井汲、池田満寿夫」2025年5月21日(水)~5月24日(土)11:00-19:00
※前回展DMで予告していた日程から会期が変更となりました
●松本莞さんが『父、松本竣介』(みすず書房刊)を刊行されました。ときの忘れものでは莞さんのサインカード付本書を頒布するとともに、年間を通して竣介関連の展示、ギャラリートークを開催してゆく予定です。
『父、松本竣介』の詳細は1月18日ブログをお読みください。
ときの忘れものが今まで開催してきた「松本竣介展」のカタログ5冊も併せてご購読ください。
画家の堀江栞さんが、かたばみ書房の連載エッセイ「不手際のエスキース」第3回で「下塗りの夢」と題して卓抜な竣介論を執筆されています。
著者・松本莞『父、松本竣介』
発行:みすず書房
判型:A5変判(200×148mm)・上製
頁数:368頁+カラー口絵16頁
定価:4,400円(税込)+梱包送料650円
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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