こんにちわ。
スタッフMの展覧会レポートです。
斉藤陽子(さいとうたかこ)先生の展覧会が故郷の鯖江市で開かれているということで出張してきました。
斉藤先生は1929年1月14日 福井県鯖江市 生まれ。(草間彌生先生と同い年です)日本女子大学で児童心理学を学び、福井師範学校附属中学で教員として勤務。久保貞次郎先生、瑛九らが主導した「創造美育運動」の福井支部の立ち上げに関わり、瑛九の作品に強い影響を受けました。浦和にあった瑛九のアトリエにも2回訪れているそうです。
1963年にNYへ渡米。靉嘔先生の紹介からジョージ・マチューナス率いるフルクサスで活動しました。
1979年からはドイツ・デュッセルドルフに定住してアトリエを構え制作を続けていました。
瑛九を看板とし今年は塩見允枝子先生の展覧会を開催させていただいたときの忘れものとしては、この展示を見逃すわけにはいかない!ということで鯖江行きを決めたのですが、旅支度をしているところに訃報が届きました。
斉藤先生、デュッセルドルフにて2025年9月30日ご逝去との報。96歳でした。展覧会のオープニングではドイツからテレビ電話を繋いで元気な様子だったと伺っていたので、私もいつかお会いできると思っていた矢先のことでした。
ご冥福をお祈り申し上げます。


<チラシ>表・裏

鯖江市まなべの館にて「斉藤陽子×あそぶミュージアム」展。
市制70周年記念・まなべの館リニューアル15周年の展覧会。
【会期】2025年8月9日(土)〜10月12日(日) *会期は終了しました。
【会場】鯖江市まなべの館(鯖江市長泉寺町1-9-20)  1階展示ホール1・2  3階展示室2・3
【展示作品】斉藤さんの代表作品など約300点。オノ・ヨーコさんらによるフルクサス関連作品。
【主催】鯖江市、鯖江市教育委員会
【協力】深瀬記念視覚芸術保存基金
【後援】福井新聞社、FBC、福井テレビ、こしの都ネットワーク株式会社、月刊URALA


鯖江駅から徒歩25分ほどで「鯖江市まなべの館」に到着。
「まなべ」とは、鯖江藩主の「間部(まなべ)」氏と歴史や文化を「学ぶ」拠点という意味から名付けられたそう。


会場の入り口。


中に入ると、弔問記帳台が設置されていました。

会場の構成は、
1 takako×チェス・Book
2 フルクサス
3 takako×ゲーム
4 takako×パフォーマンス
の4つのエリアに分かれています。


エリア1は、瑛九からの影響を強く感じる斉藤先生のタブローから始まります。
手前は1957年〜1960年に描かれた斉藤陽子《無題》。瑛九の晩年の点描に似ていますね。


斉藤先生の代表的なチェスシリーズと初期のドローイングが並ぶ。
右側の壁掛けの作品5点は別の作家の作品です。


こちらは瑛九の《真昼》1958年。


斉藤陽子先生のドローイング。1958年〜1963年。


1958年の斉藤陽子ドローイング。泉茂にも似た雰囲気を感じます。

   
手前の赤い箱2つは、斉藤陽子《針山チェス》1984年。中央のビー玉が並んでいるのは《スロープ・チェス》1977年。左奥の木が生えている山のような物体は《マウンテンチェス》1977年。造形が美しい!


左から《惑星チェスNo.3》1989年。《惑星チェスNo.2》1989年。《惑星のチェスゲームNo.2》1989年。
回路基板に使うトランジスタなどの部品が未来のチェスを表しているように見えます。

 
手前の左が《フルックス・チェス(通称グラインダー・チェス》1964年。右が《グラインダーチェス》1964/1991年。奥が《ミステリーボックスNo.56》。

20種類以上のチェスシリーズが並ぶ中で、私が特に好きだったものは、この手前の《シーソーチェスNo.1》1984年。
バタバタと動くシーソーに翻弄されながらチェスをする様子を想像すると面白いですね。一度やってみたい!


《シーソーチェスNo.1》1984年。
斉藤先生はもともと鯖江市の名家に生まれ、家に通ってきた職人さんや大工さんの仕事に興味を持ったり手伝ったりしていたそう。斉藤先生の作品について塩見先生は「ものすごくつくりが綺麗で素晴しい出来映えで、プロの仕事、あれは天性のものだ」と仰っています。(日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイブ「斉藤陽子 オーラル・ヒストリー 第3回」2014年1月16日より引用)


このチェスもやってみたい!タイトルを忘れてしまいましたが、タワーのように一段ずつ駒が積み上げられたチェス。真上に鏡のような反射板が付いていて、真下から見上げるとようやくチェス盤の全体が見えるというもの。プレイヤーがタワーの周りを動きながらゲームしている様子を想像するとおかしいですね。

 
《ハットチェス》1990年。これももちろんやってみたい。第三者が被ることになるのでその人の身動きできっと戦局も変わるはず。 

 
これはぜったい欲しい。なんて詩的でしょう。《太陽とチェスをして!》1993年。


ドイツに定住してから制作された《ドロップブック アップル&ペパーミントティー》1983年、《紅茶の本》1996年など。紙にできたシミを作品にしています。

 
左から《ペパーミントのひとりごと》1984年、《じゃがいものひとりごと》1984年。紙の束をクラゲの触角のように結ってそれをミントやじゃがいもの汁につけたのでしょうか。展示ケースの中でゆらゆらと揺れている姿が可愛らしい作品。

    
中央の白い箱が詰まった本は、斉藤陽子《MUSIC BOOK》1980年。
内側には「DROP THEM ON A TABLE OR FLOOR. AND LISTEN」(これらをテーブルか床に落として。そしてその音を聞いて)と書かれています。1976年に斉藤先生が創始した自ら制作し販売するマルチプルエディション「NOODLE EDITION」(ヌードル・エディション)発行の作品。


エリア2にはフルクサスの他の作家の作品が並んでいます。
塩見允枝子先生、靉嘔先生、オノ・ヨーコ、ベンジャミン・ヴォーティエ、ジョージ・ブレクト、ディック・ヒギンズ、シャーロット・モーマンなどの作品。


塩見允枝子先生の作品。ときの忘れもの「スペシャルエディション《数の回路》」も展示されています。


靉嘔先生のフィンガーボックスも展示。


エリア3では、1976年のパフォーマンス《ア・ゲーム》の再現。当時、ナイロン糸で吊るしたペーパーキューブをタバコの火やハサミで切ることでキューブを落下させて音を鳴らす作品。その後で一人の観客が糸に花を吊し始めると他の観客も次々に花を吊し始めたといいます。


瑛九のフォト・デッサンに感化されたのでしょうか。斉藤先生もフォトグラムを作っていました。


斉藤陽子(フォトグラム)1985年

 
エリア4の入り口には、1960年代から斉藤先生が開催した出店のような店構えの《ユー・アンド・ミー・ショップ》が展示。観客との共同制作を具現化したプロジェクト。


右上には《SILENT MUSIC》(Blow them in the air and chase them)(これらを空中に放って追いかけよう)は箱の中に綿毛のついた種子が入っていて、これを観客が開け放った時に完成する作品。
左の3つのグラスは《Body Music》(Drink a glass of grappa and listen to its going down)2000年(グラッパを1杯飲んでその音を聞いてみよう)。


トイレットペーパーの芯をたくさんぶら下げたドレスなどの「サウンド・ドレス」が吊られている。
紙やプラスチックケースがぶら下がっていたり、異素材が縫い合わされている。


斉藤先生の作品は、温かみのある色と触ってみたくなるような丸みのある造形の中にクスッと笑えるような遊びが織り交ざっていて、気持ちが軽やかになる力を持っていると感じました。
上掲は、ポスター「Seewerk ゼーヴェルク 2012 斉藤陽子 フルクサスはさらに流れる・・・」展の野外パフォーマンスの様子。きっと今も斉藤先生はこんなドレスを着て空を飛び回っているでしょう。


余談ですが、2022年に開催した「塩見允枝子+フルクサス」展の出品作品について、私が斉藤先生へ手紙を出したところ、なんとドイツからドローイング付きの自筆のお手紙が届いたことがありました。紙も人の顔のような形にカットされています。これを持っていつか斉藤先生に会いに行こうと思っていましたが、もう叶うことはありません。これは私の大事な宝物です。

フルクサスに参加した作家として、最近では東京都現代美術館でのViva Video! 久保田成子展が開催され話題になりましたが、斉藤陽子先生の活動は国内ではまだ認知度が低いと思います。ぜひ皆さんにも知ってもらいたい作家です。下記のブログもぜひお読みください。

2011年11月08日ブログ
「鯖江で「瑛九との軌跡 木水育男(奥右衞門)を巡る人々」展」

2020年08月09日ブログ
荒井由泰のエッセイ「前衛美術家・斉藤陽子・TAKAKOとフルクサス」

スタッフM

 

●本日のお勧め作品はボブ・ウィロビーと細江英公です。

左)ボブ・ウィロビー ”Seberg, Jean, 1956Jean Seberg in NYC’s Central Park after she won the title role in Otto Preminger’s film “Saint Joan,” 1956 
右)細江英公《薔薇刑 #32》

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。

◆「銀塩写真の魅力Ⅸ
会期:2025年10月8日~10月18日 ※日・月・祝日休廊
主催:ときの忘れもの
出品作家:
福田勝治(1899-1991)、ウィン・バロック(1902-1975)、ロベール・ドアノー(1912-1994)、植田正治(1913-2000)、ボブ・ウィロビー(1927-2009)、奈良原一高(1931-2020)、細江英公(1933-2024)、平嶋彰彦(b. 1946)、百瀬恒彦(b. 1947)、大竹昭子(b. 1950
*出品作品の展示風景及び概要はHPまたは10月4日ブログをご覧ください。

 

ときの忘れものは今年もアート台北Art Taipei 2025佐藤研吾さんと参加出展します。
会期:2025年10月23日~10月27日(10月23日はプレビュー)
会場:Taipei World Trade Center Exhibition Hall 1
ときの忘れものブース番号:B29
公式サイト: https://art-taipei.com/
出品作家:靉嘔安藤忠雄佐藤研吾仁添まりな釣光穂

出展内容の概要は10月13日ブログをご参照ください。
会場では、作家の佐藤研吾
さんと、松下、陣野、津田がお待ちしております。
招待状が若干ありますので、ご希望の方はメールにてお申込みください。

●ときの忘れものの建築空間(阿部勤 設計)についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。 photo (1)

外観