画廊では5日から「西田考作さんを偲んで、西田画廊旧蔵ポスター展」を開催しています。
会期:2025年11月5日(水)~15日(土) *日曜・月曜・祝日は休廊

1950年奈良に生まれた西田考作さん。1982年に西田画廊開設。
上掲の新聞は、西田さんがスクラップブックに収めていた新聞記事。1985年ころ発行の奈良新聞と思われます。

西田さんが持っていたスクラップブックに収めてあった写真。
1982年 西田画廊「関根伸夫展」のときの記念写真と思われる。

前列左から西田考作さん、綿貫不二夫、綿貫令子、関根伸夫先生。

2012年4月27日 「アート京都」レセプションにて
左から、令子社長、西田考作さん、亭主、高橋信也さん(NADIFF、現在は京都市京セラ美術館に在籍)
今から40数年前、1982年1月24日に古都奈良に先鋭的な現代美術の画廊がオープンしました。
「堀内正和・磯崎新展」でスタートしたその画廊の名は西田画廊。
西田画廊といってもほとんどの方がご存じないと思いますので、今日から数回にわけて西田画廊と西田考作さんについてご紹介いたします。
先ずは西田さんが1982年に画廊を開くおりに私どもの質問に答えたインタビュー録をお読みください。
西田考作 開廊直前インタビュー(1982年 再録)
聞きて――星野治掛
☆――まず初めに、この新しい画廊を開設されたいきさつ、動機について。
西田 動機というのは、もともと僕はコレクターですから、そのコレクターの眼から見て、この奈良市というか奈良県にまず画廊、絵を発表する場所が非常に限られたところしかない、もちろん古美術とか仏教美術は世界的にみて素晴しいのが沢山あるけども、それに対して新しいものに接する機会が殆どないということがあったんです。まあ、自分が新しいものが好きだったということもあって、それで、そんな場所をこさえてみたいと――。それがまあ、きっかけとなって、奈良の美術界というと少し大げさですけど、奈良に住んでおられる作家や多くの人たちに少しでもそれに触れてもらえればいいなあ、そういうことで画廊をやってみようと思ったわけです。
☆――計画はいつ頃からですか。
西田 えゝ、具体化したのは一昨年の暮れか、去年の初め頃ですね。それで準備を少しづつ始めて、まあ去年一杯に形をつくり上げようと思ったんですけど、家内が病気にかかったりしまして、それで本格的にかかり出したのは去年の夏過ぎからなんです。
☆――新しいものを見せる場所という点で、奈良では初めてのものになるわけですね。
西田 初めてだと思いますね。絵画ブームの頃にいくつかありましたけど、今はまったくないですね。もちろん他に一、二軒、画廊はありますけどね。こういう形のものはないはずです。
☆――その形についてですが、外観は白で統一されていてとてもシンプルだし、内部もメインの展示ルームが17坪という広さで、いろんなことが出来そうですね。
西田 えゝ、初めはもっと小さなものを考えていたんですけど、どうせつくるんならと。それで中に関しては、絵画が中心になるでしょうけど、立体や焼き物なんかも扱っていく予定でいます。それに、例えばシンポジウムみたいなものや映像、特に最近はヴィデオ・アートも力を持っていますから、そういうものも。それから音楽というか、聴覚に訴えるものと視覚の世界の融合と言えば大げさになりますが、そんなことも考えてみたいと思っています。だから建物の形を考えるときも、そういうことが少し頭にあったものですから、できるだけ長方形で、広いスペースがとれるようにしたわけです。
まあ、いろんなことやってみたいんですが、いずれにしろ多くの方に足を運んで頂いて、実際に触れてもらう、あるいは、一時の語らいに時間をさいて頂くということが第一です。だから、サロン風に考えてもらった方が足を運んで頂き易くなるかもしれませんね。
☆――そういう意味では、ちょっとオーバーですが、啓蒙というか、特に現代美術の場合にはそういう面が出てくるでしょうね。
西田 えゝ、もちろん私の力で出来るかどうかは疑問ですけど、絵を見る機会というのを皆さんに増やして頂いて、少しでも絵の世界に溶けこむというか、そういう機会を作れたらいいですね。逆に言えば、コレクターを育てるというんじゃないですけど、家に一点でも版画なりタブローがあり、それを日々眺めて、例えば自分の感情が落ちこんでるときに絵に励ましてもらうとか、そういうように日によって絵を見る眼が違うんだと思うんですよ。だからそういう機会を日常の生活の中に入れて頂くというのが希望なんです。それは自分が、日常絵を見る態度のなかにそういう部分があるからなんです。
例えばミロとかタピエスとかを置いても、私はこういうのは全然わかりませんと、で、見ようともしない方が多いと思うんですけど、それを、わかるわからないじゃなくて、たとえ5分でも10分でも退屈しながらでも見るというか、まあ退屈というのは大げさですけどね、それくらいの気持ちで見て頂くのがまず第一の希望なんですね。
過去の日本人というのは、もっとも抽象を理解出来た民族だと思うんです。絵巻物以来、大和絵、浮世絵と連綿と続いた日本独特の視点、デフォルメの大胆さ、西洋ではリアリズムが全盛の時代にです。あるいは書の世界もそうです。文字自身持っている意味に加えて、作者が自らの精神を反映させ、どんどん字体をくずし、あるいは空間を生かすべく文字を置く。タピエスの「グラフィズムと二つの十字」なんか、その世界に近いんじゃないかと思うんですね。
☆――それで開記記念企画の「堀内正和・磯崎新展」というのは、その点では西田さんの気持ちと大変よくマッチしてる気がします。この現代彫刻、現代建築の第一人者であるお二人を選ばれた背景というのは。
西田 まず東京の現代版画センターが1977年ですか、「現代と声」という企画をされましたが、あゝいったイヴェントを再現してみたいと、奈良だったら再現じゃないですね、初めてですから、それがまずあって、それから画廊と美術館の差というのがどんなものかということなんかもいろいろ考えてみて、結局同じもんじゃないかと思ったんですね。つまり、フランスのラスコーという所の洞窟で、人類が残した最初の絵画、壁画が発見されましたね。写真で見ると、その描写力もすぐれたものですが、その壁画を残した人類が、最初に動物と決別した人類となったとジョルジュ・バタイユが語っています。その洞窟は多分人類が雨風をしのぎ、外敵から身を守った生活の場だったと同時に、芸術と生活との関係の原初だったのではないかと思うんですね。画廊と美術館との違いをいろいろ考えてみると、結局そんなに大差のないもので、それらはラスコー人達にとっての洞窟なのではないかと思うわけです。生活の臭いには欠けるけれども、美術館の学芸員や画廊のオーナーの思想というのはそこに反映するんですね。
そういう時に磯崎さんの作られた「空洞としての美術館」、あれを是非奈良で展示してみたいというのがあった。今回はそれに新作版画も並ぶんですけど、はじめは旧作とそのメインの「空洞としての美術館」を並べようと思っていたんで、新作は思ってもいなかった。それから、立体の堀内正和さんですが、立体というのもまず早くから頭にあったんですね。是非欲しいと。堀内さんの作品は写真でしか見たことがなくて、輪の中に人さし指がある「人差指」という作品、丁度レンズがはまったような作品で、あれが非常に面白いというか、虚をつかれたというような、自分が不断気がつかなかったものを、フッと見せられたような気がして、それで非常に面白い作品だなと思ってたわけです。だから堀内さんだったら、ということで、それに現代版画センターの綿貫さんのすすめもあって、それでお二人ともに快くお引き受けしていただいたということなんです。
☆――堀内さんも磯崎さんも、まとまった形での作品の展示紹介というのは奈良では初めてですか。
西田 まったくなかったんじゃないでしょうか。
☆――少し建物についてお聞きしますが、面積は。
西田 全体で46坪ぐらいですね。メインのギャラリースペースが17坪。それからオフィス兼サブ展示スペースが約6坪です。
☆――2階に居住スペースがとってありますね。
西田 えゝ、初めは収納部分だけを考えてたんですけど、結局こういう形になったんです。無駄になるスペースが多いということで、じゃあ居住できるようにしようかということで。
☆――じゃあ、作家の方とかお客さんがみえた場合は泊まることもできるんですか。
西田 えゝ、本当にささやかなユニットバスもありますし(笑)。
☆――最後に、これから先の企画などありましたらそれも含めて、抱負を少し。
西田 本当はもう既に第2回、第3回の企画が決定してなくてはいけないんですけども、とに角、建物を建てるのと、今回の大胆な企画を同時に進行させなくてはいけないという状態で、あたふたしちゃってるんですね。
で、いま考えているのは、将来的には毎月一度くらいの企画展をやってゆきたいと、でもしばらくは年に3回か4回できるだけいいものをということですね。いいものというのは世間的にどうかはわかりませんけども、私の頭の中でいいものをやっていきたいということです。普通、企画展というのは一週間か10日ぐらいしかとらないんですけど、出来るなら一ヶ月ぐらいでもいいんじゃないかと思ってるんですよ。それで出来るだけ多くの方に来て頂いて、何かを感じてもらえたら、これをやったひとつの目的が達成されたと思うんです。
奈良という土地は、昔、志賀直哉が高畑町というところに住んでいて、そこに文化人が沢山集まって、高畑サロンというのが出来たりしたんですね。昭和の初期まではそういう意味では非常によかったわけで、もっとも私の生まれる前の事ですけど、戦後は奈良は殆ど忘れ去られた町になってしまって(笑)、まあ、そこまではいかなくても、そういうのを目指して集まってもらって、そこでひとときを過すというか、そういう形になれば最高だと思うんですけどね。
☆――なんでしたっけ、奈良人を指していう言葉は。
西田 あゝ、いらちですか。いらちというのは、短気というんでもないんですが、せっかちというか、じっとしてられないところがあるんですね、奈良の人には。町全体をみてるとのんびりしてるようですが、何か思いついたらすぐやってしまうとか、そういう部分があるんですね。
☆――西田さんはどうですか。
西田 どうなんでしょう。自分ではわからないですけども。
☆――人が見たら。
西田 いらちかもしれませんね(笑)。
『西田画廊開廊記念企画 堀内正和・磯崎新展 オリジナル入りカタログ』より再録
(限定1000部、1982年、発行:西田画廊・西田考作)
◆西田考作さんを偲んで、西田画廊旧蔵ポスター展
会期:2025年11月5日(水)~15日(土) *日曜・月曜・祝日は休廊
会場:ときの忘れもの
出品作品:荒木経惟、磯崎新、大竹伸朗、加納光於、桑原甲子雄、田名網敬一、福田繁雄、森村泰昌、アンディ・ウォーホル、トニ―・クラッグ、パウル・クレー、アドルフ・ゴットリーブ、
フランク・ステラ、セバスチャン、サム・フランシス、ヨーゼフ・ボイス、
ジャクソン・ポロック、ロバート・ラウシェンバーグ、マーク・ロスコ、ジョアン・ミロ、他
*出品作品の詳細及び特別頒布価格はホームページに公開しています。
*生前の西田考作さんの開廊直前インタビュー録(1982年)を11月6日ブログに掲載しました。
*坂上しのぶさんの論考「バイヤーズと西田考作」を11月12日と、13日の二回にわけて掲載します。
●ときの忘れものの建築空間(阿部勤 設計)についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS ときの忘れもの
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。




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