大竹昭子のエッセイ「迷走写真館~一枚の写真に目を凝らす」第135回

おとなと子どもが一緒になって床に正座し、一心になにかを見つめている。
彼らの視線を集めているものはなんだろう?
電子レンジに形が似ているが、そんなはずはない。テレビである。
集っているのは10人、
と思いきや木戸のような扉の後ろから顔を出している人がいる。11人だ。
場の中心になっているのは、子どもを膝にのせた右端の男性で、白い歯を見せて朗らかに笑っている。
その左後ろには同じように大きな笑顔の女性がおり、
身の乗り出すような彼女の姿勢からすると2人は夫婦だろう。
そして女性の左隣りにいるふたりの少女は彼らの娘だ。
男性の後ろには慎ましく座っている大人の女性がもうひとりいる。
「妻」のほうと顔が似ているから、妹かもしれない。
画面のいちばん左端には男性が2名いる。
若いほうは「夫」の弟ではないかと想像する。
ならば、その横の年長の男性はどうだろう。
「夫」のお父さんにしては若すぎるように思うが……。
「夫」の左隣にいる子どもたちも気になる存在である。
ふたりともコートを着て、手袋をつけ、女の子は首にスカーフも巻いている。
ギリギリになって外から駆け込んできて、そのままの格好で座り込んだような様子だ。
近所に住んでいる子どもかもしれない。
とすれば、木戸のむこうから顔を出しているのはふたりのお母さんではないか。
ふたりの表情は対照的で、男の子のほうは目を大きく見開き、口も開けて放心状態である。
反対に女の子のほうは、寝ているところを起されて無理矢理連れて来られたような雰囲気だ。
カメラマンははじめに「こっちを見ないでテレビを見てください」と注文をつけたはずである。
進んで実践したのは赤ん坊を膝に乗せたお父さんで、はつらつとした笑顔をテレビに向けてみんなに例を示した。
ところが膝の赤ん坊はそちらではなくカメラマンを見ていたし、
後列のおかっぱ頭の少女などはカメラにむかってにっこり笑いもした。
生きた人が目の前でパチパチと続けざまにシャッターを切る。
ふたりにはその様子のほうが珍しく、おもしろく、テレビどころではなかったのだ。
ここにひとり、テレビにもカメラにも目をくれなかった人がいる。
放心状態の男の子の横の寝起きの少女である。
彼女は眠すぎてそれどころではなかった。
まぶたを開けようにもすぐに下りてきてしまい、
なにが起きたのか分からないまま撮影は終了した。
後年、この写真を見た彼女がなにを思うのか興味深い。
大竹昭子(おおたけ あきこ)
●作品情報
北海道・根釧パイロットファームの農家にテレビがやってきた。皆で大相撲春場所を観戦中
1960年3月撮影
(本写真は、朝日新聞社の浅野昭太郎写真記者が撮影。「朝日新聞北海道本社版」3月12日付朝刊に掲載)
*写真集『昭和界隈 写真でタイムトラベル』94-95頁所収
●写真の著作権
©朝日新聞社
本写真集は、朝日新聞で連載中の「朝日新聞写真館」をもとに再構成。朝日新聞や「週刊朝日」「アサヒグラフ」などの雑誌に掲載された報道写真のアーカイブより、とくに昭和の人々の暮らしや社会風俗、時代の熱量に満ちた写真をセレクトしています。
●書籍情報
『昭和界隈 写真でタイムトラベル』
B5変型 コデックス装 モノクロ224ページ

2025年11月30日 第1刷 発行
協 力 朝日新聞フォトアーカイブ
発行者 宇都宮健太朗
発行所 朝日新聞出版
装丁・レイアウト 矢萩多聞
印刷製本 株式会社加藤文明社
編集担当 山田智子(朝日新聞出版書籍編集部)
定 価 本体 ¥2,000+税
https://publications.asahi.com/product/25692.html
●大竹昭子のエッセイ「迷走写真館~一枚の写真に目を凝らす」は隔月・偶数月1日の更新です。次回は2026年4月1日を予定しています。どうぞお楽しみに。
●本連載の最初期の部分が単行本になった『迷走写真館へようこそ』(赤々舎)が発売中です。
赤々舎 2023年
H188mm×128mm 168P
価格:1,980円(税込) 梱包送料:250円
※ときの忘れものウェブサイトで販売しています。
●スタッフKMから(恩地孝四郎展を終えて)
2026年2月6日(金)~2月21日(土)11:00-19:00 ※日・月・祝日休廊
洋画家・松本竣介と彫刻家・舟越保武の二人展を開催します。 1912年生まれの二人は、岩手県立盛岡中学(現在の県立盛岡第一高等学校)の同級生で、ともに絵画俱楽部に所属し、終生の友情を結びました。
その後二人はそれぞれの道を歩みますが、1941年と45年に盛岡・川徳画廊にて松本竣介と舟越保武の二人展を開催。
現在、岩手県立美術館には二人の常設展示室が設置されています。
本展では松本竣介の素描と舟越保武の彫刻・版画作品をご紹介いたします。
●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

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