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荒井由泰のエッセイ「マイコレクション物語」
第3回 コレクション事始め In New York その2  2012年7月21日
今回は、私のアートライフやコレクションに大きな影響を与えたニューヨークでの体験を2点、述べることにする。
一つはニューヨークで現在も活躍中の版画家木村利三郎氏との出会いであり、彼のアトリエでの様々なアーティストとの出会いである。彼は私の父より年上だが、親愛の情を込めて、リサと呼んでいる。リサは1964年に日本を脱出して、ニューヨークにやって来て、現在も元気で「都市」をテーマに制作を続けている。リサは9.11で消滅したワールドトレードセンタービルの事件を予言するような作品を作っており、当時マスコミでも大きな話題になった。本年10月には日本の各地で個展を開催する予定であり、まだまだ元気だ。そのリサのアトリエ兼住居はソーホー地区にあるアーティストばかりが住むウエスト・ベスというビルディングにある。リサはニューヨークに来る前に、竹田鎮三郎とともに我がふるさと・福井県勝山市のNコレクター宅に1ヶ月ぐらい寄宿していたことがあり、そのご縁でウエスト・ベスを頻繁に訪問することになった。リサは料理がうまいし、また彼は面倒見がよいので、たくさんの友人・アーティストが集まる。そこでの様々なアーティスト達と出会いが、私にとっては大きな刺激となり、血となり肉になった。私がニューヨークにいる時代から、その後出張ででかけた時を含め、たくさんの出会いがあった。主な方々をあげてみると、彫刻家の新妻実、画家では古川吉重、佐藤正明、森本洋充、写真家の安斉重男、版画家の本田和久ら、であった。佐藤正明、本田和久・ひろみ夫妻とは世代が近いこともあり、今でも交流がある。
このようなアーティストとの出会いによってアートそしてアーティストに対する限りない敬意と愛情が揺るぎないものにになった。アーティストは私自身が持っていない自由な心を持っており、それに対するあこがれであったかもしれない。アーティストと会い、話をする喜びを知り、それが日本に戻ってからの「アートフル勝山の会」活動の原動力につながったように思う。アートフル勝山の活動についてはこれからのブログで触れることにする。たくさんの貴重な機会を与えてくれた木村利三郎氏には本当に感謝している。日本滞在中にぜひとも我が家に招待したいと思っている。
次なる事件は・・・私のコレクション心に火を付けた記憶に深く残る出来事を思い出す。その時のメモを見ながら振り返ってみたい。1976年12月2日、いきさつは忘れてしまったが、数人の仲間で、当時フィラデルフィア美術館にあったローゼンワルド(Rosenwald)コレクションを見学した。メンバーはペンシルベニア大学で版画を教えていた中里斉(2010年に事故でなくなられた)、木村利三郎、佐藤正明、それに2,3名のアメリカ人アーティスト、そして私であった。当時のメモを見るとローゼンワルドコレクションは版画や稀覯本など28000点からなり、ローゼンワルド氏がなくなると、ワシントンのナショナル・ミュージアムの所蔵となるとの話であった。そこで、学芸員の話を聞きながら、レンブラント、ゴヤ、メリヨンなどの名品を直接手で取って見ることができたし、さらにはメゾチントの歴史ともいうべき時代別の作品も紹介もいただいた。英国やイタリアのメゾチントに加え、エッシャー、アバティ、浜口陽三(2点)の作品も見ることができた。閲覧の前にはまず手洗いが義務づけられ、学芸員の人がたくさんある引き出しから作品を取り出し、まず説明をしてから、各人の手元に渡され、作品を鑑賞するスタイルであった。一点一点の作品はマット(2重)に収められており、作品に直接触れることはない。レンブラントやゴヤの名品を手にとって直に見るのは初めての経験であったが、レンブラントの線や刷りの美しさに触れ、すっかり魅了されてしまった。このとき版画の楽しみ方を直感的に知ってしまったような気がする。版画は本当に素晴らしい。
ローゼンワルドコレクションに触れる体験によって版画の魅力を再認識するとともに、版画の保管の仕方や鑑賞の仕方などを学ぶ絶好の機会ともなった。その時の体験から私のコレクションでは基本的には二枚の厚めのマットを貼り付けたものを使用している。表に当たるマットに版画のイメージサイズの窓を切り、版画は一方のマットにコーナーを付けて貼り付け、2枚を重ねれば完成である。イメージ部分には硫酸紙など薄い紙でイメージを保護しておく。これで版画に直接触れることがなくなり、版画を傷めない。また、マットサイズごとに替え額を作っておけば、手軽に額装もできる。やっぱり、版画鑑賞の醍醐味はルーペを片手に、マットに入った版画を手にとって、それもガラス越しでなく、じかに鑑賞することにあると思っている。これもまた、マニアックなマナーかもしれないが・・・
ニューヨークでの様々なアート体験とささやかなコレクションを持って、1977年に家業を継ぐべく、ふるさと・福井県勝山市に戻ることになる。高校生まで勝山で過ごしたから、10年余りぶりにふるさとでの生活がスタートした。ニューヨークから福井県勝山市への劇的な環境変化を体験することとなった。

版画家
木村利三郎氏

木村利三郎
CITY368

佐藤正明
ビッグアップル
銅版画

(あらい よしやす)

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