ときの忘れもの ギャラリー 版画
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写真を買おう!! ときの忘れものフォトビューイング
第4回フォトビューイング 口上(つづきのつづき) 原茂
2010年12月15日
 風間健介さんの『夕張』には、佐藤時啓、大西みつぐ、長野重一、梶原高男、東直己という錚々たる面々が解説を寄せて下さっています。写真集を手に取っていただくのが一番なのですが、風間さんの作品世界についてのよい手引きとなるかと思いますので、その一部を転載させていただきます。

「夕張のこと」 佐藤時啓
 (前略)「風間の撮影した夕張は、僅かに長時間露光をすることによって、一瞬を切り取るのではなく、雲が流れるように、また、星が流れるように写されている。そのことによって、瞬間ではなくため込まれた時間の流れが写し込まれる。風間は、炭坑の痕跡を、どちらかといえば後ろ向きに過去を見つめるような感覚とは違って、その存在の普遍を写し取ろうとしている。町を見る目には、ネガティヴな視線はみじんもなく、尊敬に満ちている。産業遺跡としての保存を訴える活動も、風間のそういった姿勢、写真の態度から来ているのだろう。」(後略)。(さとう・ときひろ、写真家)


「晒す光、注ぐまなざし」 大西みつぐ
 (前略)「風間の目に映る風景は、単に過ぎ去った時間やものへの郷愁ではなく、強烈な存在感を放ち、ある時代の精神、人々の生き方をそこに痕跡として留めているという事実そのものであった。そしてそれらを苔むしたものとして、あるいは覆い隠し忘れ去ることで真っ新な明日を迎えようとするのではなく、わざわざ「晒す」ことで大きな「糧」をそこに見つけていくという志向だ。風間の写真の多くが、夜間、長時間露光という方法で撮られているのも、この「晒す」ということからきているものと思える。」(中略)「ドキュメントフォトの系譜においていえば、風間の仕事は実に地道、いや地味である。一方の廃墟写真が人々の好奇心にそれこそ晒されつつ、安易なブームとして勝手に一人歩きしていくのとは裏腹に、モノクロームで丹念に写された写真群は人々のイメージに深く静かに潜行していく。決して表層の複写ではなく、表現として芸術性といったものを獲得していく要因がそこにある。注がれた確かなまなざしがあるからだ。」(後略)(おおにし・みつぐ、写真家)


「16年に及ぶ営為の集大成」 長野重一
 (前略)「20世紀の日本を襲った急激な近代化の荒波の中で、無慚に捨て去られた産業遺産を抱えた夕張だが、彼の写真からは、そうした過去の暗いイメージは微塵も感じられない。今この街にある明るい光と、透明な空気に包まれたあるがままの風景が、乾いた感性でとらえられている。そのことに、私は強く魅きつけられる。」(中略)「夕張の空をゆったりと流れる白い雲。遺構の上を走る星の動き。街を包む白い雪をとらえた画面からは、乾いた叙情性が感じられる。崩れ果てた工場の壁。その中でひっそりと眠りについている機械などの無機的な輝きからは、官能的な息づかいまでもが伝わってくるようである。そしてこの写真集の最後に近く置かれた、この街を真っ直ぐに走る白い一本の道をとらえた写真。その道の左右に生い茂る夏草の、強い生命力をとらえた表現に、風間さんの夕張に対する強い思いが集約されているように思われる。16年にわたってこの街を凝視し続けてきた、頑固で一徹な風間さん。その心の内に秘めた男のロマンが、この一点の写真表現の中に、鮮やかに凝縮されているようである。」 (ながの・しげいち、写真家)


「滅びの美に魅せられた男」 梶原高男
 (前略)「風間さんの『夕張』は一見すると炭坑遺産のドキュメンタリーと思えるが、よく見ればそれにとどまらず、彼の内面的な心情を写真化したもので、その意味ではアート的な表現と言うこともできよう。/ 彼は私宛の手紙の中で“過去、炭鉱関係の写真というと粒子の粗い写真が多かったと思います。それらは撮る側の想像力不足や扱う側の知識の低さもありましたが、炭鉱は暗いという先入観から来ていると思います。”と述べているが、風間さんの夕張の写真はどれも美しく、これまでの炭鉱をテーマとした写真とは一味違う表現をしている。/ またこの写真集をよく見ると夜景と雪景がとても多いのに気付く。夜の闇は深い黒のベールで乱雑なものをつつみ、雪は白銀の世界で風景を美化する。これに着目したのは滅びの美に魅せられた男の、炭鉱遺産に対するなみなみならぬ愛情の賜物と言えるだろう。」 (かじわら・たかお、写真家)


「人間の崇高さと惨めさ」 東直己
 (前略)「炭鉱遺跡は、生き物として人類の栄光と悲惨、尊厳と卑小さが交々存在するのであった。歴史の担い手としての、人類の崇高さと惨めさ、あるいは〈お上〉に依存して、税金にたかって暮らしている我々の、かけがえのなさと薄汚さが、静かに、山の中で、雪の中で、時の中に埋もれていっているのだ。// そして、詳しいことは知らないが、風間健介という男が、夕張で、ひたすら炭鉱遺跡の写真を撮っているんだそうだ。彼は、本州からふらりとやってきて、そして、なにかを肌で直接感じ、骨身にしみて理解し、黙々と、シャッターを押しているらしい。/ この男が、人間の崇高さと惨めさ、人間の歴史の卑小さと壮大さを、射精の快感と空虚さを、しみじみ感じているらしいことは、これらの写真を見ればわかる。/ で、ここに「友だち」がいるなと、おれは嬉しくなったのだ。/ 彼の写真を知ることができた、ということが、おれにはとてもありがたいことなのである。」 (あずま・なおみ、作家)



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