ときの忘れもの ギャラリー 版画
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写真を買おう!! ときの忘れものフォトビューイング
第7回フォトビューイング 報告と御礼 原茂
2011年9月19日
 「第7回 写真を買おう!! ときの忘れものフォトビューイング」は、9月2日(金)、写真家の中藤毅彦さんをゲストに開催されました。台風の接近する中、開催できるのだろうか、お客様には来ていただけるのだろうかと心配しながら、「ときの忘れもの」に足を運びました。
 6時30分からの開始ということで6時過ぎに伺ったのですが、すでにお二方がいらしてくださっていました。そのお一人は関西からわざわざ足を運んでくださったということで感激でした。
 挨拶を交わしているうちに中藤さんが到着。黒い大型のキャリーバックからは16×20インチ(小全紙)のストレッジボックスが登場。最初の写真集『Enter the mirror』(ギャラリーモール、1997年)、2冊目の『Winterlicht』(ワイズ出版、2001年)からの作品と、まだ写真集としてはまとまっていない東欧のシリーズから全部で50〜60点のプリントが納められた宝箱に「おおっ」と声が出ます。そしてさらに分厚いがっしりとした黒表紙のファイルが次から次へと姿を現します。8×10インチ(六切り)サイズのプリントが50〜60枚ずつ納められたプロ用(?)のクリアファイルが8冊もテーブルの上に並びます。「せっかくなのでブックも持ってきました」と中藤さんはこともなげでしたけれど、中には「DEEP HAVANA」、「東欧」、「BUCURESTY」とタイトルの付けられたファイルもあり、現在編集中の写真集というか、ダミーの一歩手前というかというか、普通なら決して目にすることできないはずのモノが目の前にドンと積まれて声も出ませんでした。
 そうこうしているうちに天気予報を物ともしない勇者たちが次々に登場。定刻をもってビューイングを始めることができました。
 最初に自己紹介代わりにお持ちいただいた中藤さんの写真集を紹介していただきました。今では絶版でプレミアがついている『Enter the mirror(鏡の向こうの風景)』はいくつかの都市の写真をバラバラにして組み合わせ、自分にとっての都市を描こうとしたもの、ひょっとするとまだ店頭在庫が数冊残っているかもしれない『Winterlicht(冬の光)』は、旧東欧圏のなんとも言えない寒々しさ、コークスの匂い、冷え冷えとした空気に惹かれて撮り始め、これも色々な町の断片を組み合わせて映画のような表現を試みたもの、そして現在新刊で手に入る唯一の写真集である『Night Crawler』(禪フォトギャラリー、2011年)は、東京の夜をデジタルで撮ったもの、との解説がありました。なお「Night Crawler」のシリーズはZen-Foto-Gallery に預けてあるので関心のある方はそちらに連絡を取ってくださいとのことでした。
 いずれもマットブラックの装丁が美しい、モノとしての写真集の魅力に溢れた一品で、参加者の目が釘付けになります。今回販売していただけるのは『Night Crawler』だけで、あとは古書を探すほかはないのですが、現在でも「高額古書」の絶版写真集は、ほどなく「超高額古書」になってしまうのは明らかなので、発見次第入手されるのがお勧めです。
 とはいえ、古書にどれほどプレミアがついても、写真家や最初にリスクをとってくださった版元に利益が還元されるわけではないので、写真家を支持し写真の世界を盛り上げていこうとするなら、社会的評価が定まる前(プレミアがつく前)に自分の目を信じて写真集を買いプリントを購入するという博打を打つのが本道でしょう。
 というわけでいよいよプリントの拝見となります。小全紙(16×20インチ)がレギュラーサイズの中藤さんの作品ですが、今回は特別に大四つサイズ(11×14インチ)のものを3万5千円でプリントしていただけることになりました。こうなるとこれは博打とはいっても「鉄板」(!)なわけで、一同ストレッジボックスから取り出される一枚一枚を食い入るように拝見しました。
 最初の一枚は東欧のシリーズから「ブカレスト駅」、『Winterlicht』、『Enter the mirror』、さらに雑誌や個展で拝見していた作品が次々に姿を現し、中藤さんはその一枚一枚に丁寧にコメントを加えて下さいました。撮影時のエピソードを始め、使用機材、現像やプリントの方法、フィルムや印画紙に至るまで、参加者からの質問にも丁寧に応えて下さり、これがビューイングの醍醐味だと思わされたことでした。
 一通りプリントを拝見し、一同「お腹一杯」といった態でふーっと息をついたところで、さらに中藤さんからお持ち頂いたブックの説明がありました。ファイルされているのが写真集の原稿そのものであること、これまで展示したことのないアウトテイクのものも含まれているとのことで、飲み物と軽食のアナウンスにも関わらず、ギャラリーは黙々とブックをめくる音だけが響く空間となりました。
 お目当てのプリントを白手袋で確認したり、順番を待ちながらブックに付箋を貼ったりと、熱気の溢れるビューイングとなりました。当初「見本」としてお持ち頂いたはずのプリント(数十年後〔十数年後?〕にはヴィンテージプリントとなるプリントです!)も、参加者からの熱心な求めに応えて販売していただけることになりました。私もその余沢に与らせていただくことができ、「ニューヨーク」から一枚をコレクションさせていただくことができました。これで私も胸を張って「中藤ファン」を名乗ることができます。えっへん。
 最後に、これからの予定について伺いました。9月には大阪で個展、10月にはデジタルでの大規模なグループ展が予定されているとのことです。特に、今はフィルムで撮った中国(大連)のシリーズをまとめているところで、久々に手応えのある作品になりそうだとのコメントに、異口同音に、展示はいつですか、どこでですかとの質問が飛びましたが、まだ何も決まっていないとのことでした。それならばぜひ「ときの忘れもの」でと心の中で思ったのは私だけではないはずです。
 悪天候の中、足を運んで下さり、また身銭を切って一票を投じて下さった皆様に心から感謝いたします。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
(はら しげる)



中藤毅彦 Takehiko NAKAFUJI
1970年東京生まれ。写真家。
早稲田大学第一文学部中退 東京ビジュアルアーツ写真学科卒業。
2000年より5年間東京ビジュアルアーツ非常勤講師。
モノクロームの都市スナップショットを中心に作品を発表し続けている。
国内の他、近年は東欧、ロシア、キューバなど旧社会主義諸国を中心に世界各地を取材。
作家活動とともに、四谷三丁目にてギャラリー・ニエプスを運営。



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