いまヤフー・オークションに出品していますルノワールの銅版作品「若い女性たち」について、下記のような質問をいただきました。
「こんにちは。こちらの商品、以前、とある画廊で見かけて欲しいなと思っておりましたが女性の顔の向きが反対だったと思うのですが(サインも反対側でした)これはどういった解釈をすればいいのでしょうか?当方、全くの素人でこのような質問は不躾で申し訳ありませんが教えてください。」
回答する前にオークションが一旦終了したため、オークションの画面ではお答えできなくなりました。掲示板では画像を載せられないので、こちらで回答させていただきます。

アンリ・ロイ・デルテイユが編纂・刊行したカタログ・レゾネ第17巻(1923年)にルノワールの項があり、それによると、この「若い女性たち」(レゾネNo.6)は、タイトルが「LE CHAPFAU EPINGLE(LA FILLE DE BERTHE MORISOT ET SA COUSINE)」として掲載されています。版の制作年は1894年ごろとなっていますが、出品作の『マネとフランス印象派の画家たち』(テオドール・デュレ著、J.B.LIPPINCOTT COMPANY刊、1910年)に挿入されたものと、1914年ドイツのブルーノ・カッシーラーから出版された同じ著者の「Die Impressionisten」 という本に挿入されているとしかありません。また、この版を著者のデュレが所有していると書かれていますので、1923年時点ではこれ以外には頒布されていなかった可能性があります。とすれば、出品作がファースト・エディションということになります。なお、この作品は、版画芸術29号(阿部出版、1980年)の44ページに掲載されています。(左)
この作品と同名の銅版作品が同じ1894年ごろに2点制作されています。そして、この2点とも出品作と左右逆の図柄になっています。
ひとつは(レゾネNo.7)、1922年のGaleries Brunnerでの展覧会に出品されましたとありますが、出版されたという記述はありません。また、版上サインもありません。(中央)
もう1点は(レゾネNo.8)、他の2点に比べて、より描き込みの多い絵になっています。この作品は、1894年に出版された『Vie artistique』(ギュスターヴ・ジュフロワ著)に黒とこげ茶と緑の三色で刷られた三枚が挿入されました。また、1921年にジョルジュ・リヴィエール著の『Renoir et ses Amis』にも挿入されました。この作品には、左下に版上サインがありますので、ご質問された方がご覧になったのは、この作品だと思われます。(右)
上記三点とも版が残っているという記述があり、このレゾネが出版された以降に後刷りされたことも充分考えられますが、出品作は、出所が明らかですので、どうぞ安心して入札なさってください。
よろしくお願いいたします。ルノワール(1)ルノワール(2)ルノワール(3)