植田実のエッセイ 本との関係15
8月末から9月半ばにかけて、この連載の4回分を一挙にまとめて書いたので、すっかり安心していたのが気がついてみればもう12月が終わり、年が改まってしまった。モトのモクアミだ。
1960年から66年まで私が編集スタッフとして在籍していた月刊『建築』の話は前回でお終いにしたので、次の月刊『都市住宅』に移らなければならない。しかもどういうわけか今頃になってこの雑誌についての記事がいくつか書かれ、こちらもそれに大なり小なり付き合ったので、いささか疲れてしまった。そうした記事に触れる機会のあった読者がいるとしたらその皆さんもちょっとうんざりだろうし。
で、とりあえず、これら『都市住宅』関連記事の案内をさせていただく。
まず、前にも紹介された『植田実の編集現場』(ラトルズ、2005)をあらためて挙げておく。
「出版・編集を通して建築文化の普及・啓蒙に貢献してきた実績」により2003年度日本建築学会賞文化賞を受けた記念展を2004年1月に学会博物館・ギャラリーで「『都市住宅』再読・植田実の編集現場」と題して行った。その記録に花田佳明の書き下ろし論文を加えた本である。
展示は、私の関わった『都市住宅』(鹿島出版会 1968-76)全号とその後に企画・編集した単行本シリーズ「住まい学大系」第1期100巻をスタンドで展示し、それらの主な本文ページの拡大コピーを壁一面に張ったもの、さらには現役学生が当時の『都市住宅』を読んで興味を持った住宅作品10点を1/50の模型にしたもの、等々で構成(塚本由晴らによる展示デザイン)されているが、この様子が写真、図面、学生から建築家へのインタヴュー(これがおもしろい)などで本に再現されている。また花田の論文は130ページに及ぶ本格的な論考で、なかでも『都市住宅』については40ページをついやして詳細に論じている。『都市住宅』を知るには格好の資料で、当の私にとっても逆に教えられるところが多かった。



著者:花田佳明、塚本由晴ほか
編集:中野照子+佐藤雅夫/植田実
発行年:2005年
発行者:『植田実の編集現場』出版プロジェクト
発行所:株式会社ラトルズ
サイズほか:21×15cm、200頁
次に『INAX REPORT』第170号(2007 春)がある。この冊子では最近「著書の解題」という特集をシリーズ化して、これまでに磯崎新の『空間へ』、長谷川堯の『神殿か獄舎か』、原広司の『建築に何が可能か』がとりあげられている。毎回、内藤廣による著者へのインタヴュー(冊子の記事としては異例といっていいくらいに長い。内藤さんがしつこく問いつめているのが読みごたえになっている)があり、これに関連する建築を併せて掲げ、何人かのエッセイも加えられている。ようするに1冊の本をとおしてその時代をクローズアップするという、これまでにない企画である。
この第4回目に『都市住宅』がとりあげられ、私が内藤さんと対談している。本でもなく、その著者でもないのだが、雑誌もそれなりに「時代を画した書籍」(対談タイトル)と見なされたのだろう。とはいえ私が編集長だった時期だけでも『都市住宅』本誌・別冊併せて約100冊だからそれなりのヴォリュームはあるし、内藤さんにうまく誘導されて思わぬことまでしゃべらされている。エッセイを寄せているのは読者の立場で渡辺真理さん、レギュラー寄稿者のひとりだった元倉眞琴さん、表紙のデザイナーとしての杉浦康平さんで、それぞれに新しい視点を出して下さっている。『INAX REPORT』の編集は完全主義で知られる森戸野木さんだから、註欄がすごい。そして彼女がこだわった『都市住宅』創刊1968年5月号から私の担当の最終1976年3月号までの全冊と、別冊『住宅第1集』から『住宅第12集』までの表紙をカラーで並べた見開き頁は、はじめて手にした貴重な資料でもある。
A4版23頁にわたる。



もう1冊、エクスナレッジから創刊された『デザイン・アディクト』は最近第2号が出たばかりで、建築を設計現場からリポートするかたちで見たり、海外の新しい傾向を紹介する頁づくりがとても気さくにできているのだが、その親しい印象は建築へのディープなのめり込みにつながっている。たとえば1960-80年代のイタリアの建築状況を『カサベラ』という雑誌を通して詳細に見ていく記事などは、同誌のファンだった私にはありがたい読みものだった。
この記事に続いて「Radical Movement in JAPAN」として『都市住宅』が紹介されている。ここでは私のしゃべったことを再構成しながら、編集部で全体をいくつかの項に分けながらまとめている。当然表紙についての紹介もあるが本文レイアウトへの言及はこれまでもっとも詳しい。私もこのメディアの特性を意識して当時の『都市住宅』レイアウト戦略の一端を話したのだが分かりやすくまとめられているうえにデザイナー・松田行正さんの的確なコメントが付けられ、現在の雑誌デザインの問題意識につなげられている。
A4変形版 10頁


さてこのように書いてきて、妙な気持に襲われた。『INAX REPORT』の見開き頁に『都市住宅』全号の表紙写真が整列した格好よさは、一方で、たったこれだけ?という気持にもつながるのである。数えてみればわずか100点、月刊誌としては大した量じゃない、というようなことではない。美しく整理されすぎたイメージに見える。裏表紙も背表紙もあり、いろいろな記事からなる本文頁があり広告頁もある雑誌の厚み――紙の厚みではない、雑誌をまとめる要素としての厚みがなくなっている。
その意味では『アドディクト』の記事も同じで、ここまで詳しく紹介されたのは初めての企画戦略やレイアウト処理の、『都市住宅』という建物のなかでのあり方が、どこか閑散としているみたいな。
これも解説という整理作業の結果なのだろう。
ところが『編集現場』においては、花田佳明さんの論も分析的であり、雑誌の構成要素を徹底的に整理しているのにかかわらず、雑誌の混沌とした空気がどこかに感じられる。ヴォリュームの違いもあるが、雑誌というのはある局面を図像で抽出することだけでは意外に伝えにくいんだなという気持に襲われた。それだけのことで、いったい何が言いたいのかというと、やはり図書館なり古書店なりで実物を探し出して見てもらいたい。そして『都市住宅』についてはあと何を書いたらよいのか、どなたかヒントください。
昨年末ぎりぎりになって、みすず書房からやっと『都市住宅クロニクル』第1、2巻が同時刊行された。1966-2006の40年間にさまざまなメディアに書いてきたさまざまな文章を集めて年代順に並べただけ、「あとがき」を除けばこの本のための書き下ろしは1篇もない。素っ気ないつくりであるがけっこう長丁場だったし、若くはないし、心身の消耗が半端ではなかった。大体、40年前の文章を読み返すことからして健康によくない。
で、この本が月刊『都市住宅』の記録や年代記かというと、違うのである。たしかに『都市住宅』の編集言として書いたものも入ってはいるが、全体の数パーセントにすぎない。といって無関係でもない。他のさまざまの紙誌に書いた対象は『都市住宅』のいわば常連ともいうべき建築家が多いからだ。そして年を追って『都市住宅』後に知った建築家、さらに若い世代にも触れることになるのは当然だが、私がもし『都市住宅』を続けていれば誌面で紹介したにちがいない作家たちである。月刊『都市住宅』とそうした気分を重ね合わせたタイトルは、みすず書房の遠藤敏之さんの案である。ジャケットの呼び込み文には「来たるべき〈都市住宅〉という測鉛に日々生まれ出る同時代の作品群が遭遇した40年間の記録」と簡潔に記されている。私が『都市住宅』の編集に関わっていた期間は、『INAX REPORT』の項にあるとおりで、その後編集長が替わりしばらく続いたあと休刊になった。上の呼び込み文は「しかし」と続けているようにも読める。見えない『都市住宅』は存続して現在に至っている。その誌上で取材が続けられ、編集言が書き継がれてきて、この2分冊の本にまとめられた、そう遠藤さんは私を励ましてくれたのかもしれない。そういうかたちで編集者あるいは読者の方々に教えてもらわないと、何がどういう関係になっているのか自分では分からないのである。
A5判 各472頁の本文は2段組み。第2巻末に建築家索引および設計者別建築索引を付けている。このわずか16頁をつくるのがほんとに大変で、しかし遠藤さんの執念でやりとげた。はじめから全体を設計した論文や建築家の自作解説などと違って、そのときどきの性格の違うメディアに合わせて、330人あまりの建築家とその数倍の作品の名を出して書く、それが40年分脈絡なく続くわけだから、いつもこのインフォメーション・サービスに立ち寄れるようにしておかないと迷い子になってしまう。つくらないわけにはいかなかった。それほど断片的迷路的な本である。
けれども今回の2分冊は、前にやはりみすず書房から出した『集合住宅物語』よりさらに白い造本になり、じつは私にとってはこれがいちばん嬉しいことだった。みすず書房の本は、例えばジャケットは白地を基調として、表1はタイトルも図版も控え目な感じで、いいかえればちょっと古い、というかごくオーソドックスなデザインでまとめられている。どうってことないようにみえるがこの姿勢を長年にわたって崩さなかった結果、今は静かだが強靭な個性になっている。白い背表紙にスミ1色のタイトル文字は、ほかの出版社でもよく使っているが、みすず書房のはそれらと同じようでいて全然違う。これは学生時代から一読者として、少し高め(値段も内容も)に感じられるみすず本を必死で買ってきた経験から断言できる。そして表4はさらに白く、右上に小さい活字で本の内容と著者紹介があるばかり。『集合住宅物語』では表4もカラー写真が使われたので、今回はなんとか本来の、昔ながらのみすず調に近づけてほしいとお願いした結果、内容はとにかく見た目だけは白い本になった。
偶々この1月6日の読売新聞書評欄にニック・レーンの『ミトコンドリアが進歩を決めた』(みすず書房)がとりあげられた際、「『シロ難』(白色の難しい本)と畏れられつつ読者を魅了した」みすずの科学書全般に言及されていた。「シロ難」とは初めて知った呼び名だが、みすず書房の本を敬愛する読者層の厚味にあらためて納得したのである。
2008.1.7日 植田実

都市住宅クロニクル第Ⅰ巻・第Ⅱ巻
著者:植田実
発行日:2007年12月20日
発行所:みすず書房
サイズほか:A5版上製・各472頁、写真・図版、各巻約400点を収録。
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8月末から9月半ばにかけて、この連載の4回分を一挙にまとめて書いたので、すっかり安心していたのが気がついてみればもう12月が終わり、年が改まってしまった。モトのモクアミだ。
1960年から66年まで私が編集スタッフとして在籍していた月刊『建築』の話は前回でお終いにしたので、次の月刊『都市住宅』に移らなければならない。しかもどういうわけか今頃になってこの雑誌についての記事がいくつか書かれ、こちらもそれに大なり小なり付き合ったので、いささか疲れてしまった。そうした記事に触れる機会のあった読者がいるとしたらその皆さんもちょっとうんざりだろうし。
で、とりあえず、これら『都市住宅』関連記事の案内をさせていただく。
まず、前にも紹介された『植田実の編集現場』(ラトルズ、2005)をあらためて挙げておく。
「出版・編集を通して建築文化の普及・啓蒙に貢献してきた実績」により2003年度日本建築学会賞文化賞を受けた記念展を2004年1月に学会博物館・ギャラリーで「『都市住宅』再読・植田実の編集現場」と題して行った。その記録に花田佳明の書き下ろし論文を加えた本である。
展示は、私の関わった『都市住宅』(鹿島出版会 1968-76)全号とその後に企画・編集した単行本シリーズ「住まい学大系」第1期100巻をスタンドで展示し、それらの主な本文ページの拡大コピーを壁一面に張ったもの、さらには現役学生が当時の『都市住宅』を読んで興味を持った住宅作品10点を1/50の模型にしたもの、等々で構成(塚本由晴らによる展示デザイン)されているが、この様子が写真、図面、学生から建築家へのインタヴュー(これがおもしろい)などで本に再現されている。また花田の論文は130ページに及ぶ本格的な論考で、なかでも『都市住宅』については40ページをついやして詳細に論じている。『都市住宅』を知るには格好の資料で、当の私にとっても逆に教えられるところが多かった。



著者:花田佳明、塚本由晴ほか
編集:中野照子+佐藤雅夫/植田実
発行年:2005年
発行者:『植田実の編集現場』出版プロジェクト
発行所:株式会社ラトルズ
サイズほか:21×15cm、200頁
次に『INAX REPORT』第170号(2007 春)がある。この冊子では最近「著書の解題」という特集をシリーズ化して、これまでに磯崎新の『空間へ』、長谷川堯の『神殿か獄舎か』、原広司の『建築に何が可能か』がとりあげられている。毎回、内藤廣による著者へのインタヴュー(冊子の記事としては異例といっていいくらいに長い。内藤さんがしつこく問いつめているのが読みごたえになっている)があり、これに関連する建築を併せて掲げ、何人かのエッセイも加えられている。ようするに1冊の本をとおしてその時代をクローズアップするという、これまでにない企画である。
この第4回目に『都市住宅』がとりあげられ、私が内藤さんと対談している。本でもなく、その著者でもないのだが、雑誌もそれなりに「時代を画した書籍」(対談タイトル)と見なされたのだろう。とはいえ私が編集長だった時期だけでも『都市住宅』本誌・別冊併せて約100冊だからそれなりのヴォリュームはあるし、内藤さんにうまく誘導されて思わぬことまでしゃべらされている。エッセイを寄せているのは読者の立場で渡辺真理さん、レギュラー寄稿者のひとりだった元倉眞琴さん、表紙のデザイナーとしての杉浦康平さんで、それぞれに新しい視点を出して下さっている。『INAX REPORT』の編集は完全主義で知られる森戸野木さんだから、註欄がすごい。そして彼女がこだわった『都市住宅』創刊1968年5月号から私の担当の最終1976年3月号までの全冊と、別冊『住宅第1集』から『住宅第12集』までの表紙をカラーで並べた見開き頁は、はじめて手にした貴重な資料でもある。
A4版23頁にわたる。



もう1冊、エクスナレッジから創刊された『デザイン・アディクト』は最近第2号が出たばかりで、建築を設計現場からリポートするかたちで見たり、海外の新しい傾向を紹介する頁づくりがとても気さくにできているのだが、その親しい印象は建築へのディープなのめり込みにつながっている。たとえば1960-80年代のイタリアの建築状況を『カサベラ』という雑誌を通して詳細に見ていく記事などは、同誌のファンだった私にはありがたい読みものだった。
この記事に続いて「Radical Movement in JAPAN」として『都市住宅』が紹介されている。ここでは私のしゃべったことを再構成しながら、編集部で全体をいくつかの項に分けながらまとめている。当然表紙についての紹介もあるが本文レイアウトへの言及はこれまでもっとも詳しい。私もこのメディアの特性を意識して当時の『都市住宅』レイアウト戦略の一端を話したのだが分かりやすくまとめられているうえにデザイナー・松田行正さんの的確なコメントが付けられ、現在の雑誌デザインの問題意識につなげられている。
A4変形版 10頁

さてこのように書いてきて、妙な気持に襲われた。『INAX REPORT』の見開き頁に『都市住宅』全号の表紙写真が整列した格好よさは、一方で、たったこれだけ?という気持にもつながるのである。数えてみればわずか100点、月刊誌としては大した量じゃない、というようなことではない。美しく整理されすぎたイメージに見える。裏表紙も背表紙もあり、いろいろな記事からなる本文頁があり広告頁もある雑誌の厚み――紙の厚みではない、雑誌をまとめる要素としての厚みがなくなっている。
その意味では『アドディクト』の記事も同じで、ここまで詳しく紹介されたのは初めての企画戦略やレイアウト処理の、『都市住宅』という建物のなかでのあり方が、どこか閑散としているみたいな。
これも解説という整理作業の結果なのだろう。
ところが『編集現場』においては、花田佳明さんの論も分析的であり、雑誌の構成要素を徹底的に整理しているのにかかわらず、雑誌の混沌とした空気がどこかに感じられる。ヴォリュームの違いもあるが、雑誌というのはある局面を図像で抽出することだけでは意外に伝えにくいんだなという気持に襲われた。それだけのことで、いったい何が言いたいのかというと、やはり図書館なり古書店なりで実物を探し出して見てもらいたい。そして『都市住宅』についてはあと何を書いたらよいのか、どなたかヒントください。
昨年末ぎりぎりになって、みすず書房からやっと『都市住宅クロニクル』第1、2巻が同時刊行された。1966-2006の40年間にさまざまなメディアに書いてきたさまざまな文章を集めて年代順に並べただけ、「あとがき」を除けばこの本のための書き下ろしは1篇もない。素っ気ないつくりであるがけっこう長丁場だったし、若くはないし、心身の消耗が半端ではなかった。大体、40年前の文章を読み返すことからして健康によくない。
で、この本が月刊『都市住宅』の記録や年代記かというと、違うのである。たしかに『都市住宅』の編集言として書いたものも入ってはいるが、全体の数パーセントにすぎない。といって無関係でもない。他のさまざまの紙誌に書いた対象は『都市住宅』のいわば常連ともいうべき建築家が多いからだ。そして年を追って『都市住宅』後に知った建築家、さらに若い世代にも触れることになるのは当然だが、私がもし『都市住宅』を続けていれば誌面で紹介したにちがいない作家たちである。月刊『都市住宅』とそうした気分を重ね合わせたタイトルは、みすず書房の遠藤敏之さんの案である。ジャケットの呼び込み文には「来たるべき〈都市住宅〉という測鉛に日々生まれ出る同時代の作品群が遭遇した40年間の記録」と簡潔に記されている。私が『都市住宅』の編集に関わっていた期間は、『INAX REPORT』の項にあるとおりで、その後編集長が替わりしばらく続いたあと休刊になった。上の呼び込み文は「しかし」と続けているようにも読める。見えない『都市住宅』は存続して現在に至っている。その誌上で取材が続けられ、編集言が書き継がれてきて、この2分冊の本にまとめられた、そう遠藤さんは私を励ましてくれたのかもしれない。そういうかたちで編集者あるいは読者の方々に教えてもらわないと、何がどういう関係になっているのか自分では分からないのである。
A5判 各472頁の本文は2段組み。第2巻末に建築家索引および設計者別建築索引を付けている。このわずか16頁をつくるのがほんとに大変で、しかし遠藤さんの執念でやりとげた。はじめから全体を設計した論文や建築家の自作解説などと違って、そのときどきの性格の違うメディアに合わせて、330人あまりの建築家とその数倍の作品の名を出して書く、それが40年分脈絡なく続くわけだから、いつもこのインフォメーション・サービスに立ち寄れるようにしておかないと迷い子になってしまう。つくらないわけにはいかなかった。それほど断片的迷路的な本である。
けれども今回の2分冊は、前にやはりみすず書房から出した『集合住宅物語』よりさらに白い造本になり、じつは私にとってはこれがいちばん嬉しいことだった。みすず書房の本は、例えばジャケットは白地を基調として、表1はタイトルも図版も控え目な感じで、いいかえればちょっと古い、というかごくオーソドックスなデザインでまとめられている。どうってことないようにみえるがこの姿勢を長年にわたって崩さなかった結果、今は静かだが強靭な個性になっている。白い背表紙にスミ1色のタイトル文字は、ほかの出版社でもよく使っているが、みすず書房のはそれらと同じようでいて全然違う。これは学生時代から一読者として、少し高め(値段も内容も)に感じられるみすず本を必死で買ってきた経験から断言できる。そして表4はさらに白く、右上に小さい活字で本の内容と著者紹介があるばかり。『集合住宅物語』では表4もカラー写真が使われたので、今回はなんとか本来の、昔ながらのみすず調に近づけてほしいとお願いした結果、内容はとにかく見た目だけは白い本になった。
偶々この1月6日の読売新聞書評欄にニック・レーンの『ミトコンドリアが進歩を決めた』(みすず書房)がとりあげられた際、「『シロ難』(白色の難しい本)と畏れられつつ読者を魅了した」みすずの科学書全般に言及されていた。「シロ難」とは初めて知った呼び名だが、みすず書房の本を敬愛する読者層の厚味にあらためて納得したのである。
2008.1.7日 植田実
都市住宅クロニクル第Ⅰ巻・第Ⅱ巻
著者:植田実
発行日:2007年12月20日
発行所:みすず書房
サイズほか:A5版上製・各472頁、写真・図版、各巻約400点を収録。
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