マン・レイ展」も今日が最終日です。たくさんの方においでいただき感謝申し上げます。写真担当として、一昨年にはジョック・スタージスの個展を開催し、昨年は植田正治を、そして今年はマン・レイの展覧会を開催することができて、無上の喜びです。これもご来場くださったお客様の声に後押しされてできたもので、重ねて御礼申し上げます。
さて、出品作品のご紹介は、「レイヨグラフ」です。

「レイヨグラフ」は、マン・レイが1921年、印画紙の上にロートなどを置いて灯りを点けてしまったことから偶然発見されたと言われていますが、マン・レイの仕事を語る上で、レイヨグラフを抜きにするわけにはいかない重要な作品群です。このような技法自体はもっと以前からありましたし、同時期にハンガリー出身のモホリ=ナジも「フォトグラム」と名づけた同様の技法で作品を制作しています。そして、日本では瑛九が1936年宮崎から抱えて来たのが「フォトデッサン」です。「フォトデッサン」は、すでに知られていたフォトグラムを瑛九なりに発展させたもので、制作点数は2,000とも3,000とも言われ、未だにはっきり把握されていませんが、世界で最も多く制作したのは間違いないでしょう。
いずれにしても、この技法の最大の特徴は、オリジナルが1点しかないと言うことです。そこで、彼らは、オリジナルを複写して作品集を作成しました。マン・レイは、1922年にレイヨグラフ集『甘味な野』を40部限定で出版しています。その40年後、1963年にも『レイヨグラフ1921-1928』という12点組の作品集を限定20部程度で出版しました。
今回の出品作は、そのどちらでもなく、いろいろと調べては見たものの、いつ、どのようなものとして制作されたものか分かっていません。「レイヨグラフA」と「レイヨグラフB」は、プリントの裏に「EPRUEVE ORIGINALE Atelier Man Ray PARIS」のスタンプがあるので、このスタンプが使われていた1951年からマン・レイの亡くなる1976年までの間に制作されたものと思われます。
manray_rayographieA
レイヨグラフ A」(リプロダクション)
ゼラチンシルバープリント
シートサイズ:16.5×11.7cm
額装サイズ:47.2×39.0cm
裏にスタンプあり。
1923年に制作されたレイヨグラフのリプロダクションです。

manray_rayographieB
レイヨグラフ B」(リプロダクション)
ゼラチンシルバープリント
シートサイズ:16.4×11.9cm
額装サイズ:47.2×39.0cm
裏にスタンプあり。
1928年に制作されたレイヨグラフのリプロダクションです。

「レイヨグラフC」と「レイヨグラフD」は、台紙にプリントが貼り付けられており、台紙に限定番号と「MR」の鉛筆サインが入っています。そのプリントが、見た限りでは写真のプリントのようですが、写っている画像に網点が見えます。つまり、印刷物を写真に撮って貼り付けたように見えるわけです。多分、これも作品集として作られたものと思われますが、出版された時期やいきさつなどは分かっていません。
manray_rayographieC
レイヨグラフ C」(リプロダクション)
シートサイズ:19.5×14.3cm
額装サイズ:48.2×41.4cm
Ed.50 台紙にサインあり。
1922年に制作されたレイヨグラフのリプロダクションです。

manray_rayographieD
レイヨグラフ D」(リプロダクション)
シートサイズ:19.5×14.0cm
額装サイズ:48.2×41.4cm
Ed.50 台紙にサインあり。

普通、こういった作品集を出したりしたことは何かの文献に書いてあるものですが、少なくとも日本語で書かれたものに見出すことができないでいます。マン・レイは、自分の作品が広まることを望んでいたということで、あまり細かいことにはこだわらなかったのかもしれませんが、後世のものには、いささかやっかいな謎解きを遺してくれました。

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