「磯崎新ブックアーカイブスI ― TSUKUBA1983」
会期:2009年10月27日[火]―11月3日[火・祝日]
企画・選書:浜田宏司
新企画「ブックアーカイブス・シリーズ」は、企画ごとに設定されたコンセプトに沿って選書された「書籍アーカイブ」に軸足を置いた企画展で、「書籍アーカイブ」とアート作品を同時に展示・販売します。
第一弾として、磯崎新氏のポスト・モダン(モダニズム)ムーブメント最盛期の代表作「つくばセンタービル」(1983年)に焦点を当て、版画作品〈TSUKUBA〉や旧・筑波第一ホテルで使用されていた倉俣史朗デザインの家具を出品。また、83年以降10年間に出版された著作及び何らかのかたちで作品やテキストが掲載された書籍や雑誌など500冊を展示販売します。それらを通じて、当時の磯崎新の建築及び建築論の変遷を再考する機会を創出します。
一昨日は、磯崎新のシルクスクリーン〈TSUKUBA〉をご紹介しましたが、本日は展示構成の中で重要な位置を占める倉俣史朗のデザインによる「筑波第一ホテル」の家具を紹介したい。
展覧会の主題である「つくばセンタービル(1983年竣工)」は、建築家磯崎新の作品の中でも重要な位置を占めている事は広く知られています。しかし、その建築作品の中で倉俣史朗とのコラボレーションが実現していた事実は、竣工から20数年を経た現在、忘れられようとしています。
今回の展覧会では、「筑波第一ホテル」客室で使用されたオリジナル家具を配置したギャラリー空間内で、つくばセンタービル発表当時の書籍や写真集と共に、倉俣史朗の隠れた名作を堪能いただく機会を提供いたします。
ところで、磯崎新と倉俣史朗の共作とも読み替えることができる貴重な作品「筑波第一ホテル」が、なぜ今回の展覧会に至るまで注目を集める事が無かったのでしょうか?
第一の理由として、ポスト・モダン論争の中心となった「つくばセンタービル」の建築界に及ぼした影響の影で「インテリア」つまり、倉俣史朗のデザイン領域に於ける言及(クレジット表記を除く)がほとんどメディアに露出しなかった事が考えられます。
第二の理由は、90年代のバブル経済の崩壊により、経営母体であった株式会社第一ホテルが2000年5月会社更生法の適用を申請し倒産。その後、株式会社ホテルオークラグループとして経営が変わったものの、ホテル客室及びカフェなどに大規模な改修が行われ、貴重な倉俣史朗デザインによるインテリアが失われてしまった事が、この作品を歴史の闇に葬り去る事を決定付けました。
しかし、近年デザイン領域に於けるマーケットの拡大を受け、倉俣史朗の作品に対して注目が集まっています。雑誌での特集記事や作品掲載をはじめ、今年に入ってから都内のギャラリーで二度の展覧会が開催されています。その中でも今回の展覧会は、建築界とデザイン界を代表する作家の競演をコンセプトに展示構成された異色の展覧会であると自負しております。
展示される作品は大きく分けて三つの構成になっています。
・ブックアーカイブ:「TSUKUBA1983」
・倉俣史朗:「筑波第一ホテル」で使用された家具(椅子・鏡・ライティングデスク)
・磯崎新:「版画・レリーフ作品・モンローチェア」
先ずは、「椅子(ソファー)」をご紹介しましょう。

倉俣史朗「椅子」
1983年
H70.0×W69.0×D73.0cm
当時の雑誌『新建築』1983年11月号には、竣工当初の「筑波第一ホテル」の客室が紹介されており、倉俣史朗デザインの家具がどのように配置されていたかよくわかります。




倉俣史朗の作品のマテリアルと言えば、ガラス、アルミ、アクリルなど工業的な素材使いが印象に残る。しかし、今回出品されている三つの作品に共通する事だが、木肌を生かした素材の使い方が新鮮に感じられる。
先に紹介した今年5月に開催された展覧会に出品された倉俣史朗初期の個人住宅作品に於いても「木肌」を生かした素材使いの家具が出品されていた。商業空間では時代の最先端を走る素材を投入し続けたデザイン界のパイオニアも、居住空間に於いては安心できるナチュラルな素材を選定していた事実は、倉俣史朗に対する新しい視点を与えていると評価できる。
『磯崎 新のディテール』(1987年彰国社/絶版)に次のような一節がある。
「ホテルの客室には規制のスタイルの踏襲が条件とされ、逸脱は困難であった。したがって今回はその範囲内で幾つかの提案が行われた。」(P72ー渡辺誠)
デザインの命題としてある、オーセンティックなホテルの客室に使用されている素材・仕上「木目やファブリック」を使用しつつも、デザインも追随しないところが倉俣史朗の仕事の本質だと感じるディテールがこの椅子に凝縮されている。
例えば、椅子を構成する「アーム」そして「シート」を視覚的に分離させている。左右のアームと連結して座面を支持する部材をファブリック内に隠蔽する事で浮遊感を感じさせる「軽い」デザインになっている。
その軽さは、ソファーのアームが曲線を描いて床面を支える構成材のジョイント部分の詳細からも読み取ることができる。横から見た場合まるで接着したかのような軽い仕上げの裏には、細かい細工がなされています。縦のアームの接続部分を欠き込んでビス止めを床面の部材から施す事で正面に継ぎ目やビス穴の跡を残さない細工が成されている。
何気ないディテールの中に倉俣史朗の美学が垣間みることができる作品と言う事ができるだろう。
◆ときの忘れものは、2009年10月27日[火]―11月3日[火・祝日]まで会期中無休で、「磯崎新ブックアーカイブスI ― TSUKUBA1983」を開催しています。
DMに掲載されている、磯崎新の版画、関連書籍、倉俣史朗の椅子、テーブルなど全て販売しますので、ぜひこの機会にコレクションしてください。書籍500冊については、出品リストはありません。直接会場に来てご注文ください。






会期:2009年10月27日[火]―11月3日[火・祝日]
企画・選書:浜田宏司
新企画「ブックアーカイブス・シリーズ」は、企画ごとに設定されたコンセプトに沿って選書された「書籍アーカイブ」に軸足を置いた企画展で、「書籍アーカイブ」とアート作品を同時に展示・販売します。第一弾として、磯崎新氏のポスト・モダン(モダニズム)ムーブメント最盛期の代表作「つくばセンタービル」(1983年)に焦点を当て、版画作品〈TSUKUBA〉や旧・筑波第一ホテルで使用されていた倉俣史朗デザインの家具を出品。また、83年以降10年間に出版された著作及び何らかのかたちで作品やテキストが掲載された書籍や雑誌など500冊を展示販売します。それらを通じて、当時の磯崎新の建築及び建築論の変遷を再考する機会を創出します。
一昨日は、磯崎新のシルクスクリーン〈TSUKUBA〉をご紹介しましたが、本日は展示構成の中で重要な位置を占める倉俣史朗のデザインによる「筑波第一ホテル」の家具を紹介したい。
展覧会の主題である「つくばセンタービル(1983年竣工)」は、建築家磯崎新の作品の中でも重要な位置を占めている事は広く知られています。しかし、その建築作品の中で倉俣史朗とのコラボレーションが実現していた事実は、竣工から20数年を経た現在、忘れられようとしています。
今回の展覧会では、「筑波第一ホテル」客室で使用されたオリジナル家具を配置したギャラリー空間内で、つくばセンタービル発表当時の書籍や写真集と共に、倉俣史朗の隠れた名作を堪能いただく機会を提供いたします。
ところで、磯崎新と倉俣史朗の共作とも読み替えることができる貴重な作品「筑波第一ホテル」が、なぜ今回の展覧会に至るまで注目を集める事が無かったのでしょうか?
第一の理由として、ポスト・モダン論争の中心となった「つくばセンタービル」の建築界に及ぼした影響の影で「インテリア」つまり、倉俣史朗のデザイン領域に於ける言及(クレジット表記を除く)がほとんどメディアに露出しなかった事が考えられます。
第二の理由は、90年代のバブル経済の崩壊により、経営母体であった株式会社第一ホテルが2000年5月会社更生法の適用を申請し倒産。その後、株式会社ホテルオークラグループとして経営が変わったものの、ホテル客室及びカフェなどに大規模な改修が行われ、貴重な倉俣史朗デザインによるインテリアが失われてしまった事が、この作品を歴史の闇に葬り去る事を決定付けました。
しかし、近年デザイン領域に於けるマーケットの拡大を受け、倉俣史朗の作品に対して注目が集まっています。雑誌での特集記事や作品掲載をはじめ、今年に入ってから都内のギャラリーで二度の展覧会が開催されています。その中でも今回の展覧会は、建築界とデザイン界を代表する作家の競演をコンセプトに展示構成された異色の展覧会であると自負しております。
展示される作品は大きく分けて三つの構成になっています。
・ブックアーカイブ:「TSUKUBA1983」
・倉俣史朗:「筑波第一ホテル」で使用された家具(椅子・鏡・ライティングデスク)
・磯崎新:「版画・レリーフ作品・モンローチェア」
先ずは、「椅子(ソファー)」をご紹介しましょう。

倉俣史朗「椅子」
1983年
H70.0×W69.0×D73.0cm
当時の雑誌『新建築』1983年11月号には、竣工当初の「筑波第一ホテル」の客室が紹介されており、倉俣史朗デザインの家具がどのように配置されていたかよくわかります。




倉俣史朗の作品のマテリアルと言えば、ガラス、アルミ、アクリルなど工業的な素材使いが印象に残る。しかし、今回出品されている三つの作品に共通する事だが、木肌を生かした素材の使い方が新鮮に感じられる。
先に紹介した今年5月に開催された展覧会に出品された倉俣史朗初期の個人住宅作品に於いても「木肌」を生かした素材使いの家具が出品されていた。商業空間では時代の最先端を走る素材を投入し続けたデザイン界のパイオニアも、居住空間に於いては安心できるナチュラルな素材を選定していた事実は、倉俣史朗に対する新しい視点を与えていると評価できる。
『磯崎 新のディテール』(1987年彰国社/絶版)に次のような一節がある。
「ホテルの客室には規制のスタイルの踏襲が条件とされ、逸脱は困難であった。したがって今回はその範囲内で幾つかの提案が行われた。」(P72ー渡辺誠)
デザインの命題としてある、オーセンティックなホテルの客室に使用されている素材・仕上「木目やファブリック」を使用しつつも、デザインも追随しないところが倉俣史朗の仕事の本質だと感じるディテールがこの椅子に凝縮されている。
例えば、椅子を構成する「アーム」そして「シート」を視覚的に分離させている。左右のアームと連結して座面を支持する部材をファブリック内に隠蔽する事で浮遊感を感じさせる「軽い」デザインになっている。
その軽さは、ソファーのアームが曲線を描いて床面を支える構成材のジョイント部分の詳細からも読み取ることができる。横から見た場合まるで接着したかのような軽い仕上げの裏には、細かい細工がなされています。縦のアームの接続部分を欠き込んでビス止めを床面の部材から施す事で正面に継ぎ目やビス穴の跡を残さない細工が成されている。
何気ないディテールの中に倉俣史朗の美学が垣間みることができる作品と言う事ができるだろう。
◆ときの忘れものは、2009年10月27日[火]―11月3日[火・祝日]まで会期中無休で、「磯崎新ブックアーカイブスI ― TSUKUBA1983」を開催しています。
DMに掲載されている、磯崎新の版画、関連書籍、倉俣史朗の椅子、テーブルなど全て販売しますので、ぜひこの機会にコレクションしてください。書籍500冊については、出品リストはありません。直接会場に来てご注文ください。





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