筑波大学で瑛九他「頌詩 6作家13点の絵」展

大学と美術館はともに研究機関ではありますが、美術作品の研究を深めるために必須の実物の作品がつねに研究者の傍らにある、という条件についていえば圧倒的に美術館が有利だった、と無責任な外野は思っていました。
もっとも「実物が傍らにある」という点でいえば、美術館よりわれわれ画商の方が上です。
画商は新作から古い作品まで、常に作品を買い集めています。
実物に触っているということでは、オークション会社と画商が双璧でしょう。

それはともかく、大学の研究者は(比較的)時間はあるが、実物の作品に触れる機会は少ない。
対して美術館の学芸員は作品に触る機会は多いが、研究を深めきちんとした論文を書く、と言う点ではあまりに雑用が多くてままならない。
こういう見方はそう的外れではないと思います。

ところが最近面白い状況になってきました。
大学が自前の美術館やギャラリーをつくったり、コレクターが美術館ではなく大学に作品を寄贈し始めたんですね。
慶應大学の瀧口修造アーカイヴはよく知られています。
わが瑛九のいまや一大研究拠点は筑波大学であります。
ここには先年、図書館流通センターの社長だった石井昭氏が自ら蒐集された絵画・工芸あわせて200点余りを寄贈されました。その概要は先日このブログでもご紹介しましたが、筑波大学はそれを死蔵することなく、学内のギャラリーで展示し、教師や院生たちによってさまざまな角度から寄贈作品を研究し、その成果をワークショップや刊行物によって公開しています。
それは何も偶然そうなったわけではなく、もともとは美術館学芸員だった五十殿利治教授の熱意ある尽力によって展開されています。
瑛九について言えば、「石井コレクション・瑛九作品をめぐるワークショップ」を2010年1月に開催し、学外からも研究者や編集者を招き公開討論の場を設け、その成果を『石井コレクション研究1:瑛九』として発刊しています。

先日、筑波大学から下記の案内が送られてきました。
---------------------------------
謹啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
 このたび、筑波大学芸術系「A.R.T.(Art Resources in Tsukuba)プロジェクト」研究グループは、本学大学会館内アートスペースにおいて、「筑波大学所蔵 石井コレクション特集展示:頌詩」を開催いたします。
 石井コレクションの絵画は、いわゆる「画壇」に帰属せずに活動しながら、日本の近・現代の美術史に確固たる位置づけを得ている作家たちの作品が多い点に、ひとつの特長があります。本展覧会では、そうした作品のうち、中村忠二、斉藤義重、難波田龍起、瑛九、山田正亮、小林孝亘という6人の作家たちによる13点の絵画をご紹介いたします。
                謹白
2012年3月
       筑波大学芸術系
       A.R.T.プロジェクト研究グループ

筑波大学所蔵 石井コレクション 特集展示
頌詩 6作家13点の絵

2012年3月6日(火)~3月25日(日)
筑波大学 大学会館 アートスペース
午前9時~午後5時
月曜日休館/入場無料
主催 筑波大学芸術系「A.R.T.(Art Resources in Tsukuba)プロジェクト
http://www.art.tsukuba.ac.jp
----------------------------------------------

毎年、多くの作家(やご遺族)、コレクターの方々が美術館に作品寄贈をされています。
しかし、寄贈した当初はお披露目展がされるけれど、その後は収蔵庫に眠ったままという作品も少なくない。
ある美術館に伺ったところ、寄贈作品が何組もあり、同じものは10年間は出せない、ということでした。お役所の表面的な平等主義がこういう内規をつくってしまうのでしょう。
筑波大学は他の美術館への貸し出しも積極的に行なっていて、美術作品の保存、研究、公開のモデルケースにもなりうる好例となっています。
将来、あなたが作品をもし寄贈するのならば(本当はその前に私たち画商に売って欲しんですけれど)大学というのが選択肢としてありますね。
瑛九地表
瑛九「地表」油彩
筑波大学・石井コレクションより

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー