小林美香のエッセイ「写真のバックストーリー」第12回
ルディ・バークハート Rudy BURCKHARDT「"Eagle" Barber Shop Window, New York City 」

(図1)ルディ・バークハート Rudy BURCKHARDT
"Eagle" Barber Shop Window, New York City (1939)
ゼラチンシルバープリント
24.0×32.0cm
Ed.75 サインあり

(図2)ルディ・バークハート 『New York, N. Why?』(1940)の掲載ページ
真正面から捉えられた理髪店のショーウィンドウ。ウィンドウに掲出された広告や料金表と共に、ストライプのサインポールが眼を引きます。この写真は、1935年にスイスからニューヨークに移住した写真家、映像作家のルディ・バークハート(Rudy Burckhardt, 1914−1999)が30年代後半にニューヨークの街中を歩きながら撮影したものであり、彼は後に写真をまとめてアルバム『New York, N. Why?』(1940)(図2)を制作しました。
バークハルトと同じ時期にニューヨークを撮影するプロジェクトに取り組み、後に写真集『Changing New York(変わりゆくニューヨーク)』(1939)を刊行したベレニス・アボット(Berenice Abbott, 1898-1991)の写真の中にも、理髪店の店先をとらえたものが数点あります。(図3,4)ストライプの模様は、ウィンドウに描かれたメニューや看板、店の名前の文字とともに、写真の中で白黒のコントラストになり、街の喧騒や活気を視覚的に伝える要素になっています。理髪店のストライプを視覚的な効果として引き出したものとして、ウォーカー・エヴァンズがニュー・オーリンズで撮影した理髪店の写真(図5)を挙げることもできるでしょう。


(図3)ベレニス・アボット Tri-Boro Barber School (c.1930)
(図4)ベレニス・アボット Blossom Restaurant; 103 Bowery (1935)

(図5)ウォーカー・エヴァンズ Barber Shop, New Orleans, (1935)


(図6)アカンサス葉飾りの周り縁がある建物の戸口
(図7)サインポールのある理髪店の入口と、ウィンドウの中の映画館ポスター
写真展「New York, N. Why? Photographs by Rudy Burckhardt, 1937–1940」(メトロポリタン美術館、2008.9.23−2009.1.4)で紹介された写真とアルバムを通覧してみると、バークハートは建造物の柱や壁面、看板や広告などを至近距離から精緻にとらえ、それらのかたちや継ぎ目、重なり合い、文字や模様などのディテールを用いて画面構成をしているのを見て取ることができます(図6,7)。また、アルバムの中には、歩行者を建物や広告を背景にして、歩道の脇から撮った写真や(図8,9)、歩行者の足元を撮った写真(図10)を組み合わせたページも作られています。建造物や広告のディテールを捉えた写真が、被写体の垂直や水平線を厳密に画面の中に収めているのに対して、歩行者を捉えた写真は、さまざまな角度から撮られ、画面がブレたりピントがあっていない部分もあるために、路上の雑踏の中に身を置きながら、歩きながら写真を撮っているバークハートの身体感覚が直接的に伝わってきます。

(図8)理髪店の前を通り過ぎる男性


(図9)新聞を読む男性と店頭を通り過ぎる男性
(図10) 歩道の脇を横切る二人の女性の脚
人々の動作のような動的な状況を断片的に捉える視点と、建造物のディテールを注視するような静止的な視点を混ぜ合わせるようにして写真を組み合わせたり、シークエンスを作ったりするアルバムの編集方法は、バークハートがニューヨークに移住した後に映画の制作を始めたことにも裏打ちされていると言えるでしょう。アルバムの中には、(図2)、(図7)、(図8)のほかにも、理髪店のサインポールが捉えられた写真が何点か収められ、時折現れるストライプの模様がアルバムの中で目印のようにも見えてきます。ニューヨークの街を歩くバークハートにとって、サインポールの形や模様は、周囲の環境や歩行者との関係の中でたえず注意を惹きつけられる存在だったのではないでしょうか。
(こばやしみか)
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ルディ・バークハート Rudy BURCKHARDT「"Eagle" Barber Shop Window, New York City 」

(図1)ルディ・バークハート Rudy BURCKHARDT
"Eagle" Barber Shop Window, New York City (1939)
ゼラチンシルバープリント
24.0×32.0cm
Ed.75 サインあり

(図2)ルディ・バークハート 『New York, N. Why?』(1940)の掲載ページ
真正面から捉えられた理髪店のショーウィンドウ。ウィンドウに掲出された広告や料金表と共に、ストライプのサインポールが眼を引きます。この写真は、1935年にスイスからニューヨークに移住した写真家、映像作家のルディ・バークハート(Rudy Burckhardt, 1914−1999)が30年代後半にニューヨークの街中を歩きながら撮影したものであり、彼は後に写真をまとめてアルバム『New York, N. Why?』(1940)(図2)を制作しました。
バークハルトと同じ時期にニューヨークを撮影するプロジェクトに取り組み、後に写真集『Changing New York(変わりゆくニューヨーク)』(1939)を刊行したベレニス・アボット(Berenice Abbott, 1898-1991)の写真の中にも、理髪店の店先をとらえたものが数点あります。(図3,4)ストライプの模様は、ウィンドウに描かれたメニューや看板、店の名前の文字とともに、写真の中で白黒のコントラストになり、街の喧騒や活気を視覚的に伝える要素になっています。理髪店のストライプを視覚的な効果として引き出したものとして、ウォーカー・エヴァンズがニュー・オーリンズで撮影した理髪店の写真(図5)を挙げることもできるでしょう。


(図3)ベレニス・アボット Tri-Boro Barber School (c.1930)
(図4)ベレニス・アボット Blossom Restaurant; 103 Bowery (1935)

(図5)ウォーカー・エヴァンズ Barber Shop, New Orleans, (1935)


(図6)アカンサス葉飾りの周り縁がある建物の戸口
(図7)サインポールのある理髪店の入口と、ウィンドウの中の映画館ポスター
写真展「New York, N. Why? Photographs by Rudy Burckhardt, 1937–1940」(メトロポリタン美術館、2008.9.23−2009.1.4)で紹介された写真とアルバムを通覧してみると、バークハートは建造物の柱や壁面、看板や広告などを至近距離から精緻にとらえ、それらのかたちや継ぎ目、重なり合い、文字や模様などのディテールを用いて画面構成をしているのを見て取ることができます(図6,7)。また、アルバムの中には、歩行者を建物や広告を背景にして、歩道の脇から撮った写真や(図8,9)、歩行者の足元を撮った写真(図10)を組み合わせたページも作られています。建造物や広告のディテールを捉えた写真が、被写体の垂直や水平線を厳密に画面の中に収めているのに対して、歩行者を捉えた写真は、さまざまな角度から撮られ、画面がブレたりピントがあっていない部分もあるために、路上の雑踏の中に身を置きながら、歩きながら写真を撮っているバークハートの身体感覚が直接的に伝わってきます。

(図8)理髪店の前を通り過ぎる男性


(図9)新聞を読む男性と店頭を通り過ぎる男性
(図10) 歩道の脇を横切る二人の女性の脚
人々の動作のような動的な状況を断片的に捉える視点と、建造物のディテールを注視するような静止的な視点を混ぜ合わせるようにして写真を組み合わせたり、シークエンスを作ったりするアルバムの編集方法は、バークハートがニューヨークに移住した後に映画の制作を始めたことにも裏打ちされていると言えるでしょう。アルバムの中には、(図2)、(図7)、(図8)のほかにも、理髪店のサインポールが捉えられた写真が何点か収められ、時折現れるストライプの模様がアルバムの中で目印のようにも見えてきます。ニューヨークの街を歩くバークハートにとって、サインポールの形や模様は、周囲の環境や歩行者との関係の中でたえず注意を惹きつけられる存在だったのではないでしょうか。
(こばやしみか)
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