◆銀塩写真の魅力 IV展の出品作品を順次ご紹介しています。
今日は、ロバート・メープルソープ 〈X -Portfolio〉 の "Helmut"です。
1988年ニューヨークのホイットニー美術館で写真家としては初の大規模な回顧展が開催されたメープルソープですが、その翌1989年に僅か42歳で死去しました。
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ロバート・メープルソープ Robert MAPPLETHORPE
〈X -Portfolio〉 より "Helmut"
1978年
ゼラチンシルバープリント・ドライマウント
19.5cm×19.5cm
Ed.25 signed

カメラに背を向け、頭を下げてしゃがみ込む筋骨隆々とした男性。
この写真については、小林美香さんのエッセイ「写真のバックストーリー」の第15回で取り上げてくださっているので、ぜひお読みいただきたいのですが、ロバート・メープルソープ(Robert Mapplethorpe, 1946-1989)が1978年に発表した「X Portfolio」の中に収録されたゲイ男性同士のSM行為をとらえた写真を中心とする13枚の連作の中の一点です。

先日、画廊で個展を開催中のレスリー・キーさんが逮捕されるという事件がありましたが、ロバート・メイプルソープの写真集「MAPPLETHORPE」についても同じようなことがありました。
メイプルソープの死後、1992年に米国で出版され、1994年にはその日本語版が出版されますが、被写体の男性が性器を直接、露出した状態の写真が掲載されていたことから「わいせつ図画」に当たると判断され、出版社と国とが裁判で争いました。
一審・東京地裁判決では「既に日本国内で流通し、芸術作品として評価されているものでありわいせつ図画には該当しない」と処分の取り消しと約70万円の損害賠償を国側に命じる判決が下されました。
二審・東京高裁判決は逆に一審・東京地裁判決を取り消し税関の処分を妥当とする判決を下しました。出版社社長はこの判決を不服として最高裁判所へ上告します。
2008年2月19日、最高裁第三小法廷は、二審・東京高裁判決を破棄したうえで、日本国内への持ち込みを禁じた税関の処分取り消しを命じ、国側敗訴が確定。下級審におけるわいせつ物認定が最高裁で取り消された画期的な判決でした。

<メープルソープの活動は、1960年代末から展開していった同性愛者の権利獲得を目指す同性愛解放運動(ゲイリブ運動)やポルノグラフィの解禁といったような社会的潮流を背景にしています。彼の作品は、それ以前は禁止され、秘匿されていた同性愛という主題が、徐々に社会の中で認知され、可視化されるようになっていく過程の指標として大きな位置を占めています。(小林美香)>

過激な写真でセンセーションをまきおこしたメイプルソープですが、一方では厳密な構図によって表現された「花」の連作を1970年代から撮り続けました。
ちょうど今、池袋西武でメイプルソープの花の写真展が開催されています。
インフルエンザからようやく回復した亭主は昨日出勤前の時間を縫って見てきました。
真っ黒な壁面に浮かび上がる100点あまりの花、花、花。
切ないまでに研ぎ澄まされた美意識がみなぎる素晴らしい作品群です。
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ロバート・メイプルソープ flowers写真展
会期:2013年2月1日(金)~14日(木)
会場:別館2階=西武ギャラリー
入場料:一般・大学生500円(高校生以下無料)

■ロバート・メープルソープ Robert MAPPLETHORPE
1946年ニューヨーク生まれの写真家。17歳から24歳までブルックリンのプラット・インスティテュートでグラフィックアート、絵画、彫刻を学ぶ。在学中、詩人で歌手のパティ・スミスと知り合い共同生活を開始。やがてニューヨークで映画と写真を撮り始める。その後、美術コレクターのサム・ウォグスタッフに見出され、強力な後ろ楯を得て写真界の異端児として登場することになる。花などのスティルライフ、ヌード、セルフポートレイトなどを制作。モノクロ写真が有名。1988年にはニューヨークのホイットニー美術館で写真家としては初めて大規模な回顧展が開催。1989年に42歳で死去。日本では1992年に東京都庭園美術館、水戸芸術館などで回顧展が巡回開催されている。

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◆ときの忘れものは、2013年2月8日[金]―2月16日[土]「銀塩写真の魅力 IV展」を開催しています。
魔方陣
銀塩写真のモノクロームプリントの持つ豊かな表現力と創造性をご覧いただくシリーズも4回目を迎えました。
本展では植田正治細江英公五味彬大竹昭子、佐藤理、北井一夫村越としやエドワード・スタイケンロベール・ドアノーアンリ・カルティエ=ブレッソンロバート・メープルソープウィン・バロックジョック・スタージスらのモノクローム作品約20点をご覧いただきます。