<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第5回

武田花「道端に光線より その3」
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とてもヘンな写真である。
はじめて見たときからそう感じていたが、たったいま、そのわけがわかった。
ほとんど直線でできた風景なのである。

窓枠と、そこに嵌まったガラスを仕切る桟。
軒下に顔を出している幌の縦縞模様、庇の上に乗っかっている四角い看板。
二等辺三角の屋根、それを縦に区切っているライン。
空に走っている電線とて、例外ではない。

視線を道路に移しても事態は変わらない。
横断歩道に引かれた六本の白いライン。
手前に側溝があるが、そこには格子状の網がかぶさっている。
格子模様はその横のコンクリートの蓋にも連続している。
徹底した直線攻めである。

なかでも極めつきは、画面中央の机と椅子だろう。
直線の国の主人公のように、ど真ん中に突っ立っている。
机の天板はビニールクロスで覆われているが、その模様が格子縞なのは、いうまでもない。

机の脚は長い(もちろん直線)。ふつうよりだいぶ高さがあるが、どういう机だろう。
それに比べて椅子の脚は極端なほど短い。
ここに座って机の上のプリンを食べるシーンを想像する。
腕を延ばして器に届かせる。
プリンをスプーンにのせ、口に運ぼうとした瞬間、するっと滑って膝の上に落下する。
ぶざまなこと、この上ない。ほとほと釣り合いの悪いペアである。

にもかかわらず、ふたりの間には仲のよさそうな気配が漂っている。
机は鷹揚でおとなしく、椅子はやんちゃだ。上によじのぼられても、机は嫌な顔ひとつしない。
それどころか、みずから進んでチビの椅子を肩車してあげたりする。
どうだい、見えるかい?

直線の国の微笑ましくも心あたたまる風景。

ただひとり、直線のなかに紛れ込んでしまったのは、看板のなかのコカコーラ氏だ。
ひらめくリボンような曲線文字が異様である。
直線の国に不法侵入したにちがいない。

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●紹介作品データ:
武田花
〈道端に光線〉より その3
2007年撮影(2010年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:22.8x15.1cm
シートサイズ:25.4x20.3cm
※フォトエッセイ集『道端に光線』(中央公論新社刊)所収

武田花 Hana TAKEDA(1945-)
1951年東京都に生まれる。
1990年写真展「眠そうな町」で、木村伊兵衛賞受賞。写真集に、「猫・陽のあたる場所」「シーサイドバウンド」など。
フォトエッセイ集に、「煙突やニワトリ」「イカ干しは日向の匂い」「猫と花」「道端に光線」などがある。

 ・大竹昭子さんのエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。